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第一章 はじめての朝、はじめての報告
7話 まいへの報告 〜LINEの破壊力〜
月曜日の仕事終わり。
柔らかい灯りに包まれた隅の席。
お店の奥にある、その半個室みたいなテーブルは、外のざわめきから切り離されたみたいに静かで、まいが選んでくれたのには、たぶん意味がある。
料理がまだ届いていないテーブルの上には、突き出しと生ビールが二つ。
その間にある空気が、なんだかくすぐったい。
「で……?」
生ビールを片手に先に口を開いたのはまい。
肘をついて、じっとこちらを見つめてくる。
「昨日のLINE見たときさ、電車の中だったのに声出そうになったんだけど」
笑ってるのに、目は本気。
📱
「まい……わたし、しちゃった」
「これよ?この一言。破壊力ヤバいからね?
昼休みにはこんな話できないしさー」
まいが生ビールをゴクゴクッと飲み干し、グラスをドンッと机に置く。
「ねえ、マジで言わせて?
土曜の夜からさ、わたしどんだけLINE送ったと思ってる!?」
「……うん、通知すごかった」
「でしょ!?
最初は“がんばってね!”って応援モードだったけど、23時すぎたあたりから、“もしかして始まった?”“え、まだ?え?まさか?”って、自分でもキモいくらい送りまくってたし!」
「見たよ……」
「見たのに、無視かよ!!」
「だって……無理だったんだもん、そのとき」
「……まぁ、そりゃそうか。
で、日曜の夜に“しちゃった”の一言だけ。
あや、あんた女優かってくらいヒロイン演出すごいのよ」
「……そ、そんなつもりじゃ……」
「……で?」
まいが真剣な顔になる。
「わたしがあげたやつ、使った?」
「……あ、それは……」
言葉を濁していると、まいがニヤッと笑う。
「えっ、使わなかったの?」
「うん……今回はね。ケイくんが、最初からちゃんと用意してくれてたから」
「おお……さすが、準備万端」
「うん……だから、わたしの出番はなかったっていうか……」
「ふーん」
まいが生ビールのグラスを片手で持ち上げ、泡の跡をじっと眺めながら、何か言いたそうにこちらを見てくる。
だから――つい、口をついて出てしまった。
「……でも、プレゼントでもらったの、ちゃんと全部使うから……っ」
その瞬間、まいの顔がピクリと動く。
まるで何かを察したように、口元をゆっくり引き上げていく。
「え、なにその言い方」
「え……?」
「“ちゃんと使うから”って……入浴剤とかじゃないんだから。あや、それ、“まだまだやります”って宣言してるのと同じだよ?」
「ちがっ……えっ……」
言いながら、やっと意味に気づく。
「……あっ、そ、そういうつもりじゃ……!」
頬が、ぶわっと熱くなる。
思わずうつむいて、グラスの水に逃げるけど、そこにはまいのニヤついた笑いが写ってる。
「え~?“ちゃんと使うから”って、そういうことじゃん?」
「っ……」
手のひらで顔を隠しても、耳の奥まで赤くなってるのは隠せない。
まいはもう笑いが止まらない。
「ねぇ、そんなに気に入っちゃったの?
ケイくんとのアレ……♡」
「っ、まい……ほんとやめて……」
まいがテーブルに手を叩いて笑う。
でも、その笑い方が優しくて、バカにしてるわけじゃなくて、安心してる感じだった。
「ちなみにね、あれ結構数入ってるけど……」
まいがわざとらしく顔を近づける。
「すーぐなくなっちゃうかもね~?」
「やっ……もぉ……っ」
思わず声を上げて、両手で顔を覆ってしまう。
耳の先まで熱くなってるのが、自分でもわかる。
「え、なになに?
やっぱり……1回だけじゃ、なかったとか?」
「……」
小さく首をすくめてるだけなのに、答えになっちゃってるのが、もどかしい。
まいが目を見開いて、勢いよく言った。
「……っ、あやっ!やばっ!ほんとに?
ねえ、ちゃんと歩けた?昨日!」
「まい~っ、声が大きいってば……!」
笑いと恥ずかしさが一気にこみ上げてきて、体がほてる。
テーブルの下でスカートを握りしめながら、あやは心臓の音をごまかすようにうつむいた。
「まいったら……どこまで……聞く気?」
自分で言って、自分で熱くなる。
(触れられたとこ。触れられた気持ち。触れられてないところまで……)
「なに言ってんの?
ぜんっぶ聞きたいに決まってるじゃん!」
まいのひと言に、また鼓動が早くなる。
「ぜんぶ、って……」
「ぜんぶよ、ぜ、ん、ぶ!
初めから、お姉さんにぜんぶ話してごらん?」
からかうような笑顔。
でも、その奥にあるのは、たぶん――心から聞きたがってるまいの目。
(みんなも……まいだって……してるんだよね、これ。わたしだけじゃない。だったら──)
指先が、熱い。
声にした瞬間、もう後戻りなんてできない。
けれど、その背中を押される感じが――なぜか心地よかった。
「あのね、まい――」
スカートの上で、ぎゅっと手を握りしめる。
その小さな決意と一緒に、あやは顔を上げた。
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