10 / 36
10.幼馴染
「なんだ、ゴーストでも見たような顔をして」
ポケッ、と間抜けな擬音でも付きそうな顔をやめないミアに、グレンはじっとりとした視線を向けた。
そうしつつも「重いだろ」とミアの手荷物を自然な動作で奪っていく。
更に不機嫌そうなまま「君の寮は西側か?」と甲斐甲斐しくするものだから、ミアは余計に呆けてしまう。
「──グレン、もしかしてわたしに話しかけてるの?」
「他に誰がいるんだ」
「えぇ…???」
「なんだその反応」
グレンは怪訝そうに眉を顰めた。
「いえ、てっきりもう忘れられたものかと」
「は?」
地を這うような低音が響く。
これには流石のミアも慌て始め、
「ほ、ほら、随分久しぶりだから。あ、別に貴方の記憶力がどうこうという話ではなくてね! その、」
意味のない身振り手振りをしながら言い訳を並べるが、当然のようにグレンの眉は顰められたままである。
「貴方って何かと忙しい人でしょ? 人付き合いも多いでしょうし、まさか学園に入ってからまで、わざわざわたしレベルの人間と関わるなんて「君のその謙遜──というより、それが当然だとでも言いたげな線引き。僕がどれほど気に食わないか、まだわかっていないのか」
相変わらず、グレンは怒るとものすごく怖い。
絶対零度の美しい無表情を前に、ダラダラと冷や汗が流れた。
思えば自分たちに主役と脇役という立場の違い──それだけでなく単純に家柄の違いがあるといえど、彼は友人関係を蔑ろにする性格ではなかった。
「ご、ごめんなさい……」
しょんぼりと俯いたミアの頭に、小さな嘆息が降ってくる。
びくりと肩を揺らせば、次は大きな手のひらが頭を撫でた。
「謝らせたいわけじゃない、ただ、僕は君と対等な関係でいたいだけなんだ。遠ざけられると、寂しい」
グレンの珍しい物言いに驚いて顔を上げる。
そこには言葉通りの顔をした彼がいた。
「君は、僕と関わるのは嫌か」
何だか罪悪感を覚えさせられる問いである。
ただ単に主役だから、脇役だから、という意味で忘れられても仕方がないと思っていただけで、彼と関わることが嫌だなんて、思ったこともないのに。
だから、
「そんなわけない!」
誤解を解くべくはっきりと口にする。
「貴方といるのはとても落ち着くから好きよ、グレン」
そう素直に告げて、笑顔を向ける。
「──」
しかしグレンからの返答はなく、彼は手のひらで口元を覆い、俯いてしまった。
「だから貴方がいいなら、これからも仲良くしてもらえれば…って、グレン?」
「……」
「何よ、まだ何か気に食わないの? 怒ってる貴方とは一緒にいたくないわ」
「……もう怒ってない」
「ならいいけど。ていうか貴方、特待入学だから式で挨拶があるでしょ! のんびりしてちゃダメじゃない!」
「ん」
「わたしの荷物はいいから、貴方は先に整列した方が……ちょっとグレン、聞いてる?」
「ん」
「グレン~?」
何故だか生返事ばかり返すグレンに痺れを切らして荷物を取り返そうとするが、「貴方馬鹿力過ぎるわ!」とミアが嘆きを上げるほどの力で握られ、叶わず。
結局、口数は少ないがどうやら上機嫌らしいグレンはぴったりとミアの隣に寄り添い、気が気がでないほど目立つ入学初日を過ごす羽目になったのだった。
あなたにおすすめの小説
【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない
朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。
私が、良いと言ってくれるので結婚します
あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。
しかし、その事を良く思わないクリスが・・。
【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する
ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。
夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。
社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。
ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。
「私たち、離婚しましょう」
アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。
どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。
彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。
アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。
こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。
【感謝】
第19回恋愛小説大賞にて奨励賞を受賞しました。
ありがとうございます。
手作りお菓子をゴミ箱に捨てられた私は、自棄を起こしてとんでもない相手と婚約したのですが、私も含めたみんな変になっていたようです
珠宮さくら
恋愛
アンゼリカ・クリットの生まれた国には、不思議な習慣があった。だから、アンゼリカは必死になって頑張って馴染もうとした。
でも、アンゼリカではそれが難しすぎた。それでも、頑張り続けた結果、みんなに喜ばれる才能を開花させたはずなのにどうにもおかしな方向に突き進むことになった。
加えて好きになった人が最低野郎だとわかり、自棄を起こして婚約した子息も最低だったりとアンゼリカの周りは、最悪が溢れていたようだ。
突然決められた婚約者は人気者だそうです。押し付けられたに違いないので断ってもらおうと思います。
橘ハルシ
恋愛
ごくごく普通の伯爵令嬢リーディアに、突然、降って湧いた婚約話。相手は、騎士団長の叔父の部下。侍女に聞くと、どうやら社交界で超人気の男性らしい。こんな釣り合わない相手、絶対に叔父が権力を使って、無理強いしたに違いない!
リーディアは相手に遠慮なく断ってくれるよう頼みに騎士団へ乗り込むが、両親も叔父も相手のことを教えてくれなかったため、全く知らない相手を一人で探す羽目になる。
怪しい変装をして、騎士団内をうろついていたリーディアは一人の青年と出会い、そのまま一緒に婚約者候補を探すことに。
しかしその青年といるうちに、リーディアは彼に好意を抱いてしまう。
全21話(本編20話+番外編1話)です。
いつも隣にいる
はなおくら
恋愛
心の感情を出すのが苦手なリチアには、婚約者がいた。婚約者には幼馴染がおり常にリチアの婚約者の後を追う幼馴染の姿を見ても羨ましいとは思えなかった。しかし次第に婚約者の気持ちを聞くうちに変わる自分がいたのだった。
離婚寸前で人生をやり直したら、冷徹だったはずの夫が私を溺愛し始めています
腐ったバナナ
恋愛
侯爵夫人セシルは、冷徹な夫アークライトとの愛のない契約結婚に疲れ果て、離婚を決意した矢先に孤独な死を迎えた。
「もしやり直せるなら、二度と愛のない人生は選ばない」
そう願って目覚めると、そこは結婚直前の18歳の自分だった!
今世こそ平穏な人生を歩もうとするセシルだったが、なぜか夫の「感情の色」が見えるようになった。
冷徹だと思っていた夫の無表情の下に、深い孤独と不器用で一途な愛が隠されていたことを知る。
彼の愛をすべて誤解していたと気づいたセシルは、今度こそ彼の愛を掴むと決意。積極的に寄り添い、感情をぶつけると――