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第二章 もう一度、あの場所へ
19話 夜の余韻に抱かれて
改札の向こうで、あやが階段を上がっていく姿が見えなくなった。
もう、行っちゃったな……
ふぅ、とひとつ息をついて、俺もゆっくりと踵を返す。
夜風が少し肌に冷たくて、さっきまで隣を歩いていた体温を、急に思い出す。
──もう、なんか俺……
情けないというか、がっつきすぎというか。
今日もまた、あんなに求めてしまった。
平日だっていうのに、学生かよ、って自分で思う。
会った瞬間から、触れたいって気持ちが止まらなくて、無意識に求める手が早くなるのを、止められなかった。
あやちゃんの肌にふれたときの、あの反応。
恥ずかしがってた顔、震えた声、全部が可愛くて、煽られて、気づいたらまた……
「……慣れてきた?」
あのとき、自分で聞いたくせに。
あやちゃんが、小さく「うん」って答えてくれたのに。
でも、あの声の奥に、本当に“平気”が含まれてたのか、あとになって、どんどん不安になってくる。
もしかして、無理してたんじゃないか。
断れなくて、頷いてくれただけなんじゃないか。
ちゃんと感じてくれてたとしても――
本当はもっとゆっくりの方がよかったんじゃないか。
考え始めると止まらなくなる。
まいちゃんがコンドームをくれたって話も、あれもきっと、彼女なりの“覚悟”だったんだろう。
……それなのに俺は。
足が自然と家へ向かう。
歩道の街灯が途切れるたびに、さっきまでのぬくもりが薄れていく気がして、なんだか寂しかった。
手のひらに、まだ少しだけ残ってる気がする、あやのぬくもり。
その余韻だけが、ずっと消えない。
―――
電車の中。
ドア付近に立ち、わたしはずっと外を見ていた。流れていく夜の景色に、顔が映りこむ。
さっきまで彼の部屋にいたのが、なんだか、ずっと前のことのように感じる。
でも、身体はまだ彼に触れられた感覚を覚えていて、下着の中の肌が、少しだけ敏感なまま。
首すじにふれてくれた手も、胸に落とされたキスも、思い出そうとしなくても、全部よみがえってくる。
……なんか、ほんとに、してたんだ。
ついこないだまで、触れられることすら想像もしてなかったのに。
わたし、いま――ちゃんと彼女、してる。
ふいに、頬が熱くなった。
さっきまで、あんなに近くにいたのに。
まだ、身体のどこかに、ケイくんの手のぬくもりが残ってる気がする。
──あやちゃん、平気?
──……慣れてきた?
ふいに浮かんだ、さっきの声。
あれは、優しさだった。
でも、ちょっとだけ照れた。
うんって言ったけど……ほんとはそのあと、もっといろいろ言いたかった。
伝えたくて、でもその場では出てこなかった言葉たちが、今ごろになって、ぽつぽつ浮かんでくる。
スマホを取り出して、一度ホーム画面を見て、なにも通知がないことに、ちょっとだけ拍子抜けする。
──ケイくん、もう家に帰ったかな。
指先が迷いながら、LINEのトーク画面を開いた。
文字を打つ前に、少しだけ深呼吸する。
恥ずかしいけど……でも、言いたい。
思いきって、文字を打ち始める。
📱
「ケイくん、今日もありがとう。
慣れてきた?なんて聞かれて恥ずかしかったけど……
ちゃんと大丈夫だったよ☺️」
「今日はふたりで過ごすのがすごく自然で、ちょっとドキドキしつつも心は落ち着いてた。
……たぶんケイくんのおかげだと思う」
「帰ってから、もう少し一緒にいたかったなってじわじわきてる」
「また、ぎゅーってされたい気持ちです🫣」
📱
「あやちゃん……今日もめちゃくちゃ可愛かった」
「そんなふうに言われたら、また我慢できないかもしれない」
「でも、無理にじゃなくて……
それくらい好きなんだよ。ほんとに」
📱
「そんなこと言わないでよぉ😳
でも嬉しかった。
わたしも……そういうケイくんが好き」
「次は……うん、
我慢しなくてもいいかも、なんて思ってる🫣」
📱
「……あやちゃん、今これ読んで変な声出た。
『我慢しなくていい』なんて、俺にとって完全に爆弾だからね?」
📱
「やだ笑 大げさだよ~」
📱
「大げさじゃなくてマジ。
……ちょっと下も反応してる←」
📱
「もー!言わなくていいからっ!😣」
📱
「あやちゃんのせいだからね。
今日のこと、ずっと思い出してる」
📱
「……わたしも。
思い出すと、変な気持ちになる」
📱
「どんな気持ち?☺️」
📱
「……またしたくなるような、そんな感じ🫣」
📱
「やば……もう可愛すぎる。
また絶対、我慢できないよ。
次は、もっと奥まで感じさせたい」
📱
「……やだ、また顔あつくなる……」
📱
「じゃあ次は、我慢しないで、声いっぱい聞かせて?」
📱
「……うん……☺️」
📱
「……もうダメだわ。寝れないじゃんこれ」
📱
「ちゃんと寝なきゃダメです。明日お仕事でしょ?」
📱
「わかってるけど……あやちゃんのせいだからね」
📱
「知らなーい🫣
わたしはもうお布団入ってまーす」
📱
「ずるい……じゃあ俺も想像しながら寝る」
📱
「え、それはダメ笑
でも……おやすみ、ケイくん☺️」
📱
「おやすみ、あやちゃん。
夢で会えるように頑張るわ」
📱
「(もふたんのおやすみスタンプ)」
──帰り道から家に着いて、お風呂に入って、寝る準備をするまで、ずっとLINEをしていた。
カチッ。
画面を閉じて、電気を消す。
暗い部屋。ひとりなのに、胸の奥はぽかぽかしていて。
スマホを抱きしめながら、頬がゆるむ。
(……ほんとに、わたし、幸せすぎる……)
(次に会ったら……どんなふうになるんだろう)
小さく息をついて、枕に顔を埋めた。
さっきまでのやりとりが頭の中でぐるぐるして、なかなか眠れそうにない──。
―――
📖第ニ章終了です!
お読みいただきありがとうございました。
ちょっとずつ慣れてきたアレと深まるケイくんとの仲。
第三章も、あやの"はじめて"体験が待っていますのでどうぞお楽しみに。
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どうぞよろしくお願いいたします。
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