27歳、処女 〜みられて濡れて〜【完結】R18

月村 未来(つきむら みらい)

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最終章 はじめての日

最終話 あやと、あやちゃん







ケイの腕の中で、あやは静かに息を整えていた。
お互いの鼓動が、胸の奥でゆっくりと打ち合っている。
あれだけ激しく求め合った直後なのに、身体のどこかにまだ残っている熱が、じんわりと広がっていた。

「……大丈夫?」

低く優しい声が耳元に落ちる。
髪をなでる指が、あたたかくて、優しくて──。

「痛くない?どこか、つらくない?」

「……ううん。
ちょっと、まだどきどきしてるだけ……」


目を閉じると、あの瞬間が身体の奥にゆっくりと波紋のように広がっていく。
自分で触れていたときとは、まるで違う。
ケイの体温も、声も、すべてが溶け合って……。

(……ぜんぶ、ケイくんだった……)

思い出すたび、胸がきゅうっとなる。
なんでこんなに幸せなんだろう。
なんでこんなに、切ないくらい好きなんだろう。



「……あやちゃんが、俺のこと受け止めてくれて、すっごく嬉しかった」

ケイの声が、そっと重なってきた。
ただの優しさじゃない。
この瞬間を大切に想ってくれているんだと、あやは感じた。

(……ほんとに、ちゃんとできて……よかった……)

肩にそっと額を預ける。
鼓動はまだ落ち着かないけれど、それでも包まれているこの静けさが心地よかった。

ふと、ケイの指があやの髪をなでる。
その、なんてことない仕草がたまらなくやさしくて──
あやの胸の奥が、またきゅうっとなった。



「……ほんとに、すごく、かわいかったよ、あやちゃん」

ぽつんと、ケイの声が落ちる。

あやは反射的に、ぎゅっとシーツを握りしめた。

(言わないでよ……そんなの……)

「全部……俺だけのあやちゃんだった。
ほんとに」

肩が震えそうになって、あやはケイの胸のほうへ顔をすり寄せた。


「……だめ……もう、やめて……」

「なんで?」

「……だって、そんなふうに言われたこと、ない、もん……」

声が震えて、涙が出そうになるのをごまかすように、胸に顔を埋めた。
そして、小さな声でこぼれてしまった。


「……ねぇ、ケイくん……ぎゅって、して?」


一瞬きょとんとしたあと、彼は「いいよ」と優しく腕を回してくれた。
強く抱きしめられると、心の奥にこびりついていた冷たいものが、じんわり溶けていくようで――。

しばらくそのまま目を閉じて、彼の体温に包まれていた。
けれど、やがて自分から少しだけ身体を離して、彼を見上げる。



「……あのね」

視線を泳がせながら、唇を噛む。

「ほんとはずっと……コンプレックスだったの」

ケイは腕を緩めずに、真剣な顔でこちらを見ていた。

「……どうしたの?」

まるで続きを促すように、低く優しい声で――。


「高校のときに少しだけ付き合った先輩以来、好きになってもらっても……なかなか進めなくて。
だから彼氏もできなくて……気づけば、27まで……この年まで処女のままなんて思ってなくて……」


声が震え、とうとう涙が頬を伝った。
指で拭うのが間に合わないほど、奥からあふれて止まらない。


「恥ずかしくて、言えなかったし……自分でも見ないふりしてた。
……ずっと、怖かった……」

「でもね、ケイくんに出会って……“好きだ”って言ってくれて、わたしの心に、ちゃんと触れようとしてくれて……」

「今日、ほんとうに……恥ずかしくて、怖くて……でも、嬉しくて……もう、死んじゃうかと思った……」


涙混じりに、すこし笑った。

「……ごめん、泣いたりして。
やっと言えたから、なのかも」

ケイは、何も言わなかった。
けれどその瞳は、あやから逸らさず、痛いほどまっすぐに見てくれていた。

そして、あやの髪に指を滑らせながら──


「……俺は嬉しいよ。あやちゃんが全部、話してくれたことも……俺に任せてくれたことも」

低く落ち着いた声が耳元に落ちる。
胸の奥にじんわりと沁み込んで、涙の余韻がやわらかく溶けていった。

「それに、今日のあやちゃん……全然そんなふうに見えなかったよ」

「……え?」

ケイは視線を逸らさず、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

「がんばってくれたのもわかってたけど……
感じてる顔とか、声とか……全部、綺麗だった」

一瞬の沈黙をはさんで、低く掠れた声が続く。

「……惚れ直した」

その言葉が、胸にまっすぐに落ちてきて、息が詰まる。
熱くなった頬を隠すように、あやは小さく目を伏せた。

(……そんなふうに言われたら……)

胸の奥がきゅうっとして、黙っていられなくなる。
指先で涙をぬぐいながら、ふっと笑みがこぼれてしまった。
泣いているのに笑っている――心の氷が溶けていくみたいに。

「……やだ、もう……」

かすかに震える声で、あやは口を開く。
ケイの胸に頬を寄せたまま、しばらく言葉を探して――
ふっと、思い出したように小さくつぶやいた。

「ねぇ、ケイくん……さっきまで“あや”って呼んでたのに……終わったらまた“あやちゃん”に戻ったね」

頬がじんわり熱くなり、胸の奥がくすぐったくなる。

「……ちょっと、ドキッとしちゃった」

ケイが優しく息を吐いて、柔らかい笑みを浮かべた。

「そう?無意識だったけど……でも、“あやちゃん”って呼ぶのが一番落ち着くんだ」

その言葉に、あやの胸はきゅっと締めつけられて、もっともっと甘く包まれたい気持ちが湧き上がった。

「……じゃああの“あや”は、すごく特別な呼び方ってこと?」

小さな声で呟くあやに、ケイはそっと髪を撫でながら囁いた。

「そうだよ。
あの瞬間だけの、あやちゃんだけの呼び方だ」


目を合わせると、ケイの瞳が優しく揺れていて、あやは照れくさくなって顔をうつむける。


「じゃあ……また、も“あや”って呼んでくれる?」


小さく問いかける声には、期待と少しの恥じらいが混じっていた。


(“また、しようね”っていう意味も、わかって……)


ケイはその言葉に笑みを深めて、甘く答えた。


「もちろんだよ……。
次もちゃんと……“あや”って呼ぶから」


あやの胸が高鳴り、身体の奥からじんわりと温かさが広がっていった。

こんなにも愛されていると感じる瞬間が、何よりの宝物だとあやには感じられた。


――ケイくんとしたことも、わたしの気持ちを受け止めてもらえたことも、抱きしめてくれたことも。
全部、全部……わたしの宝物。


「……これからも……よろしくね、ケイくん」


小さな声でそう告げると、ケイの腕がさらに強く、優しくあやを包み込む。
窓の外に広がる夜は静かで、二人の未来をそっと見守っているようだった。


あやの胸には、確かな温もりと、これからを生きていくための光が宿っていた。








  
        ~ 【完】 ~






→あとがきに続く

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