アゲイン~儚き夢の先へ~

うかづゆすと

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第二十七話 儚き夢の先へ

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 一面灰色の世界。
 その中で、俺はひたすらに走った。
 坂を上り──
 駅前を抜け──
 川を一つ越えた先、そこに大きく構えた総合病院。
 彼女の時が止まった場所であり、この世界が始まった場所。

「はぁ……はぁ……」

 息を整える間もなく病院の中へ足を進める。
 階段を昇り、最後に彼女を見た病室。
 立て札に"綾崎しおん"と掛けられた病室の前まで来ていた。

「……」

 病室のドアを静かに開ける。
 そこに佇む最愛の人、その後ろ姿を見つけた。

「しおん!」

 呼びかけた声に反応し、ゆっくりと振り返る彼女は、微笑みを浮かべながら俺をじっと見つめた。

「祐二くん……」

「やっと見つけた」

「何で、ここが分かったんですか?」

「全てを知ったから。君が何者で、この世界がどういうものか」

「……ッ!」

 彼女は一瞬困った顔を見せるが、口元だけは笑みを崩さない。

「バレちゃいましたか」

「しおん……」

「私、自分が何者か分かってしまったんです。これ以上祐二くんを困らせる訳にはいかない」

「だからって、また世界を作り変えるのか?」

「だって……そうするしか無いじゃ無いですか……」

「しおん、もうこんな事は止めるんだ」

「何故……そんな事を言うんですか? 私の唯一のよりどころなんですよ?」

「違う、ここはそんな良い世界じゃない」

「違わないです!」

 突然大声を上げる彼女。
 だが俺は譲る気は無い。

「違う」

「何が違うって言うんですか!? 私にはもう未来なんて無いんですよ!? 祐二くんとの思い出に浸っていたい……祐二くんと離れたくない……!」

「それは、俺も同じだ。俺はしおんの事が好きだ、愛してる」

「私も……私も祐二くんの事が好きです! だから……だから!」

 彼女のその瞳は涙に濡れていて、顔は感情に歪んでいた。
 俺はしおんに歩み寄り、そっと抱きしめる。

「祐二くん……?」

「しおん、確かにこの世界は俺たちの幸せな時間が詰まっている。俺だって出来ることならこの幸せな時間をもっと二人で過ごしたい」

「だったら……なんで……」

 震える彼女の肩をそっと掴み。俺たちは見つめ合う。

「でも、それじゃあダメなんだ、約束したの覚えてる? これから先の光景も全て、一緒に共感していこうって」

「覚えてます……忘れるわけ、ありませんよ」

「この世界では、たとえ一緒に居られても、これから先が無いんだよ。延々と同じ時を繰り返すだけだ」

「だって……私にはもう未来なんて」

「しおんの怪我は、もう完治してるんだよ。しおんが目覚めないのは何故かを俺、考えたんだ。きっと君は目覚める事を怖がってる」

「私が……?」

「目覚めても、俺のことを忘れてしまうんじゃないか、もう二度とこの気持ちを思い出す事ができないんじゃないかって」

「それは……」

「違う?」

「……」

 俺の言葉に、彼女は黙ってしまう。

「たとえしおんが俺を忘れてしまっていても、俺が覚えてる。きっと俺たちはまたやり直せる。俺が保証する」

「祐二くん……でも、私──」

「俺を信じて」

「……うぅ……うぅ……っ!」

 彼女は顔を埋め、肩を震わせる。

「俺が、君を守ってやる。だから安心して、一生掛けて、君を幸せにしてみせる」

「……なんだかそれって、プロポーズみたいですね……?」

 顔を上げた彼女は涙でぐしゃぐしゃに濡れたまま、笑みを浮かべる。

「もちろん、プロポーズだよ」

「……嬉しい……」

「しおん、本当の世界でも同じ事を言うけど、今言わせて」

「……」

「俺と、結婚してくれないか?」

「……はい」

 彼女は目を細め微笑みながら、はっきりと答えた。

「よかった……」

「私が断るわけ、ないじゃないですか」

「俺を振ったのに?」

「もう、忘れてください……」

 俺たちは再び抱きしめ合う。
 窓の外では、世界の崩壊が眼前まで迫ってきていた。

「もう、この世界も終わりにします」

「あっちの世界に戻ったら、すぐ会いに行くよ」

「約束……ですよ? 目覚めた時に居なかったら怒りますよ?」

「ああ、約束だ。俺が約束破った事ある?」

「ふふ、冗談です。信じてますから」

「しおん……」

「祐二くん、最後に一つだけお願いして良いですか?」

「何?」

「キス……してください。最後に一回だけでいいから」

「わかった」

 そう言って目を閉じる彼女の肩を掴み、優しく引き寄せながら俺は唇を重ねた。
 窓が崩壊し、病室は砕け散る。
 足場を失った俺たちは、それでも抱きしめ合いながら、宙を舞った。
 耳元で彼女の声が響いてくる。

「愛してます。祐二くん」

「俺もだ、愛してるよ、しおん」

 その瞬間、まばゆい光に包まれ、目を開けていられなくなる。
 意識が段々遠くなるのを感じた。
 俺はその感覚に身を委ね、そしてとうとう意識を手放した。


-----------------------------------


「祐二……! 祐二!」

「ん……ここは?」

「祐二! よかったあ、やっと起きてくれた!」

 心配そうに、今にも泣き出しそうな由美の顔がそこにはあった。

「由美? 俺、どうして……」

「何言ってるの! 心配して着いていったら祐二倒れてたんだよ?」

「俺が?」

 あたりを見回す。
 ここは、御柱学園か?
 辺りは夜すっかり夜だったが、"見慣れた"学園の景色を眺めていると、ふとある物が目に留まった。

「あ……」

 目の前には、祠──
 そうだ、ここは現実の世界だ。

「由美、俺、どれくらい倒れてた?」

「え? 私が駆けつけてすぐ起きたから、ほんの数分くらいだと思うけど……」

「そうか……」

「具合でも悪いの? もう今日は帰った方がいいんじゃない? 私送ってくよ?」

「いや、いい、それよりごめん、俺用事思い出したから行くわ、翔太達にもよろしく伝えておいて」

「え? 用事って?」

 由美の言葉を遮るように携帯を取り出した俺は番号を検索して電話を掛ける。

「あ、もしもし? はい、お願いしたいんですが……はい、御柱学園の校門前でお願いします」

「ちょ、ちょっと祐二、何やって──」

「ごめん由美、これから"しおん"に会ってくる」

「しおん……ちゃん……? 祐二、もしかして記憶が……」

「また今度話す。急ぐから、それじゃあ」

 そう言って俺は校門へ向けて走り出す。
 まだ酒の酔いが少し残っていたのだろうか、少しフラつく足取りで必死に走った。
 校門前で待ってると、先ほど呼んだタクシーに乗り込み、行き先を指示する。
 そしてタクシーは病院へ向けて走り出した。


-----------------------------------


「ありがとうございます、はいこれ、お釣りはいいです。それじゃ!」

 タクシーを飛び出て病院へ駆け込み、そのまま目的の病室へ走った。

「あ、もう面会時間は終了してますって……ちょっと待って!」

 カウンターに居る看護師の言葉を無視し、そのまま階段を駆け上がる。
 そして病室のドアを静かに開けて、中へ入った。

「……」

 ゆっくりと、奥のベッドまで歩み寄る。
 そこに居たのは、顔はやせこけ、腕は枯れ枝のように細くなっているものの、長い美しい髪をそのままにした、俺のよく知る綾崎しおんがそこで眠っていた。

「しおん……」

 声を掛けるも、反応は無く、心電図の音だけが病室に響いている。
 俺は彼女の側までくると、今にも折れてしまいそうなその手を握り、また声を掛ける。

「しおん……俺だよ、祐二だよ」

 一瞬、ほんの一瞬だけ指先が動いた気がした。

「……ッ! しおん! 俺はここだ!」

 今度は確かに動いた。
 俺は声をかけ続ける。

「しおん……頼む……起きてくれ……! 一緒に居ようって約束しただろ……!」

 しかし、彼女は目を閉じたままだ。

「……ダメなのか……」

 そう思った瞬間、かすかに何か、聞こえた気がした。
 耳を澄ませてみる。

「……え……る……よ」

「え?」

 俺は顔を上げると、彼女は目を開け、しっかりと俺を見ながら、震える声で言っていた。

「覚え……てる……よ。私、祐二くんの事……覚えてるよ」

「……あ、ああ……!」

 思わず覆い被さるように抱きつく。

「祐二くん……重いよ……」

「ごめん……ごめん!」

「私、覚えてた、覚えてたよ……祐二くん……っ」

「ああ……ああ!」

「まったく、面会時間は終わってるってのに……って、え? ええ!? 綾崎さん!? 起きて……せ、先生、先生ー!」

 病室入ってきた看護師が慌てた様子で掛けだして行った。
 しかしそんなことはどうでもいい。
 俺たちは、再び出会えたのだ。

「祐二くん、約束、したよね? 言って?」

 これから先の未来、どんな事があろうとも、二人で歩いて行こう。
 そこに何が待っているのかなんて分からない。
 でも、きっと二人でこれから出会う物全てが色鮮やかに輝いて見えるだろう。
 俺は、一生掛けて目の前の愛おしい人を守り抜くと心に誓った。

「しおん、俺と、結婚してくれないか?」

「……はい……っ」



-fin-
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