【完結】一生に一度だけでいいから、好きなひとに抱かれてみたい。

村松砂音(抹茶砂糖)

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17 知られたくない

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 リュカが部屋を訪れると、ニコラは笑顔で出迎えてくれた。

「こんばんは、ニコラ」
「リュカ、こんばんは。どうしたの、なにか相談?」

 ニコラの表情にはリュカに対する気遣いが見えた。昨日サイファートのことを相談したから、なにかあったのかと思ったのだろう。

「ハルネス隊長に話があるんです。時間をもらいたいと伝えてもらってもいいでしょうか?」

 リュカの返事を聞いて、ニコラが数秒固まる。

「……まさか、昨日ハルネス隊長が言ったことを真に受けたわけじゃないよね?」
「違いますよ。俺とハルネス隊長が話をするあいだ、ニコラにも同席してほしいんです」
「僕はかまわないけど……いま、ハルネス隊長に確認してくるから――」
「その必要はない」

 ニコラが言いかけたところで、その背後からハルネスが姿を現した。顔をこわばらせたニコラに笑顔を向け、リュカに見せつけるようにしてニコラの肩を抱き寄せる。

「やあ、リュカ。さっきの話の続きをしに来てくれたんだよね? うれしいな」

 うれしいなんてかけらも思っていないような顔で笑う。リュカのほうから近々接触してくることは予想していたのだろう。あんなことを言われたら、リュカはハルネスを無視できない。

「はい、お時間いただけますか?」
「いいよ。ちょうど食後のお茶を飲むところだったんだ。――ニコラ、リュカの分も淹れてくれる?」
「……わかりました」

 芝居がかったハルネスの手振りに促され、部屋の中に足を踏み入れた。
 間取りや家具はサイファートの部屋と同じだが、装飾品の類が異なっている。鮮やかな模様の敷物に、壁や棚の上に飾られた花や絵画。飾り気のないサイファートの部屋とはまったく印象が違っていた。

 ソファに座るように言われて腰を下ろすと、ハルネスがこちらに探るような視線を向けてくる。

「まさか、こんなに早く来てくれるなんてね。俺と話がしたくてたまらなかったってところかな?」
「はい。昼間の話が気になってしまい、できれば早く話をしたいと思っていました。お時間を取ってくださってありがとうございます」
「なんで、そこで礼を言うかなあ……俺はきみを脅したのに?」

 紅茶を淹れていたニコラが、ハルネスのことばに息を飲む。ハルネスからは得体の知れないものでも見るような視線を向けられた。

「サイファートには黙って来たの?」
「いえ、ハルネス隊長の部屋に行くと言ってあります」
「へえ、あいつがよく許したね。自分もついていくって言わなかった?」
「ニコラに同席してもらうことを伝えたら、好きにしろと言われました」
「……ふうん。俺がリュカとニコラと三人で同衾しても、そんな余裕でいられるのかね、あいつは」

 心底楽しそうにハルネスが笑う。でも、相変わらず目は笑っていなかった。

「僕はそんなことしませんからね」

 そう言って、話に割って入ってきたのはニコラだった。紅茶を注いだ三人分のカップをテーブルに置き、しかめっ面でハルネスの隣に座る。

「まずは俺とニコラが愛し合ってるのをリュカに見てもらいたいって?」
「そんなこと、言ってません」
「じゃあ、俺がリュカを抱くところを見たいんだ?」
「……どうして、そうなるんです」

 リュカがいる手前なのか、ハルネス隊長にそんな顔を見せたくないのか、ニコラが平静を装っているのがわかった。どこかあきれたような声音なのに、隠し切れない悲痛が滲んでいる。
 ふたりに対してうっすらと感じていたことが、リュカの中で次第に確信へと変わっていった。

「ニコラ、安心してください。ハルネス隊長は、俺のことを抱きたいなんて少しも思っていませんから」

 リュカのことばに、ニコラは茫然と目を見開いた。すかさずハルネスが口を開く。

「おいおい、なに言ってんの? 俺は熱烈にきみを口説いてたつもりだったんだけどな。伝わってなかった?」
「あなたが俺を見る目には、欲望を感じないんです。どちらかといえば、俺を警戒しているように見えました。……ほら、いっそう警戒が強くなりましたよね?」

 ハルネスの顔から表情が消えていく。感情のこもっていない灰色の瞳が、痛いほどに強い視線を突き刺してくる。

「いいかい、リュカ。欲望なんて、そうそう表に出すものじゃないんだ。あのサイファートだって、澄ました顔して本心ではおまえを抱きたいと思っているのかもしれないだろ。娼館に行くよりも、側仕えを抱いたほうがずっと手軽だ」
「そうだとしても、サイファート隊長は俺に手を出しませんでした。そういったことを要求されてもいない。俺にとってはそれがすべてです」
「うつくしい主従愛だ。――だが、おまえが男娼だと知っても、サイファートは同じ態度を取るかな?」

 男娼ということばに、ニコラがはっとした顔でハルネスを見る。

 サイファートに知られたくなければ、言うことを聞け。そう言っているように聞こえた。リュカが男娼であったことをサイファートに知られたくないと思っているのを、ハルネスは気づいている。リュカ自身でさえ、いま気づいたばかりなのに。

「あなたの言うように、ここへ来る前の俺は男娼でした」
「あっさり認めるんだな」
「事実ですから。ごまかしても無駄でしょう。素顔は隠していたのですが、よく気づきましたね」
「隠すつもりがあるなら、そのめずらしい色の大きな目も隠すべきだな。それに、声は変えられない」

 リュカが接客をするときは口元と頭をベールで覆っていたが、顔をすべて隠していたわけではない。声もそのままだった。
 ハルネスは、男娼として接客しているときのリュカの姿を知っている。つまりは、客として会っているということになるが、リュカにはハルネスの記憶はなかった。何度も通っている客ならともかく、一度しか会っていない場合は記憶に残らないこともある。

「なるほど」
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