愛しい隠れ美少年はサキュバスだった。

想田くんに夢中

夢の中で……

その日の夜も俺は保健室で目を覚ました。
ベッドから下りて辺りを見回すと、部屋の角で隠れるように三角座りしてる想田くんを見つけた。

「来ないで……」
「っ、」

俺が歩み寄ろうとすると制されてしまった。
俺は胸がズキッと傷んだ。

(あー……嫌われちゃったんだ……)

「想田くん……今日はごめん……ほっといてって言われたのに、あんな騒いだら嫌な気分になるよね」
「……」
「って、夢の想田くんに謝っても仕方ないか」
「……」
「でも、現実の想田くんになんて謝ればいいかわかんない……っていうか、俺が話しかけたらもっと嫌な気持ちになるかも」
「……ごめん、倉本くん」
「え？」

まさかの想田くんが謝ってきた。
真意を探ろうと表情を覗きこもうとしたけど顔を伏せててよくわからない。

「倉本くんを悩ませるつもりないのに……俺空回りしてる」
「え、え？空回りしてるのは俺じゃない？」

俺の夢なのになんで想田くんを悪者扱いしてんの？？
想田くん一ミリも悪くないのに……？

「想田くんが謝ること何もないよ」
「……」
「想田くんは俺のこと怒ってないの？」
「……不安になったのと、目立ってテンパっただけ」
「うー……俺の方こそそんな気持ちにさせてごめん」
「ううん」
「……嫌われなくてよかった」
「……」

俺はその場で項垂れて座り込んだ。
顔を上げると少し距離のある位置から想田くんが心配そうに見ていた。
俺と目が合うと視線を落として顔を反らされてしまった。

「想田くん、そばに行ってもいい？」

少し沈黙が続いた後小さく頷いた。
俺は『待て』が解除された犬のような勢いで想田くんの元に駆け寄って真横に腰かけた。
想田くんが緊張したのかさっきより縮こまった。

「想田くん……」
「……なに？」
「夢の中では下の名前で呼んでもいい？」
「え？」
「現実の想田くんと混合しないように、ちゃんと区別したい」
「……わかった。『睦治』って呼んで。」
「ムツジってどう書くの？」
「……こうだよ。」

スマホを取り出して漢字を教えてくれた。
俺も尻ポケットに入ってたスマホで自分の名前を打った。

「俺はこれで彰悟だよ。」
「彰悟くん……」
「はい」

確かめるために呼んでくれたみたいだけど嬉しくて返事すると睦治が照れてしまった。

「……いつか現実の想田くんとも下の名前で呼び合いたいな」
「なんで俺なんかと仲良くしたいの？」
「俺が今まで会った人の中で二番目に心が綺麗だから」
「二番目？……ふふっ何それ」
「睦治の笑顔は可愛いね」
「倉本く、じゃなくて、彰悟くんチャラい……」
「チャラくないよ！俺わりとお堅いから」
「何それ」
「俺、人を見る目あるんだ。間違いなく想田くんの心は綺麗だよ」
「……どうだろ」



ピピピピピピピピピ……