たんぽぽ 信一・維士

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2011年 3月 信一

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2011年3月 信一

 東京駅新幹線入口で、おれはドクを見た。

 異世界の人間が、スーツを着て地上にいるくらい、目立っていた。

 心臓がバクバクして動揺したが、カメラを向けられ生放送中だ、歩きながらの囲み取材だった。口を開ける必要のない、TV受けの取材だった。
 ドクの側をすれ違う時、一行は、ドクに見惚れた一瞬カメラがドクに向いた。   

 大丈夫かなと心配になった「ドク」と思わず声を出した。マイクに拾われた。

 しまったと思ったが遅い、ドクはマネキンのようにスッと立っていたが、誰のことも見てないように見えた。

 1年ぶりだった。

 ドクの側に格好いい男が来た。
 肩を抱いて見つめあって、ドクの天使の超美形が、笑顔になって笑いあってた。
 何なんだ、ドクどうなった、その男誰だ、この一瞬でショックだった。
 仕事中だがイライラして来た、駅の外で待っている車に乗るまでが仕事だった。
 その後、戻っても、もういないだろう。車に乗り込み目を瞑った(会ったところで何を言うんだ、嫌われただろう)と、おれが、おれに話かけた。

 この1年間は、未来がなく、もう探す意味も見いだせず、#空____#カラだった。

 全て自分がやった事の結果だ、中身は子どものまま成長してない、自分に呆れてる。
 周りが神輿を担いでくれている世界は、異常な世界だが、おれが望んだ世界だ。

 何の為の仕事か、おれの歌に感動した人達の為か、よく考えろ、おれ、中毒性の曲で売ってもらい、感動させるよう、様々な仕掛けがあるCM 、ドラマ、映画、使って貰えれば莫大な利益になる。

 売り込みにも金が動く、あたり前の事だが、同じ人の曲をCM、ドラマ、映画で使ったら、ほんの一部のファン以外、離れていく、新鮮さがなく、心に入れなくなる。
 世の中おれを含めて、新鮮な喜怒哀楽感求めている、次はいくらでもいる、飽きられた感じに、片足入ったのはわかる。
 おれは、言われた事をするだけなので、軌道修正すら、出来ないでいる。
 仕事辞めてドクの側で、好きな曲をゆっくり作りたい。

 ドクの絵の邪魔にならない、絵のイメージの曲を作りたい。

 今おれが作っている、1番・2番、イントロ・サビとかの売る、大衆音楽ではなく、1枚のドクの絵に合わせて、壮大な曲を思い通り作りたい。

 叶わぬ夢かぁ、、、呟いた。

 あの男は誰なんだろう、どうやって調べたらいいのか、ドクがあんなになついている。
 たった1年間で、一瞬しか見てないが、恋人同士のように見えた、嫉妬心が燃え上がった、知らない男の事で頭が一杯だ。

 (疲れた)って、口から漏れてしまった。
 事務所に戻りソファに座ると、社長が生放送お疲れ様、TV見てたよ。

 映画タイアップ上手く行くといいね。

(主演女優と夕食後、朝帰りの新幹線ホームで直撃)約5分の生映像だ。

(いくら払ったか知らないが、元取れるのかぁ)と、思った。

 映像化で、歌い手の顔がわかるのは、当たらない、歌い手の顔が映像を半減させる、作り手は半減をわかっていても、人気のある歌い手に便乗したい、あらゆる媒体で大成功と言う。
 実情は火の車だ、どっちも転ぶ確立も高いが、仕方がない。

 今回のは4年前依頼された、映画主題歌だ、お金が集まらなく、4年経ってやっと出来上がり公開だ。
 おれではダメだ、顔がわかりすぎて映画の足を引っ張るし、旬も過ぎた。
 今更感が強い。 

 公開に合わせ色々仕掛けるが、最近上手く行かない事が多くなった。
 商品価値下がったか、仕掛け人達の意識が低くなったか、どっちかと考えら、同じ事だと気付いた。

 おれが問題かぁと、考えてたてたら、電話が鳴って、社長がとった。

 (TV局からで、朝の生は、失敗だと言う、失敗とは局は、はっきり言わないが、話しをまとめると失敗)と社長は言った。

 おれは焦った、あの仕事のどこでミスをしたか考えた、歩く仕事だった、一言「ドク」言ってしまった、あそこか、後は思いつかない。

 あの一言で、何百万も捨てたのか、歩く仕事も、満足に出来ないのかと焦った。

「最終から最後まで見てたけど、途中に超美形の男の人が、スッと立ってるアップと、カメラが引いて、
 美形中心に周りの人達が惚け、そこに違う美形が来て、肩を抱いて笑顔で去った、言葉だと長いけど、たった2・3秒の出来事よ、私も見ていて、よく覚えている、
 (この2人は、誰だ)
 (何の、撮影現場だとか)、凄い電話とメールで、パンクするのは時間の問題だって、ネットでも拡散しているらしいよ、信一は薄くなってしまったって。

 あぁ、、次、考えなきゃ、、なんかの撮影やってたの」って、社長が聞いてきた。

「一般人だよ」っておれは答えた。

(おれも、簡単に食われんだ、ドクおまえは凄いよ、)涙が出てきた。
 
 おれは、目にゴミ入ったって独り言、言った。


 1年ぶりに見かけてから、毎日気持ちが落ち着かなくなった、会える訳でもないのに、夜、毎日ネットで、(ドク 絵)を検索した。

 えっ今日は、検索に出た、個展を開くようだ。ドクの絵のファンの、つぶやきだった。
 あっちこっち調べて、4月に無人駅舎で個展、嬉しさが込み上げたが、会ってなんて言えばいいんだ、謝っても、泣いても、

(あっ、そうですか)って、言われそうだ。

 会いに行くと逃げられるのか、おれから逃げたのか、違うと思う、自信過剰過ぎる。誠意しかないな、あの男と一緒なのか、たぶんそうなんだろう、目の前で仲良く去った姿を思い出した。

 アルコールを手放せない、25歳でアル中目前かあ、ため息と、涙が、出た。
 

 おれは、待ちに待った4月1日、休みを丸1日もらっていた。
 2時間の移動で個展を開いている駅舎に来た。数人が個展目当ての乗客だった。
 初日なのでドクがいると思ったが、椅子に座っているおじさん1人だった。アルバイトで11時から16時まで座っている、途中で違う人と交替するが、その人もアルバイトだと教えてもらった。

 20枚の絵、1枚1枚の側には1輪の蕾のチューリップ、一瞬ドクが立っていると錯覚させる、生の花だが整い過ぎて造花に見える、絵の邪魔にならないようにスッと立っている。


(チューリップ20本単位で発送4月2日より色指定不可)
チューリップも売っていたので、事務所に買った。

 おれは11時から16時まで、絵を見ていた。
 全部買いたいが、1枚だけに300万の入札金額を書いて箱に入れた。
 もしこの1枚が入札出来なかったらとも思ったが、高額でも嫌われそうな気がするので、書き直さなかった。

 15時以降は、飾っているチューリップをくれるという(生の花で悪くなる・と言う理由だ)
 花には詳しくないが、これだけ丹精込めて作った花だ、水さえ変えれば2週間くらいは持つはずだ。

 ドクの個展の為の花だったんだ、
一瞬ドクに見えたチューリップは、逆だった、ドクを守っていたんだ。

 1枚に1輪レイアウトが、あからさまに見えた。
 おれは自分に呆れた、気づくのが遅い、もう16時だ帰る間際にわかった。  
 
 このチューリップを出している人を、アルバイトに聞いた。この町でチューリップを作っている、とだけ教えてもらった。
 絵を描いた人は知らない、って言っていた。ドクはこの町にいることを、確信した。
 絵には感動したが、ドクの側のチューリップに嫉妬した。

 2日後、チューリップが事務所に届いた。

 開けてビックリした、20本頼んだのが30本入ってた事、一本一本和紙で包んで、その上蕾だけも、また和紙で包んで、豪華な御礼のカード入りだった。

 あの値段で、この花の数と、豪華さ、赤字だろう、頭がくらくらして来た、嫉妬通り越して、負けたくないと思った。

 ドクには内緒でやっている事が、手に取るようにわかる、全てドクの個展の為に、こいつは何者なんだ。

 「気が向いたから買った、飾ってくれ」と事務員に言った。

 毎日、見た事のないチューリップの君と、東京駅の男に嫉妬だった、何をどうしたらいいのか、わからない、ドクを忘れるか、忘れる事が出来るか、おれじゃない奴と、笑い会っている、見なきゃよかった、知らなきゃ、よかった、ため息しか出ない。

 落札出来た事、メールがきた、返信したいが、ドク本人からなのか、わからない。

 絵を取りに行こう、思いついたおれは、その旨をメールで送った。
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