アゲイン~儚き夢の先へ~

うかづゆすと

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第六話 中間テスト

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 休日明けの朝、俺はいつものように由美と学園までの道を歩いていた。

「祐二、この前言ってた部活のことなんだけど、不思議部って今、綾崎さんと祐二の二人なんだよね?」

「うん、そうだけど、それがどうかした?」

「祐二が綾崎さんに変なことしてないかなあって思っただけ」

「変なことって何だよ」

「何って、そりゃあその……やましいこととか、なんか祐二が部活始めたっての、まだ信じらんないんだよね」

 いきなり失礼な事を言ってくる由美。

「それに知ってる? 綾崎さんって可愛いし、うちのクラスでも人気なんだよ? そんな綾崎さんと二人きりで部活なんてさ、下心とかあったんじゃないの-? って、痛ぁ!何すんのよ-!」

 ニヤニヤしながら俺を覗き込む由美のおでこにデコピンする。
 綾崎さんの事については、もう何度も翔太から聞いてるし、本人を目の前にしたのだから俺だって分かる。
 クラス内外だけでなく、学年問わず、綾崎さんの事を知らない人は居ないとか、おまけに成績も上位五人の内に必ず入るとか、いくらなんでも完璧過ぎだろ。

「下心とかそんなんじゃないって、単に部活の内容に興味があっただけだよ」

「うー……ほんとかなあ? じゃあその活動の内容って何なのさー?」

 おでこを擦る由美は不満そうな顔を俺に向けてきた。

「だからそれは前も言っただろ、忘れたのか?」

「覚えてるけど……」

「いい加減しつこいぞ、とにかく俺は部活することに決めたんだ、帰宅部よりはマシだろ?」

「むー、まあいいや……あーあ、私も何か部活やろうかなあ」

「由美がか? 何にするんだ?」

「思い切って陸上部とか!」

「また転ぶぞ」

「もーバカにすんなー!」

「あー、そうそう、もう中間テストの時期だねえ」

 そういえばそうだった。確か来週はじめの三日間だったかな。赤点取るようなことは流石にないとは思うけど、一応勉強しとかないとな。

「祐二は自信ある?」

「まあ、それなりに……そういう由美はどうなんだ?」

「私は全然ダメだよー……また赤点だったらどうしよう、追試やだなあ」

 由美はがっくりと肩を落とした。
 が、すぐに元の体勢に戻り、何かひらめいたとばかりに言った。

「あ、いいこと思いついた」

「カンニングか? そういうの俺、よくないと思うけどなあ」

「ちがうよ! 勉強! いい勉強法思いついたの!」

「なんだよ、それ」

「えへへー、ヒミツー」

「はあ、まあ赤点は取らないようにな」

「大丈夫大丈夫、秘密兵器があるから!」

 秘密兵器……やっぱりカンニングかな? まあやる気を出したならいいか。
 そうして他愛ない会話をする内に、俺たちは学園の門を潜っていた。


「じゃあ、祐二またねー」

「またな」

 由美と別れて自分の教室へ入り、席に着く。

「おう、祐二おはよう」

「おはよう翔太」

「映画、どうだったよ」

 由美と行った映画の感想について翔太が尋ねてくる。

「見ててすごいテンション下がった」

「だろうなー、あれ、テンション上がるようなヤツじゃないからな」

「翔太を道連れにできなくて残念だったよ」

「俺は泣ける映画ってのは嫌いじゃないぜ?」

 自信満々に言う翔太。
 俺も別に泣ける映画が嫌いという訳ではないが、あの時はなんて言うか、魅入ってしまったのだ。映画に登場したカップルの男の方に感情移入してしまい、終わる頃には目の前が真っ暗になったような虚無感を感じたのを今でも覚えてる。
 だめだ、また思い出してしまいそうだ。

「今度見るならアクション映画だな」

 気持ちを切り替える為に口を開く俺。それに翔太が応える。

「今度何か見に行くならちゃんと予定空けるよう頑張るから、また誘ってくれや」

「わかった、また誘う」

「ところで、そろそろ中間テストだけど、翔太は大丈夫そうか?」

「全然ダメだな!」

 こいつ言い切りやがった。それも自信満々に。

「大丈夫かよ、翔太も追試組か?」

「流石に追試は無いさ、それなりに授業はマジメに受けてるからな。まあ英語は危ないと思うが他は大丈夫だと思うぜ?」

 由美の言う全然ダメと翔太の言う全然ダメでは温度差があるようだ。しかし由美は今回は秘密兵器があるとか言ってたし、俺が面倒見なくても何とかなりそうか。
 そんな事を考えてる内にホームルームが始まった。

 放課後、部室に入った俺は予想外の光景を目の当たりにする。

「あ、小原さん、ここはこの公式を使うんですよ」

「あ、なるほど、やっぱ綾崎さん教え方上手だなあ。助かるよー」

「いえ、小原さんも飲み込みが早いので、教え甲斐があります」

「え? そう? えへへー、もしかしたら私、勉強の才能あるのかも!」

「あ、そこは解き方が違いますね、ここはこう──」

 綾崎さんが由美に数学を教えているようだ。"秘密兵器"ってまさか……

「あら、英田くん」

「あ、祐二、やっほー」

「やあ、綾崎さん、由美」

 俺は二人と挨拶を交わすと、近くの椅子に腰掛けた。

「今、小原さんの勉強を手伝ってるんです」

「そう、由美、朝言ってた秘密兵器っていうのは──」

「じゃーん! 綾崎さんのことでしたー!」

 両腕を開いて綾崎さんの方へ向けた由美は自信満々にそう言ってみせた。

「だろうと思った……」

「お二人ともお知り合いですか?」

 綾崎さんは不思議そうな顔をしながら由美と俺を交互に見つめる。

「祐二と私は幼なじみなんだー。幼稚園の時から一緒」

「そういうこと」

「そうでしたか、どうりで仲が良いと思いました」

 納得したような綾崎さん。

「ごめんね綾崎さん、由美の面倒なんて見てもらって」

「なんで祐二が謝んのさー、祐二は私の保護者か!」

「いえ、そろそろテストですし、本来ならどの部活も時間を減らしたり、お休みしたりってところが多い時期ですから、それに勉強しなければいけないのは私も一緒です」

 抗議する由美をなだめながら、綾崎さんはそう言った。

「そうか、確かにテストも大事だし、部活はやめておいた方がいいのかな」

「そうですね、でも部室はいつも通り使えますので、テストが終わるまでは勉強会、ということでどうでしょう。よろしければ英田くんもご一緒しませんか?」

「そうだね、俺もそうさせてもらうかな」

「やったー、三人で勉強会だ!」

 嬉しそうな由美。
 俺は綾崎さんの誘いを受け、勉強会に参加することにした。


 薄々感じていたことではあったが、やはりというか、結果的に勉強会初日は俺と綾崎さんで由美の勉強につきっきりになる形となった。

「だから由美、ここの解き方はこうやって──」

「えー? もう一回言って、祐二の説明わかりづらくて」

「小原さん、ここはこうやって──こう解くといいですよ」

「あ、なるほど! 綾崎さんありがとう!」

 人に教えるのは多少自信があったのだが俺が教えるのと綾崎さんが教えるのとで由美の反応の差が酷い。正直自信をなくしそうだった。

「俺、自分の勉強しようかなあ」

「そうしなよ、下手くそ祐二!」

「まあまあ、英田くん、小原さんの勉強は私がサポートしますので、ご自分の勉強をなさってもかまいませんよ」

「うん、そうさせてもらう……」

 すっかり意気消沈した俺は古文の教科書を取り出した。

「(勉強会か──悪くないもんだな)」

 目の前の二人を眺めながら、そう思った俺は、開いた教科書に目を落とす。
 その時──

「(なんだ……この感じ)」

 以前どこかで感じた胸騒ぎのような感覚。それはやがて頭痛へと変化する。

「(頭が……痛い……!)」

 再び訪れたその感覚に身悶する俺に、濁流のように押し寄せてくるフラッシュバックが襲いかかってきた。

「(これは……部室?)」

 それは、部室で綾崎さんが勉強している光景だった。
 どうやら俺と綾崎さんの二人で今のような勉強会をやってるのか、何度も俺の手元にある教科書を指差し、何か語りかけてくる綾崎さん。
 その頬は微かに赤らんでいるようだった。

「(俺の……記憶?)」

 場面は変わり、帰り道なのか、楽しく談笑する綾崎さんの姿。

「(これじゃあまるで──)」

 その光景はわずかに歪み、闇の中に吸い込まれていくように消えていった。

「……くん、……ですか、英田くん?」

「え?」

 気付けば頭痛は治まっていた。そして目の前で心配そうに俺を見つめる二人。

「どうしたの? 二人とも」

「どうしたのじゃないよ、祐二いきなり頭抱えて唸り出してびっくりしちゃったよ」

「そうですよ英田くん、どうかしたんですか? なんだか顔色も悪いですし、今日は無理なさらない方が良いですよ?」

「うん……」

 どうやら本気で心配してくれているみたいだ、これ以上心配させてしまっては悪いと思った俺は、綾崎さんの言葉に従い、今日のところは帰ることにした。


 夜、ベッドに潜り込んだ俺は今日の出来事を振り返る。

「あれは何だったんだろう」

 今日のような勉強会だろうか、由美は居なかったし、いつの頃の記憶なんだろう。
 それになんだか綾崎さんの表情、赤らんだ頬、その表情は今よりも柔らかくて、まるで──

「恋人みたいだったな……」

 こう言ってしまうと自意識過剰過ぎるのではないだろうかとも思えたが、それ以外の答えが見つからなかった。

「何言ってんだろ……俺」

「きっとこの間見た映画の影響か何かに決まってる……」

 そう決めつけ、早々に寝付くことにした。


-----------------------------------


 それからテストまでの期間、綾崎さんと俺とで由美の猛指導は続いた。
 もちろん俺も自分の勉強はおろそかにしていない、ある程度良い点を取れるだけの自信はあった。
 綾崎さんの方は問題ないだろう、きっと今回も上位に入るに違いない。
 反対に由美は全教科赤点の前科持ちだ、このままでは進級だって危ういかもしれない。
 そんなこんなで迎えた中間テストもあっという間に過ぎ、結果が配られてきた。
 勉強会の甲斐もあって俺は全教科八十点以上の好成績だった。
 翔太の方は、やはり英語がダメだったみたいで赤点、それ以外の教科は50点前後というところだ。
 廊下を歩く途中、掲示板に目が留まる。成績上位の生徒についての貼り紙があった。

「綾崎さん、流石だな……」

 綾崎さんの名前はリストの一番上、つまり一位だ。由美の勉強をずっと見ていただけでなく、きっちり自分の勉強もこなしていたのだろう。

「あ、祐二祐二、テストどうだった?」

 由美が廊下の先から俺を見つけ、駆けてきた。

「悪くなかったよ、由美の方はどうだった?」

「知りたい? なんと全教科四十点以上だったよ! えへへー」

「おー、頑張ったじゃないか」

「うん! これもしおんちゃんのおかげだね!」

 勉強会を重ねるうちに打ち解けていった由美と綾崎さんは互いに下の名前で呼び合うようになっていた。
 下の名前呼びを強要したのは由美の方で、それに気圧されるように綾崎さんも由美のことを『由美さん』と呼ぶようになったのだ。

「綾崎さんだけかよ、俺だって由美の勉強見たじゃないか、俺には感謝の言葉とかないのか?」

「えー? 祐二は説明下手だったし」

「俺、本当に自信なくしそう……」

「まあまあ、気を落とさないで、そんなわけでこれからもよろしくね! あ、私そろそろ行くから祐二、またあとでー」

 そう言って去って行く由美を見送りながら俺は──

「これからも?」

 由美の言葉の一つが引っかかっていた。

 テストも終わり、また部活の再開である。
 俺は部室のドアを開く。

「七不思議! 私も好きだよー!」

「そうなんですか! よかったあ、それじゃあ由美さんも私たちと一緒に研究していきましょう!」

 楽しそうに談笑する由美と綾崎さん。

「これって……?」

「あ、英田くん」

「やっほー祐二」

「なんで由美が居るの?」

 疑問に感じたことを二人に問いかける。

「ああ、言ってませんでしたね、由美さん、今日からうちの部員なんですよ」

「え?」

「不思議部に入部しました小原由美でーす! よろしくね、祐二!」

 俺は意味が分からずしばらくドアの前で棒立ちしていた。

「……ええ!?」
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