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A級冒険者パーティー陽炎

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声をかけてきたのは、A級冒険者パーティー陽炎という人達だった。
男女の二人組で、男の方はレイン、女の方はリンネというらしい。

レインは、背が高くてイケメンの優男といった感じだ。それとは、逆にリンネはすこし冷たい雰囲気を感じさせる、クール系美女って雰囲気かな? 二人とも赤髪で赤い瞳をしている。

冒険者として依頼を受けて山岳地帯に来てみたら、寝ている俺達を発見しておどろいて声をかけてたとのこと。

「まったく、こどもがなんでこんな山奥に・・・・・・」

レインがあきれたようにそういった。

「親も心配してるだろうし、いまから連れて帰る?」

腕を組み、困った様子でリンネが俺達を見下ろしながらレインに相談する。
ちなみに、ピーちゃんはこの場にいない。
陽炎の二人の気配を事前に察知して遠くへ離れたと、テレパシーで報告してきたので、アイツなりに気を利かせたということかな?

「ルークとリリアと言ったかな? どうやって、ここまで来たんだ?」

「ふつうにあるいてきたよ?」

2人とも俺の言葉を信じている様子はない。
眉間に皺を寄せて「どうする?」「今さら戻るのか?」と相談を始める。

勝手に盛り上がるのはいいけど、俺達を保護する前提で話を進めるは非常におもしろくない。俺達だって、こいつらと同じ冒険者である。つまり、同僚。立場は対等のはず。冒険者ってのは、舐められたらおしまいってのが相場で決まっている。ここはガツンと言ってやろう。

と思ったら、さきにリリアが一歩前に進んで言った。

「私達はすでに立派な冒険者。自分の責任は、自分でとれる年頃・・・・・・たとえ相手がヌルヌルウネウネしてても負けるつもりは毛頭ない。だから、放っておいてください」

ばっちり決めたリリアがサムズアップして俺に目配せをしてくる。

くーっ、この幼女め。
中々味のするセリフを言うようになったじゃないか。
流石俺の一番弟子だぜ。

かましてやったリリアにハイタッチして「よくやった」と褒めてやる。さっそく修行の成果がでてきたじゃないか。

しかし、2人は俺達の態度に納得いかないのか大声で忠告してくる。

「君たち、ふざけるのもそこまでにしなさい! ここは、とても危険な場所で子供の遊び場じゃありません」

「そうよ、この辺りにはクラーケンという恐ろしい怪物がいるの! 私達はそれを討伐しにきた冒険者。おそらく、このあたり一帯で戦闘になるから君たちがいたら存分に戦えないの。だから、一緒に一度街まで帰りましょう。ね?」

リンネが優しい笑顔で、俺に手を差し伸べてくる。
だが、俺は目にも止まらぬ手刀でその手を払った。

「な、なにすんのよクソガキ!」

「ふっ、そんな見えすいた子供だましのえがおで、このおれを誤魔化せるとおもうなよ!」

「はあ~!? ぶっとばすわよ!? この子全然可愛くないんだけど!」

へ、こちとら生後数か月にして人の酸いも甘いもみてきたハードボイルド幼児だぜ?今更そんな幼稚な手には引っかるつもりはない。

「レイン、もう無理矢理つれて帰りましょう、時間の無駄だわ」

「はあ、そうだな。そうしよう」

怒ったリンネがレインに提案する。
だが、それは無理な相談というものだ。いや、手遅れと言った方が正しいか。こいつらが俺達を戦いに巻き込むのを心配しているなら間抜けと言わざるをえない。

A級冒険者らしいがまだまだだな。
その程度では、ジョーカーにすら遠く及ばないぞ。

騒ぎ立てるレイン、リンネにむかって俺は「しっ」と告げて、人差し指を唇にあてる。

「ああ、きこえるぞ。あんさつしゃがしのびよる気配が・・・・・・」

無風なのに、わずかに揺れる木の葉このはの音。
さえずっていた小鳥達の声は既にどこかへ消えていた。
それだけではない。虫も、動物も、生命を感じさせる大自然の活気ともいうべきもの全てが、この周囲一帯から、最初から存在していなかったかのように、気配を消していた。

俺は地面に落ちていた小石を拾い、リンネの顔に向かって勢いよく投げる。
小石は彼女の頬すれすれを抜けて通り過ぎていく。

「な、なにすんのよ。危ないでしょ! このクソガ・・・・・・」

憤慨したリンネは大声をあげるが、その言葉が最後まで続くことはなかった。

投げた小石が障害物の一切ない大空へと飛んでいく。しかし、ボテっと鈍い音を立て、まるで何もない空中で、何かに小石はその場に落ちた。

異変に気が付いて、リンネとレインが即座に振り返る。
そこにいたのは・・・・・・周囲に擬態して姿を隠していた、無音で地を這う巨大な捕食者―――クラーケンだった。





俺が石をぶつけたことによって、クラーケンの擬態が解かれる。
目測で10メートルを超えるであろう肉体は、透明化が解除されて、徐々に本来の色を取り戻し、赤焦げ茶色に染まっていく。

八本の足はそれぞれ独立して一本一本が蛇のようにうねり、体表は濃度の濃い粘液に覆われて、僅かに光を反射する。うごめく足にはびっしり吸盤が並んでおり、そのおぞましい見た目は、まさしく怪物というにふさわしかった。


「なっ、いつのまに!」

レインは冒険者として、モンスターに即座に剣を向けて警戒の体制をとる。

「君たち、あぶないからすぐに逃げなさい!」

リンネもおなじように剣を抜いて、クラーケンの攻撃が俺達に届かないように、俺とリリアの目の前に移動して、こちらを庇う姿勢をみせる。

リリアがどうするのかと言いたげな目で、俺を見てくる。

「とりあえず、このひとたちにまかせて、様子見かな?」

「わかった」

俺が言うとリリアは素直に従い。後ろへと下がっていく。俺もその後を追う。別に、代わりにレイン達が倒してくれたら、アイコに対する罪悪感を持たないで済むなー、などというセコイ考えな訳ではない。けっして、絶対に、だ。

それに、このA級冒険者がどのように戦うか興味もある。
ジョーカーとの一戦で学ぶことは多かった。
だから、今回もいくつか技を盗み見しようと思っていたのだが・・・・・・

それからわずか数分後、俺たちの前に広がっていた光景は、倒れ伏したレインとリンネの姿と、傷一つなく動くクラーケンの姿だった。

そして・・・・・・

「あんなに言っちゃダメって教えたのに約束を破ったんだね。君たちは悪い子だよ」

山に生えた木々の日陰から、どこからともなく現れたアイコがそう言った。
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