残された世界

幸輝

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2月

チョコレート作り

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「はぁ……」
「あ! ゆま先輩! ちゃんと混ぜないとチョコ焦げちゃいますよ!」
「あ! やばいやばい!」

 2月。バレンタインデー直前。
 私は、セナちゃん、スズ先輩と一緒にチョコレート作りをしていた。
家庭科室があまり広くないので、一回に三人までしか使用できないのだ。

「まーたサ終やらオフライン化の望みやらで悩んでるの?」

 スズ先輩は、たまに鍋からの蒸気でメガネを曇らせながら、上の空だった私に問う。
図星をつかれ、また私はチョコレートをかき混ぜる手が止まってしまった。

「諦めなさい。私達はデータであって、この世界は誰かに作られたもの。いつ消えてもおかしくない身分なんだから、運命を受け入れるのよ」
「そんな言い方止めてください!」

 セナちゃんは、体を私からスズ先輩へと向ける。

「確かに、ゲームのデータであって、バグったり、なかったことにされることもありますけど、私達は10年もここで生きていて、思い出もあって、今存在しているのは事実ですから! そんな無機質なオモチャみたいに言わないでください!」

 スズ先輩は、激昂したセナちゃんの言い分を最後まで聞き、一言呟く。

「今は、ね」

 目を伏せて、言い放った一言。
私には冷たく深く胸に突き刺さったが、セナちゃんの逆鱗に触れ、彼女は更に顔を真っ赤にさせ、何かを言い返そうとするところだ。

「あー! セナちゃん! チョコチョコ! ブクブクなってるよ!?」
「へ!? あっ! わー!!」

 こうなると収集がつかなくなるので、慌ててセナちゃんを止める私。
ナイスタイミングでセナちゃんの鍋が沸騰していた。

「あっぶなーい……今年は最後のバレンタインデーだから、力作にしないとだめなのに、失敗する訳にはいきません!」

--最後のバレンタインデー
 私は、はっとした。大晦日や正月もそうだったけれども、毎年恒例行事だったものも、最後、になることを思い出す。
 そして私のキャラクター設定もあり、失敗しても部長は喜んで受け取ってくれると思っていたし、きっと絶対にそうなるけれど。

「わ、私も失敗する訳には……!」

 私は自分の鍋に向き直ります。しかし、

「お前……どうかき混ぜたり溢れ返せば、そんなにチョコがなくなるんだい」

 スズ先輩は、頭を抱えて、ハー、と大きなため息をつきながら言った。
 鍋の外側からコンロ周りにいたるまでチョコレートまみれ。
肝心の鍋の中のチョコレートはというと、小指の爪程の深さがあるかないか、位しか残っていない。
 ちょっと離れた所で、セナちゃんの、あちゃ~、という声が聞こえた。

「ま、まだ時間はあるので、掃除してもう一回作り直します!」
「後二時間しないでヒメノ達来るからね~」

 スズ先輩は、丁寧に鍋の中をかき混ぜながら言う。
 とても甘い香りが、家庭科室に充満していた。

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