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第五章 危険なショット対決
44話 大事にするけど、全部ほしい
日が暮れはじめた道。
空にはまだうっすら青が残り、街灯がぽつぽつ灯りはじめている。
オフィス街を抜けたあとの少しひんやりした風が、仕事帰りの熱を冷ましてくれるようで、二人の距離が自然と近づいた。
「おつかれさま~」
肩を落としながら笑うあやに、ケイも軽く頷く。
「お疲れ」
「……1週間、長かったぁ~」
思わずこぼれた声に、ケイがくすっと笑う。
「俺は今週、あやちゃんとのショット対決を楽しみに頑張ったわ」
その冗談めいた言葉に、あやは吹き出してしまう。
疲れが溶けていくようで、笑いながら顔を見合わせた。
「あのさ、ケイくん、今朝ね……」
あやが話しかけると、ケイがちらっと顔を向ける。
「ん?」
「お母さんに……遂に聞かれたんだ。
“いい人できたの?”って」
「……で、なんて答えたの?」
「……うん、って」
口にするだけで、また胸がふわりと温かくなる。
ケイはふっと息を漏らし、優しい声で返した。
「そっか……。まぁ心配だよな。
大事な娘だし、ずっと一緒にいたわけだし」
ぽつりとこぼれるその言葉に、あやの胸の奥がじんとした。
「安心してもらえるように、ちゃんとするよ」
その声はまっすぐで、照れくさくなるほどだった。
けれど、その直後。
「……でも、今日酒めちゃくちゃ飲ますけどな、俺」
「ちょっ……もう~!」
あやは思わず笑いながら、ケイの腕を小突く。
なのにそのあと、わざとらしく低い声で、さらにひとこと。
「……しかもそのあと、裸にもするかも……?」
「……っ……!ばかっ……!」
顔が一気に熱くなり、あやは思わず下を向いた。
でも、くすっと笑うケイの声が耳に届き、その笑い声に胸の奥がくすぐられる。
「……もう、知らない」
そう呟きながらも、心臓はどくどくと高鳴っていた。
そのまましばらく歩いていると、ケイがふいにあやの手を少し強く握り、声を落とした。
「……なぁ、あやちゃん。
今日って、まだアレの日じゃない?」
「え……?うん、たぶん……そろそろだけど」
少し曖昧に答えると、ケイはちらりと彼女を見て、すぐに前を向いた。
「……先月も、このくらいだったよなって思い出して」
その言い方がやけに優しくて、あやは返す言葉を見つけられず、ただ手のぬくもりを感じていた。
「……べつに、それが全部じゃないけどさ。
でも……今日も全部ほしい」
落ち着いた声なのに、胸にじんと響く。
ちゃんと見てくれているのが伝わって、あやの胸の奥はほんのり熱を帯びた。
「……もう」
今度はあやが、そっとケイの腕をつつく。
笑いながらも、どこかくすぐったい気持ちで。
すぐそばにいるこの人の体温が、やけに愛しく感じられた。
「……ね、なんか買ってく?足りないものとか」
そう尋ねると、ケイは少し笑ってあやを見た。
「んー、もう昨日までに準備してるし。
あやちゃんの好きなデザートも、アイスも買ってあるよ」
「えっ!うれしい~っ」
声を弾ませるあやに、ケイはふっと優しい顔になり、ぼそっと言った。
「……大事にしてるなぁ、俺」
思わず笑って、あやはまた彼の腕をつついた。
「……もうっ」
そのまま二人は並んで歩き、静かに家路へと向かっていった。
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