アゲイン~儚き夢の先へ~

うかづゆすと

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第十八話 目撃者

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 待ちに待った昼休み。
 学食へ行く者、弁当を広げて食べ始める者も居る中で、いつものように翔太が振り返ってきた。

「おっしゃ、昼飯だ、祐二行こうぜ」

「悪い、今日は止めとく」

 翔太の誘いを断ると、彼はこちらに怪訝な顔を向けてくる。

「なんだよ、腹の調子でも悪いのか?」

「いや、そういう訳じゃないんだけど……」

 さてどう説明したものか……
 しおんと昼を一緒にする約束なのだが、この場で説明するわけにもいかないなと言い訳を考えていると、突然翔太の表情が驚きに変わった。

「お、おい祐二」

「なんだよ」

「後ろ、後ろ」

 翔太が後ろを指さす。
 俺はそれにつられるように振り向くと、目の前にはしおんが立っていた。

「祐二くん、お昼行きましょう」

「ゆ、祐二くんだと……」

 驚きを隠せない翔太を無視し、しおんに話しかける。

「ああ、ごめん、待たせちゃったかな、しおん」

「おいおい、下の名前で呼び合うって……お前、綾崎さんとどういう関係なんだよ……」

「どうって」

「ほら、祐二くん、時間なくなっちゃいますよ」

 しおんは言葉に詰まる俺の手を握ってきた。
 そして俺の手を引くと、急に教室がザワつき始める。

「おい、あれって」「綾崎さんだよな……」「なんで綾崎さんが英田の手なんか握ってるんだ」

「ま、まってしおん、この場所でこれは……」

「何言ってるんですか、恋人同士なんですから遠慮なんて必要ないですよ」

 あ、それは今ここでは──

「「「「なにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」」」」

 遅かった。
 男子生徒一同の絶叫が教室に響き渡る。そこには当然翔太の分も含まれていた。
 俺は彼女に手を引かれるまま翔太に「そ、そういうことだから」と一言残し、教室を後にした。

「祐二ぃぃぃぃ! 羨ましいぞ畜生ぉぉぉ……!」

 翔太の叫び声が遠くに聞こえてくる。
 それにしても、しおんがここまで積極的なんて、予想できなかったな。

「いきなり公言するってマズかったりしなかった?」

「何がですか?」

 俺の言葉に、不思議そうな顔を向けてくる彼女。
 本当に自覚ないんだろうなと俺は思った。

「しおんってさ、学年ですごい人気なんだよ。それだけじゃない、学園内でしおんの事知らない人は居ないくらいだって知ってる?」

「え、そうなんですか?」

「やっぱり自覚ないよね」

「そう言われても、私が人気だなんて、やっぱり信じられません」

「そう言うと思った、クラスの反応見たでしょ? 普通それで気付くはずだけど」

「私は祐二くんしか見てませんでしたよ?」

 鈍感にも程があるだろう……
 しれっと恥ずかしい言葉を口にする彼女に、俺は嬉しさと恥ずかしさでつい口元が緩んでしまった。

「そ、それはさておき、お昼どこで食べようか」

「そうですね……」

 そこで足を止め、思案する様子のしおん。無計画に廊下を歩いていたのがその様子で理解できた。

「あ、そうだ、校庭に行きませんか?」

「校庭?」

「外で食べる昼食も美味しいと思って、それに木陰になってる場所なら涼しいですよきっと」

「わかった校庭ね、行こう」

 外で食べる昼食も良いなと思った俺は、ふたつ返事で彼女の案に賛成した。
 
 
 校庭へ出た俺たちは、グラウンドが見渡せる場所に木陰を見つけ、そこに座ることにした。

「はいこれ、祐二くんの分です」

 そう言ってしおんは大きめの箱を手渡してきた。

「ありがとう、早速開けるね」

「はい、どうぞ」

 俺はその箱を開けると、そこにはサンドウィッチが綺麗に整列していた。

「おお、サンドウィッチ! 美味しそうだ」

「祐二くんの好きなものを全部詰め込んでみました」

 切り込んだパンの断面からは、トマトと卵焼きの他にハムとレタスが顔をのぞかせていた。

「それじゃあ早速、いただきます」

「はい、召し上がれ」

 俺は一つ手に取り、口に運ぶ。
 口に入れるほんの一瞬、手が震えた気がしたが彼女を信じて思い切りかぶりついた。

「ん……」

「どう、ですか?」

「うん、美味しい!」

 正直な感想、美味しいかった。

「よかったぁ!」

 喜ぶ彼女を横目に、俺はそのサンドウィッチを勢いよく食べきった。

「そんなに急いで食べなくても、逃げていきませんよ?」

「いや、ほんと美味しくてさ、もう一つもらっていい?」

「もちろんです、祐二くんの為に作ってきたんですから、遠慮なんてしないでください」

 俺はそのまま次のサンドウィッチを手に取り、今度はゆっくりと味わう。
 レタスのシャキシャキ感とトマトのジューシーさ、それにハムと卵の重量感がとてもバランスよくとれている。
 やっぱりしおんって料理上手なんだなと改めて思い知らされた。
 そうして俺は、気付けばサンドウィッチを全て平らげてしまった。

「ご馳走様。すごく美味しかったよ」

「それを聞いて作った甲斐がありました。あ、お茶ありますよ……どうぞ」

 しおんは手持ちの水筒からコップにお茶を注ぎ、俺に差し出してきた。

「ありがとう」

 俺はそれを飲み干す。

「でもこんなに喜んでもらえるとは思ってませんでした」

「何で?」

「だって私、合宿の時に失敗しちゃって、少し自信が持てなかったんです」

 まだ合宿の時の失敗を引きずっていたのだろう、でもそれはアレンジしすぎたのが原因であって、普通に料理すれば問題ないだけなんだけど……

「しおんは料理は上手だと思うけど、それ以外を入れたからじゃないかな……」

「はい……それは反省してます。でも今回祐二くんの反応を見て自信がもてました」

「こんなに美味しいならどれだけあっても食べきれちゃうな」

「ふふ、そんなに食べるとお腹壊しますよ?」

「しおんが作った料理を残すなんてとんでもないよ、でも作りすぎないようにお手柔らかにね?」

「ふふ、分かってます。これからは毎日お弁当作ってきますね」

「それは楽しみだ」

 彼女の手作り弁当が食べれるという事に幸せを感じ、つい緩んだ顔になってしまう。

「あ、そうだ」

 俺は、今朝から考えていた計画についてしおんに打ち明けることにした。

「なんでしょう?」

 自分の食事を中断し、俺に顔を向けてくるしおん。

「しおん、今度の休日って暇?」

「休日ですか? はい、特に予定は無いですが」

「それじゃあさ、デートしない?」

「え?」

 驚きにも似た表情で一瞬固まる彼女の顔を見て、急に不安になってしまった。

「ダメ?」

「い、いえ、もちろん行きます! あまりにも突然の事なので何て言っていいのか混乱してしまって」

 本当に混乱していたのだろう、慌てた彼女は身振り手振りを交えながら弁解してきた。
 それが可笑しくてつい笑いそうになるのを必死にこらえる。

「でも、デートなんてしたことなくて、何をしていいのか私には分からないです」

「この間の夏祭りだって、いわゆるデートじゃないかな?」

「あ……それもそうですね」

 まあ、まだあの時は付き合っていなかったわけだけど、やってたことはデートそのものだ。

「そういうこと、どこか出かけようって話」

「そういうことでしたら、はい、喜んでお受けします」

 今度は笑顔で応えてくれた。それを見て言い出した甲斐があったなと内心ほっとする。

「それを聞けて安心した。デートプランは俺の方で考えるから、しおんにはそれで楽しんでもらいたいと思ってる」

「いいんですか?」

「誘ったのは俺の方だし、それくらいさせてよ」

 彼女に負担を掛けさせるわけにはいかない、こういう時こそ彼氏らしさを発揮しなければ……
 デート代も俺持ちにしたいところだが、学生の身分でそんなお金出せる訳が無いのでここは割り切るしかないだろう。
 けど、少しだけ親に頼ってみようかなとも考えていた。

「なら、楽しみにしてますね?」

「任せて!」

 どんと胸を叩くと、それを見て彼女はとても楽しそうに笑った。
 こうして楽しい昼食は終わりを告げ、教室に戻るやいなや俺は"翔太達"に囲まれてあれこれ聞かれるのだった。


-----------------------------------


 放課後、いつものように部室へ入ると、しおんはやはり先に来ており俺を待っていた様子だった。

「やあ、しおん。いつも早いね」

「いえ、私も今着いたところですよ」

 いつも通り本を読んでいたしおんは、本を閉じて机に置くと俺の方を向いた。

「祐二くん」

「うん? なに?」

「今日の部活なんですけど、由美さんもお休みですし、やっぱり今度の休日のデートプランについて話し合いませんか?」

 いきなり何を言い出すかと思えば……
 しかし彼女の顔は真剣そのもので、心が揺らぐのを感じた。

「いや、ダメでしょそれ! 公私混同は止めよう」

「駄目……ですか?」

 今度は上目遣いに覗いてくる。
 この子、分かっててそうしてるな……!?

「そんな目をしても駄目なものは駄目。部活は部活でちゃんとやろうよ」

「うぅ……わかりました」

 怒られた子犬のような姿につい意見をねじ曲げてしまいそうになるが、割り切りは大事だ。
 俺は揺れ動く心を無理矢理部活動に傾け、彼女の案を却下した。

「それじゃあ早速図書室に行こうか」

「あ、それなんですが、今日は別の方法にしませんか?」

 しおんに何か案があるのだろう、その提案を聞くことにした。

「というと?」

「以前私に七不思議の話を聞かせてくれた子が居るんですけど、その子に七つ目の話を他にも知ってるか聞いてみたくて」

「なるほど、それはいい案だね」

 確かに歴史から紐付けようなんて言ってもこれまで何も収穫が無かったし、たまにはそういう方向転換もいいかなと思った俺はしおんの案に賛成する。

「美術部の山田幸子という名前の、確か中等部二年の子です」

「分かった。じゃあその子に聞いてみようか」

 そう言って俺たちは席を立ち、部室を後にした。


-----------------------------------


「こんにちは、不思議部の者ですけど、山田さん……は居ますでしょうか?」

 しおんは美術部に入り、近くにいた生徒に話しかける。

「あ、綾崎先輩、幸子さんなら──」

 その子が指さす先、部室の片隅で絵を描いてる真っ最中の様子だった子がこちらに気付き駆け寄ってきた。

「綾崎先輩! どうしたんですか?」

「お久しぶりです山田さん、その、少しお時間よろしいですか? またあの話を聞かせてもらいたくて」

「あ、はい、それは大丈夫です。それで……そちらの方は?」

 俺を不思議そうに見る山田さん。

「この方は英田祐二くん、不思議部の部員ですよ」

「そうなんですか、分かりました、じゃあ外でお話ししますね」

 そう言うと俺たちを案内するように部室を出た山田という女の子は、階段の踊り場までやってきて足を止めた。

「それで、あの話って、やっぱり七不思議の話ですよね?」

「はい、その中でも七つ目の話について何か他に知ってる事がないかなと思いまして」

「七つ目、"黄泉の扉"ですか……そうですね」

 そんな名前だったのか。何か過去と未来っていうよりあの世に繋がってそうな名前だな……

「そういえば──」

 暫く思案していた山田さんが口を開いた。

「友達の一人が、最近変なモノを見たとか言ってました」

「変なモノ? なんですか?」

「七不思議と関係あるか分かりませんが……」

 山田さんは一呼吸おいて話を続ける。

「その子はバレー部なんですけど、部活帰りに丁度その空き地の方を見ると、人が立っていたそうなんです」

「人が……あ、すみません、続きをお願いします」

 しおんの言葉に山田さんは「はい」と返し、続きを語ってくれた。

「人が居ること自体特に不思議は無いんですが、その時はなんだか妙な寒気を感じたみたいで、その子はそれが気になったらしく校舎の影から覗いたみたいなんですね、それで……」

 そう言いかけて、黙ってしまう山田さんに俺は声を掛ける。

「何かあったの?」

「でもおかしいんです。校舎裏って灯りとか無くて、それに日も沈んで暗いはずなのに輪郭だけはハッキリしてるというか、女の人だということは分かったそうです。後ろ姿だったので誰かまでは分からなかったみたいなんですが、なんでもその人の身体の周りがぼんやりと光って見えたとか、それで輪郭がハッキリ見えたんだと思います」

 人が光る? そんなことがあるのか? 例えば携帯を弄っていてその光に当てられて輪郭が浮かび上がったとか、そういう可能性もあるが。

「それに独り言のようにぶつぶつを何かを言ってたみたいで、それが何なのかは分からなかったそうです。その子も怖くなってすぐその場を離れたって言ってました」

「それは、いつ頃の話ですか?」

 しおんが尋ねると山田さんは即答する。

「一昨日だそうです。この話も昨日聞いたばかりです」

「そう……ですか」

 山田さんは不安そうな顔をしおんに向けてきた。
 一昨日というと休日になる。丁度俺としおんが夏祭りに行ってた時の話みたいだ。
 女の人という言い方から察するに、うちの生徒であるかどうかは判断つかなかったみたいだ。まあ休日に制服着る生徒なんて居るはずないが……

「あの、これが私の知ってるお話の全てです。その子も勘違いかなと言ってましたし、部活で疲れて変なモノを見たと錯覚していただけかもしれません」

「十分有益な情報でした。山田さん、貴重な話をありがとうございます」

「い、いえ! 綾崎先輩のお力になれたなら嬉しいです!」

「それじゃあ、あまりお時間取らせてはいけないので、山田さん、ありがとうございました。行きましょう、祐二くん」

「うん」

「あ、あの!」

 山田さんはしおんにまだ何か言いたげな顔を向けてくる。

「その、綾崎先輩と英田先輩は、どういった関係で?」

「どういった関係って、ただの部員だけど?」

 俺がとっさに答えると、山田さんは納得がいったのかいかなかったのか微妙な顔を見せた。

「そう……ですか、あ、いえ、何だかお二人の距離が何だか近いなーとかそういったこと思って言ったわけじゃないので、それじゃあ失礼しますね!」

 そう言って山田さんは部室へ帰って行った。

「距離が近いって……ああ、なるほど」

 気が付けば俺としおんは互いの肩がぶつかるくらいの距離で、ほぼ密着ともいえる距離で立っていたのだ。
 でも変だな、最初は少し離れて立っていたはずなんだけど……

「じゃあ行きましょうか、"ただの部員の英田くん"?」

 俺から離れ振り向くと、笑顔でトゲのある言葉を口にするしおん。
 恐らく俺の言った言葉が原因で根に持ってるのだろう、見るからにご機嫌ナナメの様子だった。

「今は部活だから我慢しようね!?」

 今日の部活動の残り、俺の仕事は部室に戻っても中々機嫌を直してくれない彼女をひたすらなだめる事だった。
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