続・27歳、処女 〜初めては終わらない〜【完結】R18

月村 未来(つきむら みらい)

文字の大きさ
71 / 130
第七章 はじめてのトラブル

63話 再会の温度差と、悪い夢





「……いや……っ、待って……」
「やだ、そんな……強い……怖い……なんで……っ」

足を開かれて、勢いのまま押し込まれる。
激しく、止まらない。
息も声も、追いつかなくて。


「ああ……っ……んっ……」
「違う……違う、いつもと……っ……」


その瞬間、はっと目が覚めた。
汗が首筋を伝って、シーツが少し冷たい。
胸の奥がざわざわして、鼓動が落ち着かない。


夢の中で、わたしは誰かに抱かれていた。
ケイくん?
顔が、よく見えない。
なのに、触れられる感覚だけはあまりにもリアルで、腕の重さも、息の荒さも、全部現実みたいだった。

 
なんだろう……久しぶりに、こんな夢を見た。
ケイくんと付き合ってからは、一度もなかったのに。

それに──
ほんとうに、あれはケイくんだった?
怖かった……待ってって言ったのに、やめてくれなくて……
強くて、荒くて……。

 
(……ケイくん、じゃない。あんな目、するわけない)

そう思いながらも、身体の奥に残った熱だけが、なかなか引いてくれなかった。










――二ヶ月前。

たまたま駅前で長谷川 亮はせがわ りょうに会った帰り道。

「……あの人と、どうなった?」
「付き合ってんの?」

「……うん」

「……そっか。ちゃんと幸せそうでよかった」

そして、去り際にふっと。

「……でもさ、なんか……あやは誰のもんにならない感じでいてほしいんだよな」

冗談みたいな口ぶりなのに、目の奥だけが熱かった。
その響きは、胸の奥に小さな棘みたいに残ったまま──







「はぁ~~~~~~……極楽……」

あやは頭にタオルを巻いたまま、畳の上にどっかりと座り込んだ。
ふわっと汗が引いていく感覚が心地よく、麦茶を一口飲むたび、指先までゆるんでいく。

──夏の休日、どこかに出かける元気もなく、近所のスーパー銭湯へふらっとひとりで足を運んだ。
ちょっとした気分転換のつもりだったのに、露天風呂に浸かって空を見上げた瞬間、もう帰る気がなくなった。

「……ん?」

ふと視線を上げた先、ロビーの自販機の前に、見慣れた横顔があった。

Tシャツにサンダル姿、左手にスポーツドリンク。

──りょう?

思わず声を掛けかけたその瞬間、向こうが先に気づいて振り返った。

「……うわ、あや!?
まじかよ、ここ来るんだ?」

「やっぱり……りょう!?
てか……偶然すぎない?」

「いや、ここうちからチャリで10分。
あやんちも、まぁまぁ近いだろ?」

「うん、わたしも……自転車」

あやは立ち上がって、タオルを頭から外した。
りょうの目が、一瞬だけ泳いだ気がして──でも、すぐにいつもの軽い調子に戻る。

(……今の目。二ヶ月前の“あの一言”のときに似てる)


「元気してた?」

「うん、まぁね。りょうは?
ってか、今日誰かと来てる?」

「いや、1人。銭湯好きでさ、よく来てる」

「へぇ、同じ」

ぎこちないようで自然なようで、なんだか妙に落ち着くこの感じ。

「……じゃあさ、一緒に飯でも食う?」

という流れになるのに、たいして時間はかからなかった。

ふたりは館内の食事処に並んで入り、テーブル席に向かい合って座った。

「お前、そういや風呂上がりも変わんないな。ちょっとぽわ~んとしてる」

「やめてよ、のぼせただけだし……」

あやが照れ笑いしながらメニューを閉じると、りょうは軽く肩をすくめて視線を落とした。

「俺、鮭定食にするわ」

その言葉に、あやがふっと顔を上げる。

「……あ、それ。ちょうどこの前わたしも作ったんだよ。朝ごはんに、鮭焼いて」

「へぇ……鮭?」

りょうが何気なく問い返すと、あやは少し照れたように笑う。

「うん。ごはんとお味噌汁と、あと小鉢も。……“めっちゃ美味しい”って、すごい喜んでくれて」

その言葉に、りょうの手が一瞬だけ止まった。
すぐにまたメニューに視線を落としたけれど、氷を転がすグラスの音が妙に大きく響く。

「……そうか。喜んでくれたなら、よかったな」

何気ない風を装っていたけれど、その声の奥にほんのりと滲むものがあった。

(……もう、そういう距離なんだよな)

胸の奥に沈んでいくその実感を、りょうは黙って飲み込んだ。


(“誰のもんにならないでほしい”なんて言ったくせに。……ずるいのは、俺だ)


──あーあ、ほんとに、そっか。
本当に、付き合ってるんだ。

GWの焚き火の夜。
タンポンを入れてもらってる時の、恥ずかしそうな、あどけない声。
あれが、頭から離れなかったくせに。

想像してしまう。
あの頬を染める笑顔が、今はそいつの隣で、裸のままで。

(バカか俺。自分で、“今だけの気持ち”って封印したくせに)


でも──ふとした仕草で髪をかき上げるあやの指先を見るだけで、りょうの奥にしまっていたものが、また少しだけ顔を出していた。


「……楽しそうで、よかったよ」

言い直すみたいに、もう一つ。

「……幸せそうだな」

その声が、少しだけ乾いていたのを、あやは気づいていたのだろうか。

(初めての日、ベッドで“ふっと”よぎった、あなたのあの言葉──わたししか知らない小さな影)
(……それでも、今のわたしはケイくんでいっぱいなんだ……)







感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

独占欲全開の肉食ドクターに溺愛されて極甘懐妊しました

せいとも
恋愛
旧題:ドクターと救急救命士は天敵⁈~最悪の出会いは最高の出逢い~ 救急救命士として働く雫石月は、勤務明けに乗っていたバスで事故に遭う。 どうやら、バスの運転手が体調不良になったようだ。 乗客にAEDを探してきてもらうように頼み、救助活動をしているとボサボサ頭のマスク姿の男がAEDを持ってバスに乗り込んできた。 受け取ろうとすると邪魔だと言われる。 そして、月のことを『チビ団子』と呼んだのだ。 医療従事者と思われるボサボサマスク男は運転手の処置をして、月が文句を言う間もなく、救急車に同乗して去ってしまった。 最悪の出会いをし、二度と会いたくない相手の正体は⁇ 作品はフィクションです。 本来の仕事内容とは異なる描写があると思います。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。