たんぽぽ 信一・維士

みー

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維士 小学生・高校生

1995年 維士(イシ・ドク)

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1995年 維士

「維士、ちゃんと黄色帽子被った、気を付けて行ってらしゃい」と玄関で、お母さんが僕に言った。
玄関の隣のtv から「日本上陸です、ウィンドウズ‘95本日発売日です、凄い行列です、」と叫ぶのが聞こえたので、びっくりした。

 下を向いて学校に向かって歩きながら、さっきのTV何だったのか気になった、あの叫びは少し怖かったが考えてもわからなかった。下を向いて歩いていると、黄色い花が、道にたくさん咲いている。
 お母さんは僕に毎日(黄色い帽子は1年間しか被れないから、ちゃんと被って楽しんでね)って言うけど(何を楽しむの)僕は押し入れが楽しいけど、もしかしてお母さんが楽しいのかなぁと、小学1年生の維士は色々考えながら歩いたが、わからない事だらけだった。

 ベタベタ触ってくる人も、後ろから付いてくる人も、玄関に立っている人もいないので学校はつまらないが行こうと思った。

(海の匂いが好きになった、道に咲いている花びらがたくさんある黄色い花も好き)とこの前お母さんに教えてたら、(潮の匂いって言うのよ、お花はたんぽぽって言うのよ、お母さんも好きな花よ)と教えてくれたのを思い出した。

 維士を送り出した朝は、一仕事終えた達成感が僅かにある、ここに引っ越してきて2か月たった。
 祖父の生まれ故郷だが、今は知り合いも遠い親戚もいない、人口5千人の海の近くの小さな町だ。

 東京で家族3人、細やかな幸せを夢見たが叶わなかった。
 維士の容姿は整い過ぎて人形のようだ、感情を全く表に出さない子どもで、人形が動いているように見える、泣く事もない。

 親の私でさえ日に日に増す変貌に驚く、周りが放っておくわけがない、色々な人達が集まって付いてくる、外出が出来なくなり、維士の人への恐怖心は尋常ではない、朝起きると、押入れに自分から入って行くようになっていた。

 幼稚園も1日で辞めた。
 夫だった人も毎日イライラしていた。

 維士への嫉妬なのか私が悪いのかかわからないが、家に帰ってこなくなった。
 
 人が少ない所に行こうかと考えてたら、祖父から昔聞いたこの地を想い出した。
 たぶん維士にとっては、この地も荊の道になると思うが、途方に暮れていた私には一本の光の道に見え引っ越して来た。

 神様の気まぐれで天使を地上に落とし、修行の為あらゆる苦労をしろと言う事だろうか、
どうしたらいいかわからなかった。
 維士を育て上げる事が出来るのか毎日不安だったが、守ってあげれるのは私だけだと思った。

「これ維士くんにどう、キャンセル出たんだ」駅前のパート先の電気店の店長が箱を差し出してきた、ウィンドウズ’95だった。

 普段寂し想いをさせているので購入する事にした。
 夕方5時までのパートシフトだった、「ただいま」と家に入って押し入れを開けると、維士が枕を抱いてゴロゴロしてた。

 (今日も嫌な事あったんだ)と思ったが、
「これ一緒にやろう」とウィンドウズ‘95の箱を維士に見せた。
 
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