続・27歳、処女 〜初めては終わらない〜【完結】R18

月村 未来(つきむら みらい)

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第五章 危険なショット対決

43話 金曜日、俺んちで





あやの二の腕に残る、うっすらとした日焼けの色。
夕方の光でそこがほんのり浮き上がって、ケイが横目でちらっと見る。

「やっと日焼けマシになってきたよ~」

あやがそう言いながら肩をくるっと回す。
ケイは前を向いたまま、ふっと笑った。

「あはは、焼けたよな、あのプール」

「ほんとに。あの夜お風呂入ったら、しみたもん……」

「おれも肩、剥けたわ。なんかガサガサしてる」

お互いの“あの日”の感覚が、ほんのり身体に残ってる。
あやの腕に残る色も、ケイの肩の痛みも、ふたりだけが共有してる温度みたいに。

そんな余韻のまま歩いていたら、ケイがふいに口を開いた。


「ねぇ、あやちゃんってさぁ……お酒、どれくらい飲めたっけ?」

歩道の端っこ、並んで歩いていたあやは、不意を突かれたみたいに顔を向ける。


「え?……んー、どれくらいかなぁ。3~4杯?でも日本酒とか混ぜたら、すぐ顔赤くなる」

「ふらついてたもんな、初デートのとき」

「……うん、あのときはちょっと調子のってた」


ケイが口元で笑う。


「じゃさ、今度うち来た時さ。潰れたら負け、ってことで勝負してみない?」

「……潰れたら?」

「そう。顔赤くなるくらいじゃなくて、ちゃんと潰れた方が負け」

「えー……なにそれ、怖い」

「ショット、やったことある?」

「ない。あれ、外でやって記憶飛んだ子いるんだもん……」

「それは危ないな。でもさ——」

ケイの声が、わずかに低くなる。

「次の日、予定なかったら……俺んちで、少しだけ。試してみない?」

「……っ」

「もし記憶、飛んでも——」

軽く、でも確かに、肩が触れた。

「大丈夫でしょ?俺しかいないし」


心臓がどくんと跳ねる。
冗談めかした口ぶりなのに、その奥にあるまっすぐな気配を感じてしまう。

「じゃあ……今度の金曜日どう?」

ケイが横顔のまま問いかけてくる。

「俺んち泊まるつもりでさ。なんかあっても介抱するし」

「……うー」

迷う気持ちと、どこか嬉しい気持ちが絡まり合う。
ほんの少し間をおいて、あやは小さく笑った。

「……わかった」





金曜日―――


朝のキッチン。
冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出しながら、あやがふと口を開いた。

「お母さん、今日また……泊まってくるね」

そう言った瞬間、背中越しに感じた視線。
その静けさが少し長くて、冷蔵庫の扉を閉めたあとで、やっぱり顔を向ける。

母は、洗い物をしていた手を止め、ふとあやに目を向けた。

「……最近、よく外泊するけど」

その言葉の間に、含まれてる“何か”に、心がちくりとした。

「いい人でもできたの?」

声はやわらかかった。けれど、その奥には確かに核心へと近づく響きがあった。

「……」

一瞬だけ言葉が喉につかえる。
でも、あやは目を逸らさず、ほんの少し笑ってうなずいた。

「……うん、そんな感じかな」

母の表情がふわっと緩む。

「そっか。もう大人なんだし、うるさいことは言わないよ。……でも、やっぱり気になるの。どんな人なのかなって」

その視線はまっすぐで、けれど責めるものではなかった。
ただ純粋に、娘の人生を見届けたいという眼差し。

あやは少し息を吸って、言葉を選ぶ。

「会社の……関係の人。ちゃんとした人だよ」

母は小さく頷き、今度はほんの少しだけ安心したように微笑んだ。

「……そう。じゃあ……ちゃんと、大事にされてる?」

今度は迷わなかった。胸の奥から自然に頷きが出る。

「うん、大事にしてくれてると思う」

「なら……いいわ」

それだけ言うと、母は洗い物に戻った。
けれど、その背中はどこか軽くなったように見えて──

あやの胸の奥にも、あたたかい何かが静かに灯っていた。






「いってきまーす」

ドアを閉めた瞬間、さっきまでの空気がじんわりと肌からほどけて、深く呼吸をした。

(……遂に、聞かれちゃったな)

母の表情は柔らかかったけど、きっともう全部、なんとなく察してたんだと思う。

あの下着も、頻繁な外泊も、“わたし”が、今までと違う顔をしてることも──
母親の目には、隠しきれない。

(でも……なんか、少しだけ、うれしかった)

なにも責められなかったこと。
問い詰められたり、咎められたりしなかったこと。
それってつまり、ちゃんと認めてもらえたってことなのかな。

(……大事にされてる?)

その質問を思い出したとき、自然と浮かんだのは、彼の表情。

指先も、声も、眼差しも。
全部がやさしくて、熱くて……愛おしかった。

(うん……ちゃんと、されてる)

まるで胸の奥に、ちいさな肯定が芽を出したような気がして、あやはそっと、自分の唇に触れた。


さっきまで、笑って答えていたその口元が、いまはちょっとだけ、照れていた。




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