【完結】脇役令嬢だって死にたくない

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13.筋書き


「おかしい……」

 朝の教室は人気がなく凪いでいる。
 早寝早起き健康スケジュールの鬼であるミアは、早朝のトレーニングを終えて誰よりも早く教室に入る。
 そんな彼女は今日も今日とて一人思い悩んでいた。

 入学初日から感じていた微かな違和感が、日を追うごとに確信を持ち始めている。
 その違和感とは、

「ヒーローとヒロイン、いつになったら絡むの…?」

 未だグレンとクロエの間に目立った交流がないのだ。

 出会った当初から、グレンはクロエを気に掛けているはずなのだ。
 庶民の出で苦労があるだろうと初めは同情にも似た感情を向けるが、決して屈さず、柔らかな笑顔を絶やさないクロエに惹かれ、守りたいと感じるようになる。
 そしてクロエも、家柄を気にせず接してくれる彼に思いを寄せるようになる。

 しかしそんなグレンとの関係が、クロエが悪質な嫌がらせを受ける最大の要因となる。

 初めは、避けられたり、無視されたりするくらいで留まっていたが(だからこそクロエの頼れる相手はグレンだけとなり、二人は親密になるのだが)、それによって嫌がらせは少しずつ過激になり、裏庭で女子に囲まれ叩かれる、なんて定番ともいえるシーンもあった。

 とはいえ基本的には何でも上手いことサクサク進む話でもあったので、少しの期間を耐えていればここぞという時にグレンが現れ救ってくれる。
 そう、いじめだって所謂スパイス的なイベントなのだ。
 ミアが死ぬ事件と同じように。

 ──とまぁ、一先ず物語の流れはこんなところ。
 だから、本来であればもう二人は席を隣り合って授業を受けているはずで、女子からはそれを疎む視線が飛び交っているはずで、グレンという心の支えを元に力を発揮し始めたクロエがクラスでも目立った存在になっていて……などなど。
 そのはず、なのに、

(どうして今日も、二人の席はあんなに遠いの!?)

 ミアの違和感など関係なく教室は埋まり、授業が始まった。
 グレンは隣に座るマルセルと組んで、何食わぬ顔で試験管を揺らしている。
 方やクロエは教室の隅の席でじっとしたまま。

 物語の進捗が悪いからなのか、彼女の才能や聡明さは未だ発揮されず、どの教科でも中の下くらいのスコアで目立たず、庶民弄りも早い段階で皆飽きたらしく一々揶揄われることもなくなった。
 幸か不幸かグレンとの交流がないため女子から疎まれることもなく──ヒロインにしては少々存在感に欠ける。

 顔の造りは流石の一言で、淑やかなヒロイン然とした美少女である。
 しかし綴られていた通りの春の木漏れ日のような柔らかな雰囲気は、遠目に見ている分には感じられたことがない。

 ふいに彼女が視線を上げ、グレンを見た。

(──あ、やっぱりそうよね!)

 その瞳には確かに熱が籠っていて、やはりクロエがグレンに惹かれているのは確かだった。
 過去の自分の記憶を疑いそうになっていたミアは、やはり間違いではなかったのだと確信を持って、彼女の視線の先の男のことも盗み見る。

 しかし肝心のグレンはといえば、ごく自然に授業と向き合っているだけだった。

(何だかヤキモキするわね…どうしてグレンは彼女を気に掛けてやらないのかしら。あえて? あえてなの? ツンデレに目覚めてしまったとか? 確かに遠くから美少女に熱のある視線を向けられている状況もいいものだろうけど…それにしたってヒーローとして腑抜けすぎじゃないの? あ、コラ、周りが騒がしいのをいいことにしれっと欠伸してんじゃないわよ!)

 なんて心の中でツッコんでいれば、視線を悟ったのかミアの方を見たグレンと視線がバッチリ交わった。
 悪いことをしていたわけでもないのにギクリと背筋が強張る。
 けれどグレンはどこか嬉しそうに「なに」と、声に出さず口の形だけで問いかけてきた。

 慌てて視線を逸らす。
 大袈裟なほどに顔を明後日の方向に向けたミアにグレンは小さく肩をすくめた後、丁度マルセルが声を掛けてきたため視線を離した。

 ミアは溜め息を吐きたい気分になる。
 何をやっているんだお前はと、見るのはこっちじゃなくてあっちだと、言ってやりたい。
 ちゃんと予定通りのハッピーエンドに向かってほしいと、まがいなりにも幼馴染として心配しているのだ。
 だというのに──

「コ、コレットさん、多分そこまでしなくても大丈夫よ?」

「え」

 隣から声を掛けられて、ミアは自分が魔草を延々とすり潰し続けていたことに気付いた。
 人のことばかり考えていないで自分も授業に集中すべきかと、少し反省。

 それでもやはり、クロエが気になり、

「ねぇ、ハーニッシュさんもお誘いしない?」

 そう先ほどミアの肩を叩いた隣の席の女生徒、カーラ・ハーリーに向けて声を掛けた。
 因みに彼女もモブ仲間である。というか、クラスの大半が物語の中では脇役だ。

「それがね、さっき声を掛けたけど断られたわ」

「え!?」

「『大丈夫です』って。意地悪されるとでも思ったのかしら? ただ気まぐれに誘っただけなのにね」

 教師は数人で協力してもいいと言っただけで、一人でやってはいけないとは言っていない。
 それでもやはり人手がある方が効率はいいし、何より一人で机に向かうクロエの肩は少し沈んでいるように見えた。
 カーラもそれを見かねて声を掛けたのだろう。
 きっとクロエが歩み寄れば、受け入れてくれるクラスメイトはこんな風に少なからずいるのだ。

(物語では初っ端からグレンのフォローがあったものね……)

 それがない現状、彼女は臆病な美少女であるだけだった。

 どうやら少々筋書きとは異なる部分があるらしい。
 自分の存在を思えばそんなこともあるかと納得できる。
 であればこれから待ち受ける死も、都合よく避けられないだろうか。
 そう考えてすぐに被りを振る。
 生死に関わる問題なのだ、決して軽んじてはいけない。

 とりあえず、二人の恋の行方は二人に任せ、ミアはあまり気に留めないことにした。
感想 110

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