残された世界

幸輝

文字の大きさ
19 / 21
サービス終了

最期

しおりを挟む
 正午すぎ、雲一つない晴天。風も穏やかで、私のポニーテールも揺れ動いてはいない。
「やっぱり私達二人の定位置はここだよね~」
 屋上には影が二つ、私とあやなのものがあった。
 あやなはその場で大きく伸びをする。
「今が13時半だから、あと二時間もないのかー……」
 空を見上げながら大きく息を吐くあやな。
私も一緒になって、そうだねー、と息を吐いた。
「最初はさ」あやなが話始める「私は途中加入キャラだったから、新キャラ情報きたー!、とか騒がれてたのに、いざ登場したら顔がないバグで白けられて、そのままサ終とか最悪、とか思っちゃったよ」
 私は初期メンバーだったので、あやな参戦の時の盛り上りがすごかったのは、今でも覚えている。
「でも、私達の部長は、そんなあやなをちゃんと愛してくれたじゃん」次は私が口を開く「ここがなくなっても、私達の部長は、きっと私達のこと忘れないで愛し続けてくれるよ」
「私達の部長が部長でよかったよね」
「本当にね。だからかな、最期のはずなのに、心穏やかでいれるの」
「確かに、色々あったけど、今はもう和んじゃってる」
 私達は、ふふふ、とお互いをみて笑いあう。
「サ終決まった瞬間は、この世の終わりかと思ったけど」
「わかる。実際、この世界の終わりではあるけど。作るだけ作って、売り上げたたないから、はい終わり~って、次のアプリ制作してる運営なんなんだよって感じ!」
 改めてあやなの愚痴を聞いて私は苦笑いをした。
「でも、作られてなかったら、部長には出会えなかった訳だし」
「そうだね、運営に見放されても、部長の中に何か私達のことが残ってくれてれば良しとしますか」
 あやなはひとしきり語ったところで、よし、と締める。きっと、ヒメノ先輩の言っていた『未練』を吐き出したのだろう。
「私はそろそろイラスト見に行くけど、ゆまは?」
「私は……もう少し風にあたってから行こうかな」
 わかった、と短く切って、あやなは踵を返した。
 大きく深呼吸をする。空気がおいしい。清々しい。
この綺麗な空も、大きな校舎も、15時になったら、全てなかったことになるのかな。もちろん、私達部員も。
「なかったこと……嫌だな……」
 私はゆっくりと屋上をあとにした。



 サービス終了まで、あと一時間もなくなった。
 生徒会室に入ると、すすり泣く声が聞こえる。
先に来ているはずのあやななのだろう、私は、大丈夫?、と泣き声がする方に声をかける。
 目を真っ赤にして、鼻水を少したらしながら、ボロボロと泣いていた。スズ先輩が。
「え!? スズ先輩!?」
 スズ先輩が泣いている驚きと、ため口を叩いてしまったことに対する焦りで大声を出してしまった。
「大丈夫……」スズ先輩はパソコンからこちらに向き直る「見たくなかったけど、部長のイラスト今全部見ちゃって、頭の中ヤバイことになってるだけ……」
 いつも冷静沈着のスズ先輩、よほど抑えていたものが出てきたのだろう。
スズ先輩は、一度大きく鼻をかむと、パソコンの前から席をうつす。
「ほら、最終日イラスト見に来たんでしょ? あなたが最後よ。時間になる前に見なきゃ、一生後悔する代物よ」
 スズ先輩に促され、私はパソコンに表示されていた部長のイラストを目にした。
 言葉がでなかった。息がつまる。
今までで間違いなく一番の大作。
 スズ先輩程ではないが、涙が頬を伝った。



--あぁ、私達の部長が部長で、本当によかった。



 15時になる。
 少女は呼吸をすることを忘れかけた。
「消えた……?」
 その一言が、口をついて出た。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...