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2月
屋上
しおりを挟む「あのー……部長、今年こそは成功させようと頑張ったんですが、チョコレートみたいなクッキー? クッキーみたいなチョコレート? になっちゃいました。失敗とか成功じゃなくて、こういうものだと思って、受け取って下さい」
2月14日、バレンタインデー当日。
部長はきちんと学討にログインをして、私の更衣室にも来てくれました。
セリフ通り、謎なお菓子ができてしまった訳で、本当は走って部長の元から逃げ出したい気持ちでいっぱいでしたが、システム上それは無理な訳で。
そんな心配はよそに、次のチョコレート回収の為、部長はものの数秒で私の更衣室をあとにした。
あくまで私は、この学討での一キャラクター。ここには総勢6人プラス顧問がいるのですから、こういう対応になっても仕方がないです。
が、私は少し悲しくなり、一つため息をこぼす。
このため息は、お菓子作りを失敗してしまったからのものなのか、部長に特別扱いされなかったからのものなのか、私には分かりません。
「ゆま~、入るよー、チョコ渡せた?」
のっぺらぼうのあやながノックを三回して、私からの返事を待たずに扉をあけて入ってきた。
「う、うん、渡したよ」
「そっか!……部長、ログアウトしたみたいだから、久々に屋上でおしゃべりしようよ!」
辛気臭くなっていた私だったので、こういう時には気分転換も必要だと思い、あやなの誘いにコクリと頷き、更衣室をあとにした。
「うわ~、やっぱり外は寒いね~」
二月の寒空。雪こそ降っていなかったものの、今にも降りだしそうな重苦しい雲が立ち込めていた。
「あのね、私チョコ作りすぎちゃって、みんなに配ってたとこだったの。これ、ゆまの!」
そういうと、あやなは可愛いピンクのラッピング袋にトリュフチョコレートと見てとれる、丸くてパウダー掛かったお菓子を私に渡す。
「すごーい! 私には絶対作れない!」
「えへへ、ありがと」
「でも、みんなには更衣室で渡したんでしょ? どうして私は屋上なの?」
しばらく顔のないあやなは空を見上げて考えていたが、言葉を発す。
「なんか、ゆまが元気なさそうだったから、かな? 他のみんなは、うんっ渡せた!、って満足気で答えてくれたけど、ゆまは、ずーん、ってしてたから」
自覚があったもので、私は言葉が詰まった。
「あとね、スズ先輩と顧問の先生から、ゆまに伝言」
「伝言?」
「オフライン化の話は、一切ない、って」
冷たい風が頬をさす。
「運営側が公式SNSで、予定は一切ない、って投稿してたみたい。変な期待させるのもあれだから、ゆまに伝えといてって……」
「そ……っか」
あやながモヤモヤした様子で続ける。
「も~、なんで先生達も自分で言わないかな!」
「同級生だから伝えやすいと思ったんじゃない?」
「でもさー……」あやなは顔を近付ける「ゆま、大丈夫?」
「え?」
「泣いてるよ?」
あやなに言われなかったら気づかなかった。
私の頬を涙の筋が走っていた。
「う、うん、大丈夫だよ」
私はなんとなく、どうしてあやなが私に伝えてきたのか、そして、私は全キャラクターの中で、この情報を最後に知らされたのだろうと悟った。
平気そうな顔をして、一番この世界にすがっていたのは、きっと私だったんだろう。
キャラクター全員が自分が一番部長を好きだと自負してるけど、たぶん、その愛が最も強いのが私だったんだろう。
だから、生徒に寄り添う先生でさえ、私に伝えられなかったんだ。生徒会長のスズ先輩でも。
理解すると、次から次へと涙が溢れでる。
「ゆま……?」
「大丈夫、大丈夫」
生まれた時から決まっていた未来なんだから。
大丈夫、分かってる。こうなるって、分かってた。
二月の空気は、トリュフチョコレートのように甘くてふわふわしていない、冷たく突き刺す空気だった。
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