壊獄の浄祓師

はといるか

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第6話 願望

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 取引。団長と名乗る男性は確かにそういった。意味不明な発言に不信感が生まれる。

 「そう身構えるな。言ったろ、公平だと」

 「それならまずは取引の内容を教えてくれ」

 「警戒すんな。危害は加えねぇから一旦座れ」

 最悪を想定し、いつでも逃げられるように構えておく。ただ佐竹はそんな警戒を持っていないようで呑気にソファに座ってしまった。

 「友人は話す気らしいぞ。お前もとっとと座りな」

 結局流されるまま座ってしまった。

 「それじゃ、だ」

 そう言った瞬間、辺りの空間が白く発光しはじめた。拳に力が入る。それを見透かしたかのように

 「しつこいぞ、少しは落ち着け」

 言われてしまった。
 まったく…とため息をつきながら団長は対面のソファに腰掛ける。

 「さて、まずはこちらから話すか」

 そう言いながら団長は話しはじめた。

 「もう知ってるだろうが、俺たちは浄祓師っていう存在だ。穢者や穢蝕師あいしょくしを倒す正義側の組織とでも言っておこう」

 穢蝕師?浄力を扱う人間がいるように、穢者と同じ力を扱う人間がいるというのだろうか。

 「浄祓師つってもいくつか組織が存在してるんだがな。それぞれ思想や願望を共有し合う物同士で構成されてる」

 「そして俺達の組織が掲げる願望は穢者及び穢蝕師の根絶、そして現世に存在する地獄を消し去ることだ。この界隈じゃこう呼ばれている」

 団長の眼光がぎらりと輝いたように見えた。
 
 「ってな」

 団長はここで初めてニヤリと笑った。

 「さて、これらを踏まえて俺からの要求は一つ。お前ら、俺達と一緒に戦わないか?」

 想定内の要求だった。ただ一点、佐竹もご所望というのを除いて。

 「俺だけじゃなくて幽斗も欲しいんすか?」

 佐竹が驚いたように声を上げ、なんでコイツも?と言わんばかりにこちらを見てくる。

 「そいつは浄祓師になる素質がある」

 ええええええええ!と叫び声を上げる佐竹。こいつは相変わらずずっとうるさい。

 「あなたはなんで佐竹が欲しいんだ?」

 僕も疑問に思っていたことを質問する。団長の答えは簡単なものだった。

 「そいつが持ってる本だよ。それは俺たちにとってなかなかに有益な品だ」

 本?あの心霊スポットを教えてくる呪いの?

 「せっかくだ。ちょっと見せてくれ」

 団長が要求する。しかし、見た感じだと佐竹は持ってきていない。
 ところが佐竹はすっと立ち上がると、壁についている本棚から一冊を抜き出して戻ってくる。それはあの呪われた本だった。
 なんでここにあるんだ?理解できていない僕の顔を見て佐竹が話し出す。

 「この本さ、ずっとついてくるんだ。学校に行ったら窓際に置いてあるし、トイレに行ったら手洗い場の横に落ちてる。どこに行っても絶対にどこかしらにあるんだ」

 「なんだそれ、めちゃくちゃ怖いな。けど、それだと他の奴にバレたり拾われたりするんじゃないか?」

 純粋にそう思った。少なくとも僕なら拾わないまでも絶対に気づいてしまうだろう。そんな問いに答えたのは佐竹ではなく団長だった。

 「その本はほとんど穢力で構成されている。持ち主が触ることで実体化し、ある程度距離が離れると再び持ち主の前に出現するってとこだろう。
 ほとんど穢力で構成されているから一般人には見えないし拾えない。なかなかに高度な術式が組み込まれてるな」

 「それならなぜ佐竹は最初に触れたんだ?浄力だって持ってないだろ」

 簡単な話だ。とでも言わんばかりに団長は即答した。

 「取引が成立したんだろ。心霊スポットを調べたいって願望と、持ち主が欲しいって願望がな」

 「まじかぁぁぁぁぁぁ」

 佐竹の叫び声が響き渡った。その後、何かを決めたかのように団長に向かって本を突き出した。

 「あんたらの仲間になるからこの本貰ってくれ!」

 その発言に対し、団長は首を横に振る。

 「残念だがそれはできねぇ。契約に別の契約を被せるのは無理だからな」

 再び叫ぼうとした佐竹を団長が静止する。

 「ただし、その本の情報を提供してくれるのなら、作成者を見つけ出して取引を解消するように言ってやる」

 「それでお願いしまぁす!」

 その瞬間、空間が青く発光した。団長はニヤッと笑って佐竹に手を差し出す。

 「取引成立だ。よろしくな新入り」

 固い握手が結ばれ、僕の友人は浄祓師の協力者となった。

 「さぁ幽斗だったか。お前には浄祓師として俺達と一緒に戦って欲しい。お前の要求はなんだ?」

 要求。願い。望み…

 命を賭してまで叶えたいものなんてあるのだろうか。ここの人達は壊獄のために命を賭けている。おそらく何か事情があってのことなのだろう。僕にはそんなものはない。

 「幽斗、金はどうだ?」

 佐竹の言うことはある意味で最も現実的で合理的なのだろう。確かに僕は富んだ生活を送っているわけではない。けど、命を賭けられるほどそれを強く望んでいるわけでもない。

 「言っとくが、金銭及び一定以上の金銭的価値を持つものは無しだ。うちは会社じゃねぇからな」

 いよいよ困った。長考の末に困り果てていると団長が再び口を開いた。

 「聞いた話だと、お前は他人の命を守るために平気で自分の命を危険に晒すことが出来るらしいな」

 「え、まじで…?」

 佐竹がドン引きしたような顔を向けてくる。
 

 「別に好きで危険に飛び込んだわけじゃない。林の時も学校の時も、命が危険に晒されている人間がそこに居たから戦うしかなかったんだ」

 そうだ。いつだって好きで戦っていたわけじゃない。

 「僕が戦うための力を持っていたから立ち向かわなくちゃいけなかっただけだ」

 平気なわけがない。戦わずに逃げていいのなら迷わず逃げていた。

 少しの沈黙が流れる。佐竹もただ黙っていた。そんな沈黙を破るかのように団長が話し始めた。

 「お前は少しズレてる。普通の人間ならそんなもんほっといて逃げるもんだ。
 自分の命が危険な中、戦うしかないなんて思考には普通はならねぇのさ」

 深く同意するとでも言わんばかりに佐竹が強く頷く。

 「そんなお前にはこんな内容で取引をしようか」
 
 「お前が俺達に協力するのなら、お前と親しい人物の安全は保証してやる。家族、友人、先輩後輩、恋人なんでもいい」

 「悪くない内容だろ?」

 「僕の話を聞いてなかったのか?戦いたいわけじゃない。僕が戦わなくても浄祓師っていうのは悪い奴らを倒すんだろ?」

 思わず声を荒げてしまった。構わない。正義だって言ってたじゃないか。ズレているとか関係ない。戦いに僕を巻き込まないでくれ。

 「そうだ。悪い奴を倒すのが浄祓師だ。ただ勘違いするな。俺たちは正義のヒーローじゃない。正義を執行する処刑人だ」




 ……考えてみれば一度だってお姉さんは間に合うことはなかった。まるで目的が穢者の討伐のみであるかのように…
 僕が戦わなければ被害者が出ていた。自然と怒りが湧いてくる。

 「あんたらは被害者はどうでもいいってのか?」

 「どうでもいいわけじゃねぇ。助けられるのなら助ける。あくまで第一目標じゃないだけさ」

 この言葉で僕の決意は固まった。

 「なるよ」

 「お?」

 「浄祓師になるよ」

 求めていた答えに満足したかのように笑みを浮かべる団長。

 「それならさっきの取引内容で成立でいいか?」

 「ああ。ただ、僕の第一目標は穢者の討伐じゃない」

 「あん?」

 「被害者を出さない。一般人を守るのが第一目標だ。穢者討伐はその次。これが条件だ」

 もし誰もが人を積極的に守ろうとしないのなら、せめて僕だけは誰かを守る正義になる。それが僕の浄祓師としての望みだ。

 「はっはっは!壊獄を目指すのならその辺は別に構わねぇさ」

 意外にも団長はすんなりと受け入れた。もっと脅しを喰らうものかと構えていたが無駄な心配だったようだ。

 「なんか俺の望みがショボいみたいじゃんか!やっぱ俺もかっこいいのに変えようかな?」

 ピリついた空気が和む。それに安堵したのか、佐竹が再び調子を取り戻し始めた。

 「さてと。それじゃあ契約成立だ。よろしくな、新人ども」




 
 その後、団長の部屋を出た2人は先ほどの病室に戻っていた。

 「さっきいた部屋に戻っとけ。新人には研修期間を設けないといけねぇからな。世話役を向かわせるから少し待ってろ」

 僕たちが部屋を出る際に団長はこう言っていた。まもなく浄祓師としての初仕事が回ってくるのだろう。緊張はあるが浄祓師と行動できるという事実が自分を安心させる。

 「浄祓師の研修って何やるんだろな?やっぱ挨拶回りとかやらされるのか?」

 「そんなこと普通の会社でも新人にはやらせないだろ」

 そんな会話をしていた時、病室のドアがゆっくりと開いた。

 入ってきたのは顔色の悪い男性だった。前髪は目が少し隠れるほどに伸びている。黒っぽい服を着ているが、あのお姉さんとは違って弱そうに見える。本当に浄祓師なのか?と思ってしまう。

 「ああ…君たちが新人か…憑椀ひょうわんです、よろしく…」

 声に覇気がない。すでに死神に取り憑かれていそうだ。僕以上に入院すべきではないか?

 「はい!俺たちが期待の新人です!先輩、よろしくお願いします!」

 「すまない…頭がガンガンするから大声を出さないで欲しい…」

 とりあえず佐竹との相性は悪そうだ。今にも死にそうな先輩は病室に準備されていたホワイトボードの前まで来ると

 「それじゃあ研修を始めましょうか…説明の途中でも質問があれば遠慮なく…」

 と研修を始めた。

 こうして僕の浄祓師生活はぬるりと始まりを迎えた。







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