残された世界

幸輝

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オフ会

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 8月、外は灼熱。日本なのかと思う程、毎日が最高気温を更新する日々であった。
「かんぱーい!」
 しかしカラオケ店は涼しく快適な空間である。
室内には合計10人の男女が集まり、それぞれアルコールのグラスを掲げていた。
昼間だというのに、パーティルームで大宴会のようだ。
「曲どんどんいれてってー」
「食べ物は勝手に追加しないでよー」
 わいわいガヤガヤ、飲んだり歌ったり、とても騒がしい空間の中、少女は微笑みながら、タブレットで絵を書いていた。
「雪猫ちゃん、ちゃんと飲んでる~?」
 隣にいた男性が、グラス片手に肩に手を回す。相当酔っ払っている。
「きゃあ!」
「こら! 雪猫ちゃんまだ未成年なんだから止めなさい!」
 この会の主催者であろう女性が、少女·雪猫をかばった。
「お前、雪猫ちゃんのタブレットに酒かけたら弁償だからな」
 向かい側に座っている男性も笑いながら続く。
 酔っ払いは、わかったよ!、と離れていった。
「ごめんねー、怖かったよね」
「い、いえ、ありがとうございます」
 そのまま主催者の女性は、チラリとタブレットを覗き見をした。
「さすが神絵師!」
「まだ途中ですから……」
 照れている雪猫に、主催者は微笑む。
「まさかリリース当時は小学生プレイヤーがいるとは思わなかったよー」
「……あの時は課金もできなかったので、皆さんに支援してもらって、ほんと助かりました」
「ランカーのKさんとフレンドなってたのにびっくりしたわ!」
「何々~? 俺の話~?」
 Kさんと思われる長髪の男が近づいてきた。
先程の酔っ払い男性よりは、絡みは薄めだがこちらもそれなりの出来上がりである。
「いつも支援ありがとうございました」
「お礼はハナコ絵でいいよ!」大きく息を吸う「ハナコオオオオオオ!」
 うるさーい!、うるせー!、と一斉にKにブーイングが飛ぶ。
「でも、ほんとイラストも神絵師の領域になったよね」
 主催者が感慨深く頷く。
「褒めすぎですって」
「描き始めた時の知ってるから、余計に感服よ」
 少女は顔を赤らめながら口を開く。
「学討がなければ、デジタル絵描こうなんて思わなかったので、ほんと良いきっかけになったゲームです」
「そうだね……最後は惰性で私もやってたけど、やっぱりエンディングは見届けたかったし」
「私も去年は大学受験でログインもままならなかったです」
「でも雪猫ちゃん、サ終直前のイラストラッシュすごかったよね!」
「あ、俺もあの投稿で久々にログインした」
 向かいの男が再び声をかける。
「やっと卒業して自由な時間あったので、たまたま描ける余裕あったんですよ」
 えへへ、と雪猫は笑って見せた。
「学討なかったら、このメンツにも出会えなかったし、ちゃんと思い出になった10年だった!」
「ね! あたし達みたいな学討婚した人もいっぱいいたもんね!」
 扉側にいたご夫婦にも聞こえていたらしく、割って入ってきた。
「雪猫ちゃーん、描きかけでいいから、途中経過みせてよー! ハナコいるー!?」
 Kは、ハナココールをしながら雪猫に近寄る。
間に主催者がガードに入った。
 雪猫は、うーん、とまだ満足に描けてないためか躊躇っていたが、タブレットをくるっと見せてくれた。
 そこには、カラオケルームで熱唱している一年生組、盛り上げているヒメノ、選曲中のスズ、笑いあっている二年生組がいた。



 3月31日のあの時、トップ画面から学討のアイコンがいきなり消えた時はびっくりした。ストアからも消えていた。攻略サイトも閉鎖されてた。
 本当にサ終したんだ、って、実感した。
 でも、私達の中には、学討メンバーのこと忘れないで、こうやってオフ会だってするくらい、愛されてるよ。
 居場所は、私達の中にあるからね。



【終】
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