続・27歳、処女 〜初めては終わらない〜【完結】R18

月村 未来(つきむら みらい)

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第六章 波乱な夏 〜まい〜

61話 近づく距離





金曜の夜。
ベッドに寝転がったまま、まいはスマホを胸の上に置いていた。
通知も着信もないけど、なんとなく画面を見てしまう。

(……もう、会ってから5日か)

カフェで妊娠のことを話した、あの日。
桐谷はふざけるでもなく、真面目すぎるわけでもなく、ちゃんと受け止めてくれた。
その穏やかな反応に、まいの中の何かが、ほんの少しだけ変わった気がしていた。

からかうでもなく、引くでもなく、「ちゃんと聴いてくれる人」って、こんなに頼もしいんだって。
大袈裟じゃなく、そう思った。

(連絡……してみようかな。でもな……)

指が迷っていると、突然LINEの通知が鳴った。


📱桐谷
「まさかとは思うけど……金曜の夜、1人でチューハイとか飲んでないよな?」
「なにしてんの?」


吹き出しそうになって、まいはすぐに返信する。

📱
「ベッドでゴロゴロしながら、ほんとにチューハイ飲んでますけど」

📱
「1人さみしい金曜ってことでよろしい?」
「よし、慰めてやるから電話出ろ」

(……え、電話!?)

そう思った矢先に、着信が鳴った。
咄嗟に髪を直しかけて、思わず自分で笑ってしまう。

📞
「……もしもし」

「おう、さみしい女」

「は? なんだその入り」

「さみしくてチューハイ飲んでるって言ったのお前だろ」

「……まぁね」

『……この前さ、言ってくれたこと。
なんか、俺の中でけっこうでかくてさ』

「え、なに? いきなりしんみり? 酔ってんの?」

「いや、マジで。
お前ってさ、普段はガサツでテキトーなのに……
ああいう時、ちゃんとしてた。すげぇ」

「ちょっと、ほめてんの? けなしてんの?」

「どっちもだよ。
……でも最近さ、広瀬がちょっとだけかわいく見えるんだけど、どうした?」

電話越しなのに、顔が熱くなるのがわかった。

「……バカじゃないの」

「バカですけど、なにか」

「……うざ」

「うざがるなよ、せっかく素直に言ってんのに」

「……うざいけど、ちょっと嬉しい。
……てか、桐谷が素直なの、レアじゃない?」

「言ってくれたお前が、レアだからだよ」

「……へ?」

一瞬、間が空く。

「広瀬。おまえのこと……さ、
もうちょいだけ、見ててもいい?」

それは、ふざけていない声だった。

まいは、言葉を返せなかった。
でも、無言のままでも──その沈黙ごと、桐谷はちゃんと受け止めてくれた気がした。

「……じゃあ、わたしも。
もうちょっとだけ、見てみようかな」

「……よっしゃ。
じゃ、もうちょっとだけ、期待するわ」

からかい合いの延長みたいな会話。
でも、そこに混じるちょっとだけ真面目な響きが、胸をじんわりあたためていく。

──気づかないうちに、二人の距離はまた少し、近づいていた。







まいからの「明日、ヒマ?」というLINEに、たけるは即既読をつけたくせに、そこから5分以上も、返事を書いては消してを繰り返していた。

(なんなんだよこれ……なんで俺、こんな緊張してんだ)

結局、「ヒマ」の一言を送信したのは、通知が鳴ってから10分後のことだった。

 

──そして翌日。駅前の喫茶店。

「久しぶりにオムライス食べたかっただけだから。べつにデートとかじゃないし」

「……わかってますけど?」

「なにその“ちょっと残念”みたいな顔」

「いや、別に」

素直になれないまいと、余裕のないたける。
お互い、探るような言葉ばかりが交わされる。

 

「ねぇ、桐谷って、ちゃんと付き合ったことあんの?」

「おい急にどうした、その質問」

「いや、意外と真面目そうっていうかさ。
あんたの恋愛観、いまいち読めないんだよね」

「……あるにはあるけど。
ちゃんとした恋、してきたかって言われたら……うーん、微妙」

「そっか、まぁそんな感じする」

「お前は?」

「わたしも……似たようなもんかな」

テーブルの下。たけるの指が、膝をトントンと叩いていた。
まいはそれに気づいていたけど、指摘せずに見て見ぬふりをした。

 

「なぁ」

「なに」

「この前、電話したあと……お前のことばっか考えてたんだけど、それってアウト?」

「なんで“アウト”前提なの」

「だって、お前が……どこまで本気かわかんなくてさ。
からかわれてただけだったら、俺……結構恥ずかしいやつだなって」

まいはストローをくるくる回してから、小さく笑った。

「……バカ」

「は?」

「そっちが不器用なら、わたしは遠回しにしか言えないタイプ。
桐谷のこと、ちょっと気になってるから……連絡したんだけど」

たけるの目が、わかりやすく大きくなった。

「……マジ?」

「マジ。って言わせんな。恥ずかしいでしょ、こっちが」

 

そのあとは、他愛もない会話ばかりだった。
店のBGMも、外の人の流れも、いつのまにか耳に入らなくなるくらい。

けどたけるは、ちゃんと見ていた。

まいがストローを口に運ぶときの、自然な仕草。
笑ったとき、目元だけがふっとやわらかくなるところ。
そして何より、自分をちゃんと見てくれているという安心感。

(……やばい。普通に、好きかも)

 

店を出た帰り際。

「じゃあね、桐谷」

そう言って背を向けたまいに、思わず手を伸ばしかけて──

でも、その直前でピタリと止めた。

(まだ、早いか)

 
けれどまいは、その“ためらい”を背中越しに感じ取っていた。


(……いーよ、桐谷。ちょっとずつで)

髪を耳にかけながら、まいは小さく息を吐いて、ほんの少しだけ、口元を緩めた。




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