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24.ヒロインとヒーロー
どれだけ落ち込んでいようが日は落ち、昇る。
今日も今日とて真面目に──どころか雑念を払うように一心に授業に臨んだ一日だったが、はたと気付く。
いつも胸ポケットに差しているペンがない。
最近はこういったつまらないミスが多い気がする。
注意力が低下している証拠だ。
結局雑念まみれなのである。
重い足取りで最後に受けた授業の教室を目指す。
ギリギリまで使っていた記憶があるから、恐らくそのまましまい忘れてしまったのだろう。
教室には当然だが誰もいない。
なだらかな階段を上がり、自分が掛けていた席を目指した。
卓上にはポツンとペンが置き去りにされていて、急いでいたわけでもないのにこんなにわかりやすく物を忘れるなんてと自分に少し呆れた。
小さく嘆息して、ペンをポケットにしまいさっさと踵を返そうとしたが、座席のすぐ近くに何かが落ちていることに気付いた。
拾い上げる。真新しい手鏡だ。
しかし傷だらけで、欠けた部分が鋭利になっていて安易に握ると危ない。二つ折りの中を開けば無残なほどにひび割れていた。
「ひ、酷いっ……!」
ミア一人だと思っていた教室の中で、悲痛な声が響いた。
パッと顔を上げれば、瞳に涙を溜めたクロエが、数段下からこちらを見上げていた。
唇をわなわなと震わせる姿と手元の鏡とを交互に見て、ミアは慌てた。
完全に誤解されている。
「ハーニッシュさん、これ貴女のなのね? あのね、わたしもよくわからないんだけど、何故か丁度ここに落ちていて、」
「母が入学祝いにと無理して買ってくれたものなのにっ……!」
「お、落ち着いて、話を、」
「これまで私に影で沢山の嫌がらせをしていたのも、コレットさんだったんですね…!」
「待って待って! 違う、誤解よ」
ミアの声は届いていないのか、はたまた悪女の言葉など聞き入れる気にもならないのか、クロエはミアの手から鏡を奪った。
強く握った拍子に手のひらを傷つけてしまったようで、血がポタリと垂れた。
ミアが心配により伸ばした手は振り払われ、涙目にキッと睨まれる。
「グレン様のことも、幼馴染という立場やあの方の優しさに付け込んで、沢山振り回したのでしょう!? 貴女のような邪な方を、彼に近付けさせるわけにはいきません!」
クロエはヒロイン然とした佇まいで声を上げた。
まるで悪役を前にしているかのように。
違うと言っているのにどうしたって話を聞いてくれない彼女に頭を抱えたくなる。
動揺ばかりがミアの脳内を占めた。
──そんな時、教室の扉が開かれ、
「私を嫌うのは自由です、でも他の方をも傷つけるというのなら、私は貴女を許しません!」
その健気な宣言は扉を潜った彼──グレンの耳にも届いただろう。
ミアは息を呑んだ。
久しぶりに視線が交わる。
しかし彼の存在に気付いたクロエが「グレン様!」と涙を流して彼の胸に飛び込んだことで、直ぐに逸れた。
彼女の手が血に濡れているのを見て、グレンは直ぐにクロエの背を支えながら教室を出た。
一人取り残されたミアは、ただ二人の背を眺める事しかできなかった。
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