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二章 「少年と少女」
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「五百歳である」
この言葉に少年、マルクは思考をフル回転させた。
・・・五百歳でこの見た目(十歳ほど)。仮に五百歳がこんな少女だったら、世界中の人間はみんな幼女とかそういうものだろう。否、五百歳ならふつうもっと老けているべきであろう。
目の前の異常な光景にマルクの頭は正常ではなかった。
ふつうならまず五百歳ということを突っ込むべきであろう。
「えぇ、と、まず、これ着なよ。」
と、マルクは服の上に羽織っていたマントを少女に与える。
・・・しかし、きれいな赤い髪だなぁ、地毛かな?それとも染めたのかな。
すると少女はマントを受け取り、ゆっくりと頭に乗せた。
「何も見えない・・・」
「いや、そうじゃなくて!体に巻きなよ!」
少女は「わかった」と言って、今度はちゃんと体を覆うように巻いた。
・・・これで何とか少女を見て話せるな。
「ねぇ、君なんで宝石みたいなのに閉じ込められていたの?」
すると少女は「無垢」という言葉が似合いそうな、ぽけーとした顔で
「わかんない」
「そっかー・・・」
まあそうか、仮に五百歳でも十歳でも急に宝石に閉じこまれてたけどなんで?なんて聞かれたらふつうは理解できないだろう。
だから簡単な質問を
「君の名前は?」
「ヒメジ ザイア」
「成程。ヒメジ ザイア・・・ザイア?僕と同じ名前じゃないか。」
珍しいこともあるものだな。とマルクは思っていると、
「くしゅん!」
と、ザイアは大変かわいらしいくしゃみをした。
季節は秋。ちょうど林檎が取れる時期だ。冷たい風が吹いており、彼女のように薄着だと少し冷えてえしまうだろう。
「とりあえず僕の家に・・・ここから一時間くらいかかるからなぁ」
風邪をひいてもいいなら行こう・・・という考えは思いつかなかった。だから、
「どこか風が当たらないような場所に・・・
僕はあたりを見回すと、目の前の少女は当然、そこに最初からあった、というような感じで指をさした。
「あれ」
その指の方向を見ると、煉瓦造りの家がたたずむ。煙突があり、薪が外においてある、いかにも洋風といえる家だ。
「よし、じゃああそこに入ろう。」
「うん」
そして僕は進もうとしても、少女は動かない。
「どうしたの?」
「おぶって。」
何を考えているかはわからないが、とりあえず考えるのがめんどくさいのでそのまま負ぶってあげた。
マント一枚の少女は僕の背中にしっかりとしがみついていて、少々冷える環境のなかでひどく熱く感じられた。
煉瓦造りの家の中。
僕は負ぶっていた少女をとりあえずおいてあった木の椅子に乗せた。そして、ベッドにおいてあった毛布を取り、彼女にかける。そして僕は外に置いてあった薪を家の中の暖炉に入れ、持っていたマッチで火をつける。
「んー。この薪しけてるなぁ。ちょっと火がつくのに時間がかかりそうだ。・・・何か温まるものはないかな。」
そうだ、と僕は持っていたバッグからあるものを取り出した。
「ココアの粉。おばあちゃんが作ってくれたんだ。まあ、ほとんど砂糖だろうけどね。あ!でもこれも結局あっためなきゃいけないのか。そこにキッチンはあってもそれも火は薪でつけるものだしなあ。」
と、僕は一本だけ薪を持って自分の体温で温め、早く乾かないかと、形だけでも努力してみる。
そして、全然効果のないという現実に突き付けられた僕は、ふと少女のほうを見る。
するとそこには
「顔が赤いぞ!?大丈夫か?!」
先ほどの時間に体調を崩してしまったのだろうか、とてもだるそうにしている。
すぐに駆け寄り、額に手を当ててみる。僕はうっかり薪を持ったまま彼女の額に触れる。
「あ!ごめん!あわてて僕の手じゃなくて薪を君の額に当ててしまった!」
そして勢いよく薪を持っていた手を後ろに、彼女から引き離す。
すると、急に僕の薪を持っていたほうの手が熱に包まれる。
「ん?あったかいなあ。なんだ・・・急に熱く・・・って熱っ!」
何が起きたんだと、ふとその手を見る。
そこにはありえない現象が起きていた。
「薪が燃えている!?」
おかしい。だって火をつけようとした薪とは別に、ただ僕が持っていた薪が燃えているのだ。
そしてふと、少女のほうを見る。
さらに先ほどより赤くなった顔を見て、
「大丈夫かい!?ザイア!」
僕は暖炉にその炎を纏った薪を暖炉に投げ捨て、毛布で彼女を巻いたまま、もともとこの毛布が置いてあったベッドまで早歩きで向かった。
ベッドにザイアを置き、毛布と羽毛ぶとんでくるませた。
しかし、先ほど薪が燃えたことから布団も燃えるのかと思いきや、燃えなかった。
どういう原理なのかは知らない。だがまずはザイアが助かった事に安堵しよう。
さっきからザイア、ザイア言ってるけど、僕の名前もザイアな訳で、多少違和感はやはりあった。
「しっかしなあ。」
ベッドルームからはガラス張りの窓付きの扉があり、そこからは先ほど湿気ていて火がつかなかった薪が暖炉でまさに轟と燃えている。
もう何が何なのかがわからない。
「待ってて、今濡れたタオル持ってくるから。」
僕はガラス張りの窓付きの扉を開け、キッチンへ行った。
しかし、キッチンには水道などない。
こんな森の中なのだ。贅沢は言えない。
たしか近くに湖があっただろう。そこまで行って水をくんでこよう。
あの少女に風邪をひかせたのは僕の責任だ。ここまで来たらちゃんと治るまで看病してやろう。
さっきよりもやや強めの風が吹く中、僕は湖へと進んだ。
湖にて。
「よし、ここだな。」
鉄のバケツを持ってきていた僕は、バケツいっぱいに水をくみ、再びあの家に帰ろうとする。
しかし、僕の足は勝手に止まった。
湖の水上に一つの物体が浮いたり沈んだりしていた。
僕は興味という人間の本能に負けた。
その本を手を伸ばして取ってみる。バケツをとりあえず地面に置き、本の表紙を見る。
その本は黒い表紙。そして赤の文字でこう書いてあった。
taboo scripture
「禁忌教典?なんだそりゃ?」
しかし、見たことのないものに僕は興味がわき、結局そのまま脇に抱え、バケツと一緒に持っていった。
「ただまー」
そして、僕は濡らしたタオルを持ってベッドルームへ行く。
すると、先程よりも顔の赤さが消えた少女は眠りについていた。
「もう寝てるみたいだな」
まあいい、寝ていたほうが風邪も良くなるだろう。と、僕は濡らしたタオルを彼女の額に置いた。
少女は寝ているにもかかわらず、いきなりの冷たさに眉をピクッとさせ、安堵した表情で再び安定した睡眠になる。
「しかし、」
十歳の見た目は、否、五百歳。どこからどう見ても、この少女は美しい。可愛いとかそういうものではなく、ただ単に、美しかった。
さて、と。
僕は先程濡れタオルを作るとき、この少女が座っていた椅子にあの本を置いていた。それを読もうと僕はベッドルームから姿を消した。
「・・・文字か歪んでる」
当然だ。水の上に、しかもいつから浮かんでいたのかはわからない。
しかし、決定的による文字は少しばかりかあった。
「魔女の創り方?」
いやはや「魔女」とはなんだろう。
ああ、あれか?叩かれたり、殴られたりすると喜ぶ奴?
・・・マゾか。
そして、なにか僕には目に止まるものがあった。
「・・・赤い髪・・・炎・・・」
赤い髪に炎ねぇ、そんなの見た事が・・・
ん?赤い髪に炎?あのベッドで寝ている少女は赤い髪だったし、火がつかなかった薪が急に炎によって燃えていた。
「ま、まさか。ザイアが魔女?はは、そんな訳ないか。」
僕はその本から目を離した。そして、本を閉じ、少女のもとへと行く。
「そっか、もうぐっすり寝ているな。」
仮に、あの本の伝えた事実が本当なら・・・。仮にだ!仮に。
この少女は魔女ということになる 。
馬鹿だ。僕も先程、身体が冷えてしまって疲れているのだろう。
でも、少女を見ていると、大変癒された。そんな彼女の頬を軽く人差し指でおしてみる。
ぷにっと、大変柔らかい。まるでプリンのようだ。だか、
「え?」
彼女は寝ている。寝ているはずなのに僕の指を彼女は小さい細い指で握ってきた。
それは、自分から離そうとすれば難なく離せる力だった。しかし、僕はこの少女がどう思っているのかは知らないが、このような態度。ということは少しばかりか信用があるのだろう。そんな気持ちを壊したくない。だから僕は彼女の指を引き離さなかった。否、引き離せなかったのだ。
しかし、身体の冷えた我が身は、
「はっくしゅん!」
悲鳴をあげていた。
しかし、暖炉で温まろうにも、何処かに行こうにも、彼女の指を離せない僕は、
「し、失礼しますっ!」
仕方がなかったので、断ってから(許可は得ていない)彼女の寝ているベッドにお邪魔した。
「ご、めん。ザイア。許してくれ。」
僕は彼女が布団からはみ出ないように微調整しながら、布団を手繰り寄せた。
その布団の中は非常に暖かく、冷えた身体にはジーンと、染みた。
今、自分は幸せなのか、それとも不幸なのか。この少女との出会いがどう今後に影響するのか。そんな不安な気持ちは彼女の眠りについた美しい横顔で消えた。
瞼が重い。そして、僕は眠りに落ちた。
突然。不意に目が覚めた。それは誰もが明かりをつけて過ごすほどの暗さ。夜だった。
ああ、そうか。僕は寝ていたのか。そして、まだ眠り足りないのか、ただ面倒くさいだけなのか、寝返りをうつ。
因みに僕が寝返りをうったほうは彼女のいない方。小さい部屋なんだな。
本当に眠るために作られた部屋。と言ってもいいくらい。ほんの人が通るほどの少しのスペース。それとそのスペースに続く扉。そしてこのベッド。
寝起きで意識が朦朧とする中、その狭いスペースに一人の男が。い、た?
「はっ?!」
急な事に僕は慌て、ベッドから転げ落ちた。
「いっ、てー。」
しかし、その男は扉のほうに避けていて無事だった。
そして、ゆっくりと僕は立ち上がり、男の方へ視線を向ける。僕は男に話しかけた。
「こんな森奥にどうしたんですか?」
すると、男は薄く笑い、
「いやはや、何といえばいいのだろう。林檎狩り、とでも言っておこうか。」
「それで?なぜこの小屋に?」
「もう夜も老け、外は真っ暗でね。とても、このランプ一つでは心細くてさ。そしたらこの家が見えてね。・・・お邪魔だったかい?」
「成程。そういう事だったんですね。いえ、僕もこの家の人間ではないんで。」
「そうなのかい?で、そこにいる少女は?」
「なんて言えばいいんでしょう。まあ、たまたまばったりあっただけの仲ですよ」
「最近の少年少女は一緒に寝る事をばったりあっただけの仲で済ますのかい?実に滑稽だね。」
「で、何なんです?僕達に絡んでも何も出せませんし、何ももてなせませんよ。」
「ああ、いいんだ。この禁忌教典さえ手に入れればね。」
「そ、それは!僕が拾った!」
「いやね、実はこれ僕の所有物なんだ。見つけてくれてありがとう。お陰で探す手間が省けたよ。」
「ああ、いや、でもそれ・・・」
「ん?禁忌教典だろ?魔女を創る。」
「あなた、それを?!」
「ああ、知ってるさ。」
すこし、男は間を置き、
「この本は僕の所有物であり僕はこれを読んだからね」
「は?」
「しかし、今ではもう読むことの出来ないただの紙屑だね。そして、この本の内容を知っているのはこの本を読んだ僕と魔女のみ。」
まあいいさ、と
「これはあまり広まってはならぬものだからね。」
「広まっては・・・」
男は僕の言葉の途中で本を持ってない方の手を出してきた。
「一つ、今回の僕の目的を果たした。そして、もう一つ、実は目的があるんだ。」
「目的?」
「ああ、詳細は君がこの手をとってからにしよう。協力。という形でね」
僕は悩まなかった。否、悩んだのだろうが、その時間は一秒もなく、好奇心というものが背中を、否、この手を押した。
彼の手を握り、握手。これで協力。となる。
筈だった。
彼の手を握った直後。身体に急な脱力感が来た。
「体力吸血。対象の活力。例えば、体力や精力、筋力、精神力などを奪い、自分のものとする力。まあ、取り敢えず眠ってもらうだけだ、君の体力は奪わせてもらった。なあに、一日程経てば完全に回復するさ。」
僕は倒れた。しかし、この男の特徴は覚えた。
青い髪をオールバックにした、マントを羽織った、まるで魔術師、否、技から吸血鬼のように見えた男。
その男はベッドに眠っていた少女を抱え、ゆっくり、ゆっくりと、まるで僕を嘲笑うかのように、挑発するかのように、歩いて扉を器用に開け、出ていった。
「待って、くれ・・・」
無残にも、僕は、硬く冷たい床で眠りについた。
僕とザイアは抵抗する間もなく、引き離された。
こんな時、無力な僕は、もうザイアと出会うことができなくなるのではないかと思った。
この言葉に少年、マルクは思考をフル回転させた。
・・・五百歳でこの見た目(十歳ほど)。仮に五百歳がこんな少女だったら、世界中の人間はみんな幼女とかそういうものだろう。否、五百歳ならふつうもっと老けているべきであろう。
目の前の異常な光景にマルクの頭は正常ではなかった。
ふつうならまず五百歳ということを突っ込むべきであろう。
「えぇ、と、まず、これ着なよ。」
と、マルクは服の上に羽織っていたマントを少女に与える。
・・・しかし、きれいな赤い髪だなぁ、地毛かな?それとも染めたのかな。
すると少女はマントを受け取り、ゆっくりと頭に乗せた。
「何も見えない・・・」
「いや、そうじゃなくて!体に巻きなよ!」
少女は「わかった」と言って、今度はちゃんと体を覆うように巻いた。
・・・これで何とか少女を見て話せるな。
「ねぇ、君なんで宝石みたいなのに閉じ込められていたの?」
すると少女は「無垢」という言葉が似合いそうな、ぽけーとした顔で
「わかんない」
「そっかー・・・」
まあそうか、仮に五百歳でも十歳でも急に宝石に閉じこまれてたけどなんで?なんて聞かれたらふつうは理解できないだろう。
だから簡単な質問を
「君の名前は?」
「ヒメジ ザイア」
「成程。ヒメジ ザイア・・・ザイア?僕と同じ名前じゃないか。」
珍しいこともあるものだな。とマルクは思っていると、
「くしゅん!」
と、ザイアは大変かわいらしいくしゃみをした。
季節は秋。ちょうど林檎が取れる時期だ。冷たい風が吹いており、彼女のように薄着だと少し冷えてえしまうだろう。
「とりあえず僕の家に・・・ここから一時間くらいかかるからなぁ」
風邪をひいてもいいなら行こう・・・という考えは思いつかなかった。だから、
「どこか風が当たらないような場所に・・・
僕はあたりを見回すと、目の前の少女は当然、そこに最初からあった、というような感じで指をさした。
「あれ」
その指の方向を見ると、煉瓦造りの家がたたずむ。煙突があり、薪が外においてある、いかにも洋風といえる家だ。
「よし、じゃああそこに入ろう。」
「うん」
そして僕は進もうとしても、少女は動かない。
「どうしたの?」
「おぶって。」
何を考えているかはわからないが、とりあえず考えるのがめんどくさいのでそのまま負ぶってあげた。
マント一枚の少女は僕の背中にしっかりとしがみついていて、少々冷える環境のなかでひどく熱く感じられた。
煉瓦造りの家の中。
僕は負ぶっていた少女をとりあえずおいてあった木の椅子に乗せた。そして、ベッドにおいてあった毛布を取り、彼女にかける。そして僕は外に置いてあった薪を家の中の暖炉に入れ、持っていたマッチで火をつける。
「んー。この薪しけてるなぁ。ちょっと火がつくのに時間がかかりそうだ。・・・何か温まるものはないかな。」
そうだ、と僕は持っていたバッグからあるものを取り出した。
「ココアの粉。おばあちゃんが作ってくれたんだ。まあ、ほとんど砂糖だろうけどね。あ!でもこれも結局あっためなきゃいけないのか。そこにキッチンはあってもそれも火は薪でつけるものだしなあ。」
と、僕は一本だけ薪を持って自分の体温で温め、早く乾かないかと、形だけでも努力してみる。
そして、全然効果のないという現実に突き付けられた僕は、ふと少女のほうを見る。
するとそこには
「顔が赤いぞ!?大丈夫か?!」
先ほどの時間に体調を崩してしまったのだろうか、とてもだるそうにしている。
すぐに駆け寄り、額に手を当ててみる。僕はうっかり薪を持ったまま彼女の額に触れる。
「あ!ごめん!あわてて僕の手じゃなくて薪を君の額に当ててしまった!」
そして勢いよく薪を持っていた手を後ろに、彼女から引き離す。
すると、急に僕の薪を持っていたほうの手が熱に包まれる。
「ん?あったかいなあ。なんだ・・・急に熱く・・・って熱っ!」
何が起きたんだと、ふとその手を見る。
そこにはありえない現象が起きていた。
「薪が燃えている!?」
おかしい。だって火をつけようとした薪とは別に、ただ僕が持っていた薪が燃えているのだ。
そしてふと、少女のほうを見る。
さらに先ほどより赤くなった顔を見て、
「大丈夫かい!?ザイア!」
僕は暖炉にその炎を纏った薪を暖炉に投げ捨て、毛布で彼女を巻いたまま、もともとこの毛布が置いてあったベッドまで早歩きで向かった。
ベッドにザイアを置き、毛布と羽毛ぶとんでくるませた。
しかし、先ほど薪が燃えたことから布団も燃えるのかと思いきや、燃えなかった。
どういう原理なのかは知らない。だがまずはザイアが助かった事に安堵しよう。
さっきからザイア、ザイア言ってるけど、僕の名前もザイアな訳で、多少違和感はやはりあった。
「しっかしなあ。」
ベッドルームからはガラス張りの窓付きの扉があり、そこからは先ほど湿気ていて火がつかなかった薪が暖炉でまさに轟と燃えている。
もう何が何なのかがわからない。
「待ってて、今濡れたタオル持ってくるから。」
僕はガラス張りの窓付きの扉を開け、キッチンへ行った。
しかし、キッチンには水道などない。
こんな森の中なのだ。贅沢は言えない。
たしか近くに湖があっただろう。そこまで行って水をくんでこよう。
あの少女に風邪をひかせたのは僕の責任だ。ここまで来たらちゃんと治るまで看病してやろう。
さっきよりもやや強めの風が吹く中、僕は湖へと進んだ。
湖にて。
「よし、ここだな。」
鉄のバケツを持ってきていた僕は、バケツいっぱいに水をくみ、再びあの家に帰ろうとする。
しかし、僕の足は勝手に止まった。
湖の水上に一つの物体が浮いたり沈んだりしていた。
僕は興味という人間の本能に負けた。
その本を手を伸ばして取ってみる。バケツをとりあえず地面に置き、本の表紙を見る。
その本は黒い表紙。そして赤の文字でこう書いてあった。
taboo scripture
「禁忌教典?なんだそりゃ?」
しかし、見たことのないものに僕は興味がわき、結局そのまま脇に抱え、バケツと一緒に持っていった。
「ただまー」
そして、僕は濡らしたタオルを持ってベッドルームへ行く。
すると、先程よりも顔の赤さが消えた少女は眠りについていた。
「もう寝てるみたいだな」
まあいい、寝ていたほうが風邪も良くなるだろう。と、僕は濡らしたタオルを彼女の額に置いた。
少女は寝ているにもかかわらず、いきなりの冷たさに眉をピクッとさせ、安堵した表情で再び安定した睡眠になる。
「しかし、」
十歳の見た目は、否、五百歳。どこからどう見ても、この少女は美しい。可愛いとかそういうものではなく、ただ単に、美しかった。
さて、と。
僕は先程濡れタオルを作るとき、この少女が座っていた椅子にあの本を置いていた。それを読もうと僕はベッドルームから姿を消した。
「・・・文字か歪んでる」
当然だ。水の上に、しかもいつから浮かんでいたのかはわからない。
しかし、決定的による文字は少しばかりかあった。
「魔女の創り方?」
いやはや「魔女」とはなんだろう。
ああ、あれか?叩かれたり、殴られたりすると喜ぶ奴?
・・・マゾか。
そして、なにか僕には目に止まるものがあった。
「・・・赤い髪・・・炎・・・」
赤い髪に炎ねぇ、そんなの見た事が・・・
ん?赤い髪に炎?あのベッドで寝ている少女は赤い髪だったし、火がつかなかった薪が急に炎によって燃えていた。
「ま、まさか。ザイアが魔女?はは、そんな訳ないか。」
僕はその本から目を離した。そして、本を閉じ、少女のもとへと行く。
「そっか、もうぐっすり寝ているな。」
仮に、あの本の伝えた事実が本当なら・・・。仮にだ!仮に。
この少女は魔女ということになる 。
馬鹿だ。僕も先程、身体が冷えてしまって疲れているのだろう。
でも、少女を見ていると、大変癒された。そんな彼女の頬を軽く人差し指でおしてみる。
ぷにっと、大変柔らかい。まるでプリンのようだ。だか、
「え?」
彼女は寝ている。寝ているはずなのに僕の指を彼女は小さい細い指で握ってきた。
それは、自分から離そうとすれば難なく離せる力だった。しかし、僕はこの少女がどう思っているのかは知らないが、このような態度。ということは少しばかりか信用があるのだろう。そんな気持ちを壊したくない。だから僕は彼女の指を引き離さなかった。否、引き離せなかったのだ。
しかし、身体の冷えた我が身は、
「はっくしゅん!」
悲鳴をあげていた。
しかし、暖炉で温まろうにも、何処かに行こうにも、彼女の指を離せない僕は、
「し、失礼しますっ!」
仕方がなかったので、断ってから(許可は得ていない)彼女の寝ているベッドにお邪魔した。
「ご、めん。ザイア。許してくれ。」
僕は彼女が布団からはみ出ないように微調整しながら、布団を手繰り寄せた。
その布団の中は非常に暖かく、冷えた身体にはジーンと、染みた。
今、自分は幸せなのか、それとも不幸なのか。この少女との出会いがどう今後に影響するのか。そんな不安な気持ちは彼女の眠りについた美しい横顔で消えた。
瞼が重い。そして、僕は眠りに落ちた。
突然。不意に目が覚めた。それは誰もが明かりをつけて過ごすほどの暗さ。夜だった。
ああ、そうか。僕は寝ていたのか。そして、まだ眠り足りないのか、ただ面倒くさいだけなのか、寝返りをうつ。
因みに僕が寝返りをうったほうは彼女のいない方。小さい部屋なんだな。
本当に眠るために作られた部屋。と言ってもいいくらい。ほんの人が通るほどの少しのスペース。それとそのスペースに続く扉。そしてこのベッド。
寝起きで意識が朦朧とする中、その狭いスペースに一人の男が。い、た?
「はっ?!」
急な事に僕は慌て、ベッドから転げ落ちた。
「いっ、てー。」
しかし、その男は扉のほうに避けていて無事だった。
そして、ゆっくりと僕は立ち上がり、男の方へ視線を向ける。僕は男に話しかけた。
「こんな森奥にどうしたんですか?」
すると、男は薄く笑い、
「いやはや、何といえばいいのだろう。林檎狩り、とでも言っておこうか。」
「それで?なぜこの小屋に?」
「もう夜も老け、外は真っ暗でね。とても、このランプ一つでは心細くてさ。そしたらこの家が見えてね。・・・お邪魔だったかい?」
「成程。そういう事だったんですね。いえ、僕もこの家の人間ではないんで。」
「そうなのかい?で、そこにいる少女は?」
「なんて言えばいいんでしょう。まあ、たまたまばったりあっただけの仲ですよ」
「最近の少年少女は一緒に寝る事をばったりあっただけの仲で済ますのかい?実に滑稽だね。」
「で、何なんです?僕達に絡んでも何も出せませんし、何ももてなせませんよ。」
「ああ、いいんだ。この禁忌教典さえ手に入れればね。」
「そ、それは!僕が拾った!」
「いやね、実はこれ僕の所有物なんだ。見つけてくれてありがとう。お陰で探す手間が省けたよ。」
「ああ、いや、でもそれ・・・」
「ん?禁忌教典だろ?魔女を創る。」
「あなた、それを?!」
「ああ、知ってるさ。」
すこし、男は間を置き、
「この本は僕の所有物であり僕はこれを読んだからね」
「は?」
「しかし、今ではもう読むことの出来ないただの紙屑だね。そして、この本の内容を知っているのはこの本を読んだ僕と魔女のみ。」
まあいいさ、と
「これはあまり広まってはならぬものだからね。」
「広まっては・・・」
男は僕の言葉の途中で本を持ってない方の手を出してきた。
「一つ、今回の僕の目的を果たした。そして、もう一つ、実は目的があるんだ。」
「目的?」
「ああ、詳細は君がこの手をとってからにしよう。協力。という形でね」
僕は悩まなかった。否、悩んだのだろうが、その時間は一秒もなく、好奇心というものが背中を、否、この手を押した。
彼の手を握り、握手。これで協力。となる。
筈だった。
彼の手を握った直後。身体に急な脱力感が来た。
「体力吸血。対象の活力。例えば、体力や精力、筋力、精神力などを奪い、自分のものとする力。まあ、取り敢えず眠ってもらうだけだ、君の体力は奪わせてもらった。なあに、一日程経てば完全に回復するさ。」
僕は倒れた。しかし、この男の特徴は覚えた。
青い髪をオールバックにした、マントを羽織った、まるで魔術師、否、技から吸血鬼のように見えた男。
その男はベッドに眠っていた少女を抱え、ゆっくり、ゆっくりと、まるで僕を嘲笑うかのように、挑発するかのように、歩いて扉を器用に開け、出ていった。
「待って、くれ・・・」
無残にも、僕は、硬く冷たい床で眠りについた。
僕とザイアは抵抗する間もなく、引き離された。
こんな時、無力な僕は、もうザイアと出会うことができなくなるのではないかと思った。
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