【完結】一生に一度だけでいいから、好きなひとに抱かれてみたい。

村松砂音(抹茶砂糖)

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10 片割れの少年

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「あ……ごめ、なさ……いっ」

 震える声で謝りながら泣き出したリュカを見て、少年は驚きに目を見開いた。

「いや、こちらこそ驚かせてすまなかった。……大丈夫だ、このくらいすぐ治る。泣くな」
「でも……っ」
「驚かせたオレが悪かった。きみは、魔力欠乏体質なのに魔力の受け渡し方を知らなかったのか?」
「魔力の、受け渡し?」
「そうだ。ああやって、唇同士を触れ合わせるのが一般的な方法だ。本当は粘膜を……いや、これはまだ早いか」

 そう言って、少年が目を泳がせる。
 魔力をもらえる方法があるなんて、リュカは知らなかった。父も兄も教えてくれなかった。

「ほかは、なんですか?」
「それは……大人になったらわかる」
「大人に……?」

 おかしなことを言う。確かにリュカよりもずっと大人びて見えるけど、きっと三つか四つの違いだ。少年だってまだ子どもに見える。

「詳しいんですね」
「ああ、身内に魔力欠乏体質がいるんだ」
「……そうなんですか?」

 魔力欠乏体質はかなりめずらしいと聞いていたのに、こんな偶然もあるのかと驚いた。

「そうだ、ちょうどいい。もうひとつ魔力の摂取方法がある。試してみようか?」
「まだ、大人じゃないのに?」

 リュカの問いかけに少年が苦笑を浮かべる。

「べつの方法があるんだ」
「なにをするんですか?」
「血を舐めるんだ」

 そう言って、少年は傷ついた自分の指をリュカのほうへと近づけてきた。

「まあ……あまり気分はよくないだろうからな。無理はしなくていい」
「無理じゃないです」

 リュカがきっぱり言うと、少年は驚いたのかきれいな目を見開き、やわらかな笑みを浮かべた。

「そうか。――なら、舐めてみるといい」
「はい。……失礼します」

 少年の指についた血を舌先で舐めてすぐ、傷口からまた血が滲んでくる。無言でぺろぺろと舌を動かしていると、少年がくすりと笑った。

「子犬……いや、子猫みたいだな」

 リュカが舐めるのをやめると、少年は子猫に対してそうするようにリュカの頭をやさしく撫ではじめた。

「もういいのか?」
「はい。ありがとうございました」
「どうだ、具合はよくなったか?」

 言われてみれば、頭は痛くないし、気持ち悪くもない。ひんやりと冷たかった身体が、いまはぽかぽかと温かい。
 少年の唇が触れたときや血を舐めていたとき、じんわりと身体が熱くなるような気がしたが、あれは魔力が身体に流れていたからだったのだ。

「はい」
「そうか」

 頷いて笑みを深めた少年は、まだリュカの頭を撫でている。

「きみがオレの片割れになってくれたらいいのに」
「かたわれ、ですか?」
「魔力を供給し、供給される関係のことだよ。――オレの片割れになってくれないか?」
「あなたと、結婚するってことですか?」

 リュカの問いかけに少年は驚いたようで、目を見開いたあとに笑った。

「少し違うな。でも、似たようなものだ。毎日、顔を合わせることになるだろう。……オレとではいやか?」
「いやじゃないです」

 毎日このひとと会えるのかと思ったらうれしくなった。
 このひとのそばは、ぽかぽかと温かい。頭を撫でられると、もっとぽかぽかして心地よかった。ふたりでいれば、リュカもこのひともさみしくなくなるかもしれない。
 このひとともっと話がしたい。このひとの笑った顔をもっと見てみたい。そう思った。

「そうか……ありがとう、きみの名前は?」
「リュカ、です」
「そうか。オレは――」

 草を踏む音が近づいてきて、少年がはっとした顔で腰を上げる。リュカに手を貸して立ち上がらせ、服の汚れを手のひらではたき落としてくれた。

「あなたの服のほうが……」

 少年の服が汚れていることを伝えようとしたところで、こちらに近づいていた足音の主が姿を現す。

「なんだ、こんなところにいたのか」

 やってきたのは、少年と同じ年頃のべつの少年だった。少年に対してそんな喋り方をしているあたり、彼も少年と同等の身分を持っているのだとわかる。それに、彼らは顔がよく似ていた。兄弟なのだろうか。

「おや、その子は?」

 あとからやってきた少年が、リュカを見つけて尋ねてくる。

「この子は、迷っていただけだ」

 片割れの少年が答えると、もうひとりの少年はさらにリュカのほうへと近づいてきた。顔を近づけ、じっと瞳を覗き込んでくる。ふたりの少年は顔立ちが似ているだけでなく、同じ色の瞳をしていた。

「へえ、紫色の瞳なんてめずらしいね。きみのお母上と同じだ」

 あとのほうは、リュカの隣にいた少年に言ったようだった。どうやらふたりの母親は違うらしい。兄弟ではないのだろうか。

「この子が、気に入った?」
「なんの話だ?」
「今日のパーティのもうひとつの目的を、きみは聞いていないの?」
「……聞いていないな」

 そう言って、片割れの少年がリュカを自分の背後に隠す。
 リュカには、ふたりがなんの話をしているのかわからない。それでも、この場にリュカがいるのは、片割れの少年にとってよくないことであるのだとわかった。

「――リュカ、またきみに会いにいく」

 パーティ会場のほうへ戻るようにと言われ、片割れの少年から離れる直前、そっと耳元でささやかれた。
 背中を押されるまま、リュカは少年たちに頭を下げ、その場を離れた。
 彼の名前を聞きそびれてしまったことに気づいたのは、父と兄のところに戻ったときだった。
 リュカがいないあいだに父と兄はすでに王子たちへあいさつを済ませてしまったようで、結局あのふたりが王子だったのかはわからなかった。
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