罪の受け人。Sin suffer human.

そこの俺、

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序章 「森の物語の開幕」

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 現代の科学や文化は凄い。
 だって、人の命を救ったり、人を成長させることが出来るから。
 しかし、科学や文化は怖い。
 だって、人の命を奪ったり、人を残酷に出来るから。
 
「そんなもの」があったら、いいな、と私は思う。
 しかし、人の住まう環境に「そんなもの」があったら人は皆それに馴染んでいく。
「朱に交われば赤くなる」といったところだろう。
 つまり、「そんなもの」が便利であるならば、人は「そんなもの」に甘え、縋るだろう。
 それと同時に「そんなもの」は人の環境に馴染むため、人は自分で行動を起こすことをやめ、ダメな人間となる。
 また、「そんなもの」が人の命を奪うものだとすれば、人は「そんなもの」をあたりまえ、常識と捉え、しだいには「可哀想」とも思わない非情な人間となってしまう。

 そして、「そんなもの」が無い、純粋な世界から物語は始まる。


 そこは、緑に囲まれ、そよ風が吹き、小鳥の合唱や植物の揺れる、大変気持ちの良い音が聞こえている。
 その森の奥深くに一筋の光が差し込んでいた。
 その光は芝生を光らせ、芝は黄緑に主張していた。
 そこから少し離れた場所にあった湖は、水かさが高いことから昨晩かに雨が降ったのだろうか、すこしばかり赤く汚れている。
 芝の奥にあったのは、煉瓦造りの家。煙突があり、薪が外においてある、いかにも洋風といえる家だ。
 そして、その家の手前にある芝生。光のさしている部分に、赤髪の十歳ほどの少女がいた。お嬢様のようなとても可愛らしい服は少女の顔に合っていた。
 少女は薄暗い森を照らす一筋の光が気に入ったのか、幸せな顔でぐっすりと、芝生の上で寝ていた。

 
 某所。
「おい、ちょっといいか?」
「何でしょう。」
「実はだな、「破壊する者デストロイ」が昨晩、街にあった赤ワインをがっぱり持っていって、ここら辺・・・広範囲に撒いたあと、火でボワッ、とやったらしいんだ。」 
「それで、朝から街がざわざわうるさかったんですかね。」
「そう思ってくれ。全く、「アンチ」は何をしているんだかな。」


 森にて。
「あ痛ーー!」
 赤い髪の少女は起きた、そして、あたりを見回して、
 
 頭に落ちてきた林檎を手に取る。

 しかし、この森には良いのか悪いのか、赤髪の少女しか人間はいない。
 では、この林檎なんだ?その正体は、
「ありがとう!りんごの木さん!」
 林檎の木であった。
「でも今度からはあたまはやめてほしいかなあ。いたかったんだよ?」
 林檎の木はわかった、という意味でもう一つ林檎を彼女の足元に転がした。
「ふふっ、ありがとう。でも、わたしはひとつあれば十分だよ。だからこれは小鳥さんにあげるね」
 と、彼女のもとに小鳥がたくさんやってくる。
 そして、彼女が林檎を芝の上に置くと一心不乱につつき出した。
「ははは!皆ずっと仲良しでいようね!」

 実は彼女には家族がいない。
 その代わりの支えとなっているのが、植物や妖精である。
 親は、両方とも国に殺された。
 そして、もう一人、姉がいた。
 しかし、姉は親の頼みで逃された。現在はどうなっているかは知らないが、どうにかなっているだろう。
 親は何故殺されたのか、それは、「破壊する者デストロイ」を産んだ。否、創ってしまったのだ。
 破壊する者デストロイは普通に親から産まれたものではない。
 親が非合法で手に入れた「taboo scripture禁忌教典」を用いて、子供を創ることで、圧倒的な力を持つものが産まれる。
 何故、彼女の親は「破壊する者」を創ったのかは知らない。
 しかし、taboo scripture を用いたことは、勿論、名の通り禁忌である。
 それを創ったがために、親は国に消された。しかし、姉は逃げ、妹の彼女だけが、ここに居る。
 勿論、姉も「破壊する者」である。
 そして、妹の方にあり、姉にはない、決定的な違いがあった。
 それは、

 夜、午前零時から三十分間。彼女は無自覚に、ものを破壊する。

 無自覚というのは眠った状態なのだ。
 そして、「ものを破壊する」と、聞くぶんにはあまり驚異的に聞こえないだろう。しかし、その「もの」は家であったり、食べ物、家畜、思い出のもの、そして、

 人の命まで奪うのだ。

 そして、その現象は、まさに、魔女の起こす災厄。
 だから、その魔女を野放しにしていると、今回起こった酒の泥棒と放火などではとどまらない。

 そのために、国のある者は禁忌教典を読んだ。
 その者の書いた文章を読もう。「一部抜粋」

   魔女の作成。

・まず、二人の男女が深い愛で結ばれる。
・婚約してから七週間後の午前零時に受精させる。
・十月十日の晩。誕生を愛し合う二人のみでやり遂げる。
 そして、
・産まれてきた子に一週間以内で、禁忌教典を暗記させる。暗記すれば、その子は輝き、やがて、髪は赤くなる。それで魔女の完成だ。

                                 以上。

 簡単に聞こえるだろう?
 しかし、産まれて一週間で暗記はそうそうできることではない。
 しかし、やり遂げたのだ。彼女の親は。

 暴力を使って。

 禁忌教典から意識が途切れたら暴力。泣いても暗記させる。また暴力。また暴力。
 暴力を繰り返し、実ったのが、破壊する力。
 しかし、彼女の顔を見れば見るほど、胸が締め付けられてしまう。
 あんなに純粋で可愛らしい少女が「殺人兵器」のように扱われる、否、なっているのは大変よろしくないさ。
「はははー!小鳥さん!あっちまできょうそーだ!」
 正直殺したいくらい可哀想であった。
 
 だから、だからそんな彼女を保護という形で研究しているものがいた。
 その「研究者」は毎晩八時に彼女の家に行き、ご飯をあげ、その中に「薬」を入れていた。
 
 その薬は、暴走する彼女の三十分を十分に縮める効果があった。
 しかし、そんな物が入ってるとも知らずに少女は純粋にご飯を食べる。

 そして、今日もまた、午前零時に「殺人兵器」は十分間の悲劇をつくる。

 開幕だ 
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