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4.お似合いの二人
しおりを挟む驕りではなく事実として、婚約者として彼のそばにいた時間はそれなりに長く、心のどこかで新たな候補者が現れたとしてもヨシュア様は私を選んでくれるのではないかと、根拠のない期待を捨てきれていなかった。
だからこそ彼に簡単に切り捨てられてしまった事実に、ショックと同時に恥ずかしささえ覚えた。
私は何を勘違いしていたのだろう。
彼が私をそばに置いてくれる理由は魔力量という一点だけだと、最初からわかっていたはずだ。
それなのに、二人で過ごす時間はかけがえのないもののようで……そんなこと私しか感じていなかったのに。
別に王太子妃という地位が欲しかったわけじゃない。
ただ私は、彼に恋をしていた。
仲睦まじく肩を並べる二人が、庭園の回廊を歩いている。
クリスティナ王太子妃。可憐で護りたくなるような華奢な体付き、しかし凛と佇む姿は自信に満ち溢れていて、私が及ばないのは魔力だけではないということは明白だった。
窓に付いていた手をそっと握る。
ふいにガラスに反射した自分の姿が目に止まる。
深海の色を掬い上げたような濃紺の髪は、彼女の陽の光を受けて輝く金髪に比べて陰鬱なこと。
偶然とはいえ目にしてしまった二人の逢瀬を、こうして立ち止まって眺めてしまっているのも、褒められたことではない。
自分自身のためにも早くこの場を離れなくてはと思うのに、何故だか足が動かない。
身を寄せ合い歩く様子は仲睦まじく、彼に手を取られるだけで緊張しきっていた私と違い、彼女は堂々としている。
あれこそ王太子妃として在るべき姿だ。
彼女が立ち止まり、ヨシュア様を見上げた。
彼がゆっくりと背を丸め、二人の唇が重なる。
そんな光景から、やはりその場に縫い付けられたかのように目が離せなかった。
あんな触れ合いは、私とではかけらの雰囲気さえ生まれなかった。
『読みたいのか?』
読書をする彼をぼんやりと見つめていたら、そう問われた。
そんなに物欲しそうな目をしていただろうかと慌てて首を横に振った。
その日、去り際に彼は『合わなければ読まなくてもいい』と私に本を渡して帰って行った。
何故だが私はそれに酷く心が満たされて。
あんな風な触れ合いに本当は憧れを抱いていたけれど、少しのことでもどうしようもなく満ち足りてしまって。
私のそういうところって、きっととてもつまらないと思う。
今更女性として扱われていなかったことに悲しみを覚えるなんて、烏滸がましいことだ。
こんな私では王太子妃はおろか側室というお情けの立場、予備の胎としてさえ不十分だろう。
ただ王家は当初の約束を違えることなく我が家への支援は惜しまない姿勢で、進行中の開拓事業などにも何ら差し障りがないらしく……だからだろう、正室になれなかった私だが、家族からの苦言の便りなどは届いていない。
つまり私に纏わるあれやこれやは、特段取るに足らないのだ。
酷く空虚な心地でも、世界はいつもと変わらなく回る。だからせめて私もいつも通りにしないと、取り残されてしまわないように。
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