【完結】脇役令嬢だって死にたくない

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10.幼馴染


「なんだ、ゴーストでも見たような顔をして」

 ポケッ、と間抜けな擬音でも付きそうな顔をやめないミアに、グレンはじっとりとした視線を向けた。
 そうしつつも「重いだろ」とミアの手荷物を自然な動作で奪っていく。
 更に不機嫌そうなまま「君の寮は西側か?」と甲斐甲斐しくするものだから、ミアは余計に呆けてしまう。

「──グレン、もしかしてわたしに話しかけてるの?」

「他に誰がいるんだ」

「えぇ…???」

「なんだその反応」

 グレンは怪訝そうに眉を顰めた。

「いえ、てっきりもう忘れられたものかと」

「は?」

 地を這うような低音が響く。
 これには流石のミアも慌て始め、

「ほ、ほら、随分久しぶりだから。あ、別に貴方の記憶力がどうこうという話ではなくてね! その、」

 意味のない身振り手振りをしながら言い訳を並べるが、当然のようにグレンの眉は顰められたままである。

「貴方って何かと忙しい人でしょ? 人付き合いも多いでしょうし、まさか学園に入ってからまで、わざわざわたしレベルの人間と関わるなんて「君のその謙遜──というより、それが当然だとでも言いたげな線引き。僕がどれほど気に食わないか、まだわかっていないのか」

 相変わらず、グレンは怒るとものすごく怖い。
 絶対零度の美しい無表情を前に、ダラダラと冷や汗が流れた。
 思えば自分たちに主役と脇役という立場の違い──それだけでなく単純に家柄の違いがあるといえど、彼は友人関係を蔑ろにする性格ではなかった。

「ご、ごめんなさい……」

 しょんぼりと俯いたミアの頭に、小さな嘆息が降ってくる。
 びくりと肩を揺らせば、次は大きな手のひらが頭を撫でた。

「謝らせたいわけじゃない、ただ、僕は君と対等な関係でいたいだけなんだ。遠ざけられると、寂しい」

 グレンの珍しい物言いに驚いて顔を上げる。
 そこには言葉通りの顔をした彼がいた。

「君は、僕と関わるのは嫌か」

 何だか罪悪感を覚えさせられる問いである。
 ただ単に主役だから、脇役だから、という意味で忘れられても仕方がないと思っていただけで、彼と関わることが嫌だなんて、思ったこともないのに。
 だから、

「そんなわけない!」

 誤解を解くべくはっきりと口にする。

「貴方といるのはとても落ち着くから好きよ、グレン」

 そう素直に告げて、笑顔を向ける。

「──」

 しかしグレンからの返答はなく、彼は手のひらで口元を覆い、俯いてしまった。

「だから貴方がいいなら、これからも仲良くしてもらえれば…って、グレン?」

「……」

「何よ、まだ何か気に食わないの? 怒ってる貴方とは一緒にいたくないわ」

「……もう怒ってない」

「ならいいけど。ていうか貴方、特待入学だから式で挨拶があるでしょ! のんびりしてちゃダメじゃない!」

「ん」

「わたしの荷物はいいから、貴方は先に整列した方が……ちょっとグレン、聞いてる?」

「ん」

「グレン~?」

 何故だか生返事ばかり返すグレンに痺れを切らして荷物を取り返そうとするが、「貴方馬鹿力過ぎるわ!」とミアが嘆きを上げるほどの力で握られ、叶わず。

 結局、口数は少ないがどうやら上機嫌らしいグレンはぴったりとミアの隣に寄り添い、気が気がでないほど目立つ入学初日を過ごす羽目になったのだった。
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