愛しい隠れ美少年はサキュバスだった。

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想田くんに夢中

恋に落ちた日

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俺は友人と特別教室から教室に戻る途中だった。
上階がやけに騒がしかったんだ。
誰かが悪ふざけしてんだろうなって思ったら、案の定複数の男子たちが騒ぎながら全力疾走で階段をかけ降りてきた。
そしたらその内の一人が笹木さんにぶつかってしまって、笹木さんが階段から宙に浮くように落ちてきた。

(ヤバい……)

気づいたら咄嗟に身体が動いていた。
俺は落ちてきた笹木さんのクッションになって庇った。

その場にいた全員が大騒ぎした。
フィギュアスケートで活躍する笹木さんが階段から突き落とされてしまったので周りもかなり焦っていた。
笹木さんも突然のことに驚いて泣きだしてしまって、笹木さんの友人や目撃者が笹木さんを介抱して、ぶつかった男子も平謝りしていた。
実際転倒して怪我することはなかった。
低く構えてキャッチしたから上手に受け身が取れた。
笹木さんも自分も頭や腰を打ち付けずに済んだし、笹木さんは怪我は一切してなかったみたいだ。
だから被害は最小限だったと思う。
そんなこと考えながら騒ぎを遠巻きに眺めていると不意に後ろから手を握られた。
驚いて振り向くとクラスメイトの想田くんがいた。

「今のうちにこっそり保健室行こ」
「……え、」
「腕、血が出てる」

誰よりも早く、そして気を回して俺を助けてくれたのが想田くんだった。

想田くんとはこの時初めて話した。
想田くんは影が薄いっていうか教室では気配を消してる……目立たないようにしてる印象の子だったから無理やり話しかけることもないし接点がなかった。

「先生と入れ違いになったね……判断ミスった……ごめん」

保健室の先生は他の生徒から階段から落ちた笹木さんの報告を受けて現場に駆けつけたと、ちょうど保健室から出てきた生徒に教えてもらった。

「想田くんは俺の恩人じゃん。謝らないでよ」
「……」

想田くんは心配そうに俺の傷と顔を交互に見た。

「この位置……自分で治療しにくいと思うから俺が薬塗ろうか?それか先生待つ?」
「あー……手当て頼んでもいい?」
「うん……」
「ありがとう」
「ちょっと袖捲るね」
「うん」

半袖だったけど二の腕から手首にかけて擦りむいてたみたいだ。
想田くんが俺の袖を捲った。

「え?」
「あ!」

俺は想田くんの反応で気づいた。
俺の二の腕には姪っ子の華ちゃんが落書きしたネコがいる。
想田くんは数秒見て固まっていた。

「自分で描いたんじゃないよ!うちの姪っ子が描いたんだよ!」
「ふふっ」
「…………」

(え、想田くん笑った……)

(ていうか……笑うとめちゃくちゃ可愛い……)

想田くんは笑った顔見られたのが恥ずかしいのか隠すように急に無表情になっててきぱき処置し始めた。

「想田くん、ありがとう。」
「大したことしてないよ……」
「いや、今度ちゃんとお礼させて」
「そういうの求めてないよ……」
「俺がしたい」
「だめ……俺そういうの苦手だから」
「どういうのならいい?」
「……ほっといてくれると助かる」
「え……」
「じゃあ」
「え、え?」

想田くんが俺を残してそそくさと保健室を出て行った。

「ちょっと!想田くん待って!!」

俺は接点を失いたくなくて急いで追いかけた……けど、想田くんって足が速いのかすでに姿がなくなっていた。

俺は自分でも驚くくらい想田くんに心掴まれていた。
あの状況で俺を一番に心配してくれたのが嬉しかった。
手当てまでしてくれる優しさに心開いてしまった。
そして間近で見た可愛い笑顔に完全に恋に落ちてしまった。

(人ってこんな簡単に恋に落ちるんだな……)

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