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第6.5章 ヤーベ、マイホームを手に入れる!

第55話 マイホームに住んでみよう

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どうしてこうなった?



俺はマイホームを建てようと思っただけだ。
小ぶりなログハウスをイメージしていた。
二~三部屋に、お風呂とキッチン、寝室があれば十分だった。

ローガ達やヒヨコ達とは畔で今まで通り集まっていればいいと思っていた。



だが・・・



「それーい! 気合を入れて引けーーー!!」

「「「「「オーエス!オーエス!」」」」」

「精霊様の神殿を建てるのじゃー!!」

「「「「「おおーーーーー!!」」」」」

巨大な丸太を大勢の若い衆が人力で引いている。細い丸太を下に入れ替えながら運んできている。なぜそんな巨大な丸太がいるのでしょうか?



「ベルヒア様! 次はどちらの木を伐採させて頂けましょうか?」

「そうですわね、そちらの木と木の間の物をお願い致しますわ。それで木々の間に光も入ります」

「風の通りも良くなりますね!」

何か偉い頭領みたいな人がベルヒアとシルフィアにどの木を伐採していいか指示を仰いでいる。いつの間に精霊たちも協力しているのか。





「そこにももう一本打ち込め!しっかり土台を作るんだ!」

「「「ヘイッ!!」」」

「馬鹿野郎! そんなへっぴり腰で精霊様の神殿の基礎を賄えるか!」

「「「ヘイッ!すいやせん!」」」


え~~~、なにやら土台を担当している人たちが盛り上がっております。
ちょっとしたログハウスにそんな気合を入れて頂かなくてもいいんですけどね。


「精霊様のためならエーンヤコーラ!」

「「「精霊様のためならエーンヤコーラ!!」」」

「丸太を切ってエーンヤコーラ!」

「「「丸太を切ってエーンヤコーラ!!」」」

「しっかり切りそろえてエーンヤコーラ!」

「「「しっかり切りそろえてエーンヤコーラ!!」」」



え~~~、もう何と言っていいのかわかりません。
職人さんたちが掛け声を掛けながら一糸乱れぬ動きで丸太を切っている。
もはや感動すら覚える。



「精霊様方、お願いしやす!」

んっ!? 何だ?

「はーい!お兄様のためにも頑張りますわ!」

「チッ!仕方ねぇ、ヤーベのためだ、力を貸してやるか」

シルフィアとフレイアが二人で切られた丸太が積み上がっている場所へ魔法を行使する。
風と炎で熱風を造り上げ、まさかの丸太を強制乾燥させている。

マジすげえ。

この二人と親方たちを雇えば建設業で食って行けそうだ。



「精霊様!中の間取りでご相談がありやして」

「いえ、精霊ではないんですけどね・・・」

「実は台所、食堂、お風呂場、寝室など準備しておるんですが、便所はどういたしやしょう?必要でしょうか?」



・・・はい? 便所?

俺はピンと来なかったのだが、少しして気が付いた。トイレ大事!

「便所いるわ。来客だってあるかもしれんし」

来客と言ってはみたが、チラリとイリーナを見る。俺は元より、ローガ達狼牙族も、ヒヨコ一族も魔獣であり、食べたものは体を維持するため魔力へとエネルギー変換される。そのため排せつという概念が無いのだ。だが、この中で唯一の人間であるイリーナは・・・。

イリーナが俺の視線に気が付き、顔を真っ赤にする。

「し、仕方ないではないか! 私は普通の人間なのだぞ!」

顔を真っ赤にしたままほっぺをぷうっと膨らませて怒り出すイリーナ。

「問題ないよ。それにイリーナは普通の人間ではないよ。イリーナは俺にとっては特別な人なんだから」

にっこりしてそう伝える。

「ほわっ!? と・・・特別な人・・・ヤーベにとって・・・特別・・・」

顔を真っ赤にしたままブツブツ呟くイリーナ。
まあとりあえずイリーナの機嫌が落ち着いたのならよしとしよう。
ところで、この世界のトイレってどんな感じなんだろう。

よくある異世界モノだと、スライムを捕まえてきて放り込んでおくと全部吸収して綺麗にしてくれるとか・・・スライム・・・スライ・・・



「グッハァァァァァァ!!」



俺は絶望の淵に叩き落された。

俺か!俺なのか!

俺が毎日ぶっかけられるのか!?

ん? しかもウチのメンバーはトイレ使うのがイリーナだけ!?
どんな高度なプレイだよ!
異世界どうなってるんだ!

「ど、どうしたでやすか?精霊様」

頭領が尋ねてきた。

「いや、便所のシステムを考えたら立ち眩みが・・・」

「便所のシステムでやすか? 魔法の大鋸屑をたっぷりひいておきやすから大丈夫ですぜ」

「魔法の大鋸屑?」

「ええ、排せつ物を瞬時に分解してくれる便利な大鋸屑でやす。何年かすると効果が薄くなりやすんで、その時は入れ替えが必要になりやす」

「あ、そうなんだ。そんな良いものがあるのね、異世界」

よかった~、毎日イリーナの〇〇〇を〇〇〇〇されたりした日にゃ、精神が病んでしまうわ。
・・・残念とか思ってないんだからね! 

「気持ちよく尻を拭けるソフトリーフもたくさん準備しておきやすね!」

「おお、そんなモノもあるのか」

「最高級ソフトリーフの吹き心地は病みつきになりやすぜ!」

「それは楽しみだ」

俺は必要ないが、拭いてみたっていいよね?

「風呂場はこの横になりやす。湯床も精霊様の加護を得た素晴らしい木で作る予定でやす」

「そうなんだ、それは楽しみだな!」

俺はトイレや風呂場といったマイホームでも必要な場所を打ち合わせたため、すっかりマイホーム気分でトークを楽しく進めてしまった。


そう、連中は誰もが精霊様の神殿と言っていたのに・・・。


俺は作業員のために樽に泉の水を汲んで溜めたり、狼牙達に獲物を狩らせに行って食事の用意をしたりした。

作業員の皆さんが気持ちよく作業できるように・・・となぜか頑張ってしまった。


その結果・・・


「どうしてこうなった?」

目の前にはとんでもない施設が出来上がっていた。
まあ、見ない様にしていたのもあるのだが・・・
ちょっとした小屋をイメージしていたのに、目の前の施設はどう見ても巨大だ。
奥にはローガ達の厩舎と、屋根にはヒヨコ達の休める小屋も出来ていた。
至れり尽くせりである。

一番の問題は建物の入口が大きく開いており、滅茶苦茶広い事だ。そしてその奥に、俺の木彫り像がなぜか飾ってある。しかもデローンMk.Ⅱ型である。なんでだ?

「バッチリ皆さんがお祈りに来れるよう広く造り上げやしたぜ」

「うむうむ、見事な造りじゃ。これで村のみんなも泉の水を頂きに来た際にお祈りをささげることが出来るのう」

頭領と村長が連れ立ってやって来る。

「ナニコレ!? どーいうことよ?」

「おお、精霊様。いかがですか、神殿の造りは?」

「だから、マイホームだっての!」

「泉で水を頂いた際には、こちらで精霊様の木像にお祈りを捧げさせて頂きますぞ」

「お祈りいらないから!」

「もちろん清掃などもバッチリ対応いたしますぞ!」

「いや、だから清掃もいらないから!」

「あ、生活するスペースには入らないよう配慮致しますので心配はいりませんぞ!」

「てか、生活するスペースだけでよかったんですけどねぇ!」

「はっはっは、何も遠慮することなどありませんぞ!」

「遠慮してんじゃねーよ!」



はあ・・・マイホームがこんな豪華な神殿に・・・
しかも、自宅に自分の木像が飾ってあるって、誰得だよ・・・。
ん? 村人には得なのか? もうわからなくなってきたぞ。
まあいい、とにかく住んでみようか。せっかく建ててもらったんだから。



・・・トンデモない請求書、来ないよね!?
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