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第八話 作戦会議
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あれから何度か図書室で土地の歴史について調べたものの、やはりというかこれ以上の収穫は得られなかった。
いつの間にか梅雨は明け、あっという間にもう七月、梅雨とはうってかわって強い日差しにさらされ、カラッとした暑さで汗ばむ季節となっていた。
「暑い……」
勉学に集中できるようにとの学園の方針で各教室にはエアコンが完備されている為、授業を受けている間は夏の厳しさを忘れることができた。
だが部活はその限りではない。部室にはエアコンなんてものは導入されておらず、密閉された空間に長時間居ようものならサウナにでも入ったかのような錯覚に見舞われるほどだ。
部室のドアも奥の窓も全快にした状態で、たまに流れるそよ風を生きがいにしながら俺は汗ばむ制服の第二ボタンあたりをつまみながらパタパタと前後させる。
「暑いですねえ」
そんな中、言葉とは裏腹に涼しげな表情で本を読むのは綾崎さんだ。
「綾崎さんは暑いの平気なんだ?」
そう言うと綾崎さんは「いえ」と一言おいてこちらに顔を向ける。
「平気というわけではないです。多分、英田くんの居る席が暑いだけだと思いますよ?」
そう言った綾崎さんの髪を窓から入るそよ風が静かに撫でる。
「じゃあ、俺と席変わって……」
「ふふ、お断りします」
笑顔で席替えを拒否される。
ここ暫くの間に綾崎さんともこういうやりとりもできるようになったのは喜ばしいことだが、それでもこのモワッとした熱気はそんな嬉しさに浸る余裕を与えてくれない。
「由美、遅いなあ」
俺たちは由美を待っていた。掃除の当番で遅れるからという事を前もって聞いているので腹を立てるつもりは無いが、この熱さにまいってしまう前に来て欲しいと切に願っていた。
「やっほー!祐二、しおんちゃん。ごめん待った?」
「おう、当番おつかれさん、由美」
「由美さん、お疲れ様です」
急いで来たのだろうか、息切れ気味に登場した由美に俺たちは軽く挨拶すると、由美も席についた。
そして当面の活動方針について話し合う事にした。
「ということで、歴史の観点から調べるのが困難となると、切り口を変える必要があると思うんだ、どうすればいいだろうか」
俺は、今抱える問題を二人に投げかける。
「そうですね、これは難しい問題ですね」
「うーん、良い案浮かばないなー」
「だよなあ……」
分かってはいたが、皆同じく行き詰まりを感じているようだ。
このまま闇雲に調べても結果は期待できないだろう。ここ数週間同じテーマを追っている疲れもある。
そこで、俺は二人に一つの提案をすることにした。
「一旦、この件から離れることにするのはどうだろう?」
「英田くん、それって?」
「どういうことー?」
二人が同時に視線を向けてくる。
「言葉通りの意味だよ、煮詰まった状態で続けても良い結果は得られないと思うんだ、だから、一旦七不思議の七つ目の謎に関する調査は保留にして別のテーマに取り組むのはどうだろうか」
「でも英田くん、それじゃあ英田くんは──」
そこまで言いかけて綾崎さんはハっとし、口ごもった。
そう、"俺が未来からきた人間である"ことは二人だけの秘密なのだ。
そして七つ目にある通り、元の時代へ帰る事もまた可能ではないかという理由で調査していることも──
「ん? しおんちゃん、祐二がどうかしたの?」
「い、いえ、何でもありません」
少し申し訳なさそうに俯く綾崎さん。
「とにかく、別テーマにする案について、二人はどう思う?」
「ん? 私は賛成だよー。もう本読むの疲れちゃったよー」
由美らしい理由だ。
「私も、賛成です。別のテーマに取り組むことで、また違った観点で調査もできるかもしれませんし」
確かに視点を変える良い機会になるかもしれない。綾崎さんの言うことも納得できる。
「じゃあ、次のテーマなんだけど、綾崎さん、何か無いかな?」
そして、次なる活動方針を部長である綾崎さんに決めてもらおうと思い、俺は綾崎さんへ話題を振ることにした。
「そうですね、じゃあ──」
綾崎さんがそこまで言いかけた時、部室へ新たな来訪者が現れた。
「失礼します、飯田です。ごめんね部活中に」
「絵里、どうしたんだ?」
「やっほー絵里ちゃん」
俺と由美がやってきた絵里と挨拶を交わすと、続けて綾崎さんが口を開いた。
「飯田さん、何かご用でしょうか?」
「うん、あのね、来週から始まる合宿キャンプの事なんだけど──」
学園の教育方針の一つである"生徒の協調性を育む"ことを目的とした施策の一環で、二年生はこの時期、近くのキャンプ場を借りて二泊三日の合宿を行うらしい。
絵里が話しているのはその合宿の事だが、それは今日担任からも聞いているし、なぜ部室に顔を出したのかが分からなかった。
そんな疑問の視線を向ける俺を含めた三人の視線に応えるように、絵里は言葉を続けた。
「その合宿なんだけどね、ついさっき委員会で決定になった事で、部活に所属してなかったり部員が二名以下の部は例年通りクラス内でチームを組むんだけど、三人以上の部員がいる部についてはその部でチームを組んでもらうことになったの」
「部でチームを、ですか」
「うん、多分明日には先生方から説明があるとは思うけど、まあ念のため、ね」
他の部にも同じように連絡して回っているのだろう、絵里の額に汗が見受けられる。
暑いのに大変だなあ。
「わかりました、わざわざ連絡してくださって、ありがとうございます」
「確かに伝えたよー、じゃ、私まだ他の部にも説明しなきゃだから、失礼するね」
「ああ、わざわざありがとうな、絵里」
「絵里ちゃんまたねー」
「うん、またね、二人とも、それじゃ」
そう言って絵里は部室を出て行った。
「合宿キャンプ、そういうえばそんなイベントもあったなあ」
「そうですね、私も少し忘れていました」
「楽しみだねー」
合宿キャンプは当日、午後から現地へ出向し、到着したら先ずはテントの設営を行う。その後は各々のチームで夕飯の準備だ。夕飯はチーム毎に食材を持ち寄り、自由に作って良いらしい。
そのため、チームを早めに決めておかなければならなかったのだが、友人が同じクラスだと翔太と絵里くらいのものだったし、絵里の方は既に決まっているようだったので、正直困っていたところだった。
部でチームが組めるのならありがたい。
「ところで、合宿の二日目って何するんだ? 説明あったと思うけどよく覚えてなくて」
「確か、オリエンテーリングがあるって聞きましたよ、あとは夜に生徒会主導で肝試し大会……もあるとか」
「オリエンテーリングって?」
「オリエンテーリングというのは──」
綾崎さんが言うには、オリエンテーリングとは、地図とコンパスを用いて、山野に設置されたポイントを指定された順に巡り、ゴールを目指すというものらしい。
合宿の会場となるキャンプ地は、近くとはいっても周りを山で囲まれた場所だ、俺はなるほどと納得していた。
「(しかし、由美は山の中で迷子とかにならないだろうか……こいつ方向音痴だからな)」
チラリと由美を見やるも、由美はその視線に反応すると俺の考えてる事が分かったようでいきなり噛みついてきた。
「あ、今迷子にならないかなとか考えてたでしょ! もう高校生だよ、そんなことするわけないじゃん!」
「俺、何も言ってないんだけど……」
まあ、考えてはいたけど。
しかし、綾崎さん、肝試し大会の部分は何だか声が小さいように思えたけど、気のせいかな?
「じゃあ二日分の食材と献立を考えなきゃいけないね」
朝食と昼飯は学園側で用意するらしい、俺たちが必要とするのはあくまで二日分の夕飯ということになる。
「そうですね、あ、でしたら当面の部活の内容を合宿キャンプに向けた作戦会議、というのはどうでしょう」
「あ、さんせーい!」
「うん、俺も意義なしだよ」
もちろん反論は無いので、俺と由美は綾崎さんの意見に賛同する。
「あ、でも俺料理とか全然しないから献立考えるのは自信ないや」
「私も、簡単な料理ならお母さんから教えてもらったことあるし、作れるけど、やっぱ自信ないかなあ」
俺は料理なんてしたことが無いし、由美も自信が無いようだ、二人して辞退したのを見た綾崎さんは両手を合わせて嬉しそうにこう言った。
「なら、私が考えても良いですか?」
なんだか目をキラキラさせながら言う綾崎さん。普段から料理でもしているのだろうか、その目は自信に満ちているように見えた。
「うん、そうしてくれると助かるよ、その分食材持ちとか力仕事は俺が担当するから」
「私も! 何か手伝えることがあったら言ってね!」
「はい! 食材についてはまた後日お知らせしますね」
正直うちのチームで料理が出来る人が居てくれて助かったと思った。しかし綾崎さんの手料理か……自然と期待が膨らんでくる。
俺はそれを顔に出さないよう努め、同時に、この事を他の連中に知られたらどうなるだろうかという一抹の不安を抱えていた。
いつの間にか梅雨は明け、あっという間にもう七月、梅雨とはうってかわって強い日差しにさらされ、カラッとした暑さで汗ばむ季節となっていた。
「暑い……」
勉学に集中できるようにとの学園の方針で各教室にはエアコンが完備されている為、授業を受けている間は夏の厳しさを忘れることができた。
だが部活はその限りではない。部室にはエアコンなんてものは導入されておらず、密閉された空間に長時間居ようものならサウナにでも入ったかのような錯覚に見舞われるほどだ。
部室のドアも奥の窓も全快にした状態で、たまに流れるそよ風を生きがいにしながら俺は汗ばむ制服の第二ボタンあたりをつまみながらパタパタと前後させる。
「暑いですねえ」
そんな中、言葉とは裏腹に涼しげな表情で本を読むのは綾崎さんだ。
「綾崎さんは暑いの平気なんだ?」
そう言うと綾崎さんは「いえ」と一言おいてこちらに顔を向ける。
「平気というわけではないです。多分、英田くんの居る席が暑いだけだと思いますよ?」
そう言った綾崎さんの髪を窓から入るそよ風が静かに撫でる。
「じゃあ、俺と席変わって……」
「ふふ、お断りします」
笑顔で席替えを拒否される。
ここ暫くの間に綾崎さんともこういうやりとりもできるようになったのは喜ばしいことだが、それでもこのモワッとした熱気はそんな嬉しさに浸る余裕を与えてくれない。
「由美、遅いなあ」
俺たちは由美を待っていた。掃除の当番で遅れるからという事を前もって聞いているので腹を立てるつもりは無いが、この熱さにまいってしまう前に来て欲しいと切に願っていた。
「やっほー!祐二、しおんちゃん。ごめん待った?」
「おう、当番おつかれさん、由美」
「由美さん、お疲れ様です」
急いで来たのだろうか、息切れ気味に登場した由美に俺たちは軽く挨拶すると、由美も席についた。
そして当面の活動方針について話し合う事にした。
「ということで、歴史の観点から調べるのが困難となると、切り口を変える必要があると思うんだ、どうすればいいだろうか」
俺は、今抱える問題を二人に投げかける。
「そうですね、これは難しい問題ですね」
「うーん、良い案浮かばないなー」
「だよなあ……」
分かってはいたが、皆同じく行き詰まりを感じているようだ。
このまま闇雲に調べても結果は期待できないだろう。ここ数週間同じテーマを追っている疲れもある。
そこで、俺は二人に一つの提案をすることにした。
「一旦、この件から離れることにするのはどうだろう?」
「英田くん、それって?」
「どういうことー?」
二人が同時に視線を向けてくる。
「言葉通りの意味だよ、煮詰まった状態で続けても良い結果は得られないと思うんだ、だから、一旦七不思議の七つ目の謎に関する調査は保留にして別のテーマに取り組むのはどうだろうか」
「でも英田くん、それじゃあ英田くんは──」
そこまで言いかけて綾崎さんはハっとし、口ごもった。
そう、"俺が未来からきた人間である"ことは二人だけの秘密なのだ。
そして七つ目にある通り、元の時代へ帰る事もまた可能ではないかという理由で調査していることも──
「ん? しおんちゃん、祐二がどうかしたの?」
「い、いえ、何でもありません」
少し申し訳なさそうに俯く綾崎さん。
「とにかく、別テーマにする案について、二人はどう思う?」
「ん? 私は賛成だよー。もう本読むの疲れちゃったよー」
由美らしい理由だ。
「私も、賛成です。別のテーマに取り組むことで、また違った観点で調査もできるかもしれませんし」
確かに視点を変える良い機会になるかもしれない。綾崎さんの言うことも納得できる。
「じゃあ、次のテーマなんだけど、綾崎さん、何か無いかな?」
そして、次なる活動方針を部長である綾崎さんに決めてもらおうと思い、俺は綾崎さんへ話題を振ることにした。
「そうですね、じゃあ──」
綾崎さんがそこまで言いかけた時、部室へ新たな来訪者が現れた。
「失礼します、飯田です。ごめんね部活中に」
「絵里、どうしたんだ?」
「やっほー絵里ちゃん」
俺と由美がやってきた絵里と挨拶を交わすと、続けて綾崎さんが口を開いた。
「飯田さん、何かご用でしょうか?」
「うん、あのね、来週から始まる合宿キャンプの事なんだけど──」
学園の教育方針の一つである"生徒の協調性を育む"ことを目的とした施策の一環で、二年生はこの時期、近くのキャンプ場を借りて二泊三日の合宿を行うらしい。
絵里が話しているのはその合宿の事だが、それは今日担任からも聞いているし、なぜ部室に顔を出したのかが分からなかった。
そんな疑問の視線を向ける俺を含めた三人の視線に応えるように、絵里は言葉を続けた。
「その合宿なんだけどね、ついさっき委員会で決定になった事で、部活に所属してなかったり部員が二名以下の部は例年通りクラス内でチームを組むんだけど、三人以上の部員がいる部についてはその部でチームを組んでもらうことになったの」
「部でチームを、ですか」
「うん、多分明日には先生方から説明があるとは思うけど、まあ念のため、ね」
他の部にも同じように連絡して回っているのだろう、絵里の額に汗が見受けられる。
暑いのに大変だなあ。
「わかりました、わざわざ連絡してくださって、ありがとうございます」
「確かに伝えたよー、じゃ、私まだ他の部にも説明しなきゃだから、失礼するね」
「ああ、わざわざありがとうな、絵里」
「絵里ちゃんまたねー」
「うん、またね、二人とも、それじゃ」
そう言って絵里は部室を出て行った。
「合宿キャンプ、そういうえばそんなイベントもあったなあ」
「そうですね、私も少し忘れていました」
「楽しみだねー」
合宿キャンプは当日、午後から現地へ出向し、到着したら先ずはテントの設営を行う。その後は各々のチームで夕飯の準備だ。夕飯はチーム毎に食材を持ち寄り、自由に作って良いらしい。
そのため、チームを早めに決めておかなければならなかったのだが、友人が同じクラスだと翔太と絵里くらいのものだったし、絵里の方は既に決まっているようだったので、正直困っていたところだった。
部でチームが組めるのならありがたい。
「ところで、合宿の二日目って何するんだ? 説明あったと思うけどよく覚えてなくて」
「確か、オリエンテーリングがあるって聞きましたよ、あとは夜に生徒会主導で肝試し大会……もあるとか」
「オリエンテーリングって?」
「オリエンテーリングというのは──」
綾崎さんが言うには、オリエンテーリングとは、地図とコンパスを用いて、山野に設置されたポイントを指定された順に巡り、ゴールを目指すというものらしい。
合宿の会場となるキャンプ地は、近くとはいっても周りを山で囲まれた場所だ、俺はなるほどと納得していた。
「(しかし、由美は山の中で迷子とかにならないだろうか……こいつ方向音痴だからな)」
チラリと由美を見やるも、由美はその視線に反応すると俺の考えてる事が分かったようでいきなり噛みついてきた。
「あ、今迷子にならないかなとか考えてたでしょ! もう高校生だよ、そんなことするわけないじゃん!」
「俺、何も言ってないんだけど……」
まあ、考えてはいたけど。
しかし、綾崎さん、肝試し大会の部分は何だか声が小さいように思えたけど、気のせいかな?
「じゃあ二日分の食材と献立を考えなきゃいけないね」
朝食と昼飯は学園側で用意するらしい、俺たちが必要とするのはあくまで二日分の夕飯ということになる。
「そうですね、あ、でしたら当面の部活の内容を合宿キャンプに向けた作戦会議、というのはどうでしょう」
「あ、さんせーい!」
「うん、俺も意義なしだよ」
もちろん反論は無いので、俺と由美は綾崎さんの意見に賛同する。
「あ、でも俺料理とか全然しないから献立考えるのは自信ないや」
「私も、簡単な料理ならお母さんから教えてもらったことあるし、作れるけど、やっぱ自信ないかなあ」
俺は料理なんてしたことが無いし、由美も自信が無いようだ、二人して辞退したのを見た綾崎さんは両手を合わせて嬉しそうにこう言った。
「なら、私が考えても良いですか?」
なんだか目をキラキラさせながら言う綾崎さん。普段から料理でもしているのだろうか、その目は自信に満ちているように見えた。
「うん、そうしてくれると助かるよ、その分食材持ちとか力仕事は俺が担当するから」
「私も! 何か手伝えることがあったら言ってね!」
「はい! 食材についてはまた後日お知らせしますね」
正直うちのチームで料理が出来る人が居てくれて助かったと思った。しかし綾崎さんの手料理か……自然と期待が膨らんでくる。
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