パーティーをクビになったおっさん戦士は、地球を追放された最強AIと旅をする。

王加王非

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16 港町のフィノ

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「お見事な手際だ。戦士殿」

 御者の男を逃げ出さないように縛っていると、馬車の後部座席からパチパチと手を叩く音が聞こえてきた。
 そちらを見ると、落ちついた物腰の女が拍手を打っていた。
 年齢は30前後といったところだろうか、長い三編みを横に流し、紺色の外套に身を包んでいる。

「あんたは?」
「私はフィノ。この先の港町のギルドに仕える者だ。先ほどの戦いを拝見させてもらったが、バンダースナッチの群れを一蹴するとは、よほど熟練の戦士とお見受けする。両手を上げて無防備な状態で近づいた時はどうなることかと思ったが、あれはなにかの作戦だったのかな?」
「あー、まあそんなところだ」

 堅苦しい口調で問う女に、俺は適当にごまかす。
 普通に考えたらあの行動は異常以外の何物でもない。
 平和的に話し合いで解決しようとしてました、などと言えば、常識か正気のどちらかを疑われることだろう。

【失礼ですね。何事も対立を解消するにはまず交渉から入るものです】
「なにも言ってないだろ。失敗したくせに」
【あなたの口調と表情から推察しました。人類とのコミュニケーションを円滑に進める忖度回路が復旧したようです】

 だんだん面倒になっていくな、こいつは。

「この詐欺師は連行しなければならないが、このままでは乗り手がいないだろう。馬車の操縦には心得があるから私が港町までみんなを運ぼう。もちろん運賃は取らないし、その男に払った金はこの場で返金しよう」
「いいのか?」

 フィノの言葉に、他の乗客たちからも喜びの声が上がる。
 タダというのは人間誰しも好きなものだ、気持ちは分かる。

「そ、そうか! じゃあ我は歩いていくから港町で会おう!」

 マルが片手を上げて、足早に馬車から離れようとする。
 人間じゃない奴は別だったか。

「なに言ってんだ、さっさと乗れ」
【ここから港町への距離は約40kmほどあります】
「嫌じゃ~! もう馬車には乗りたくない~!」
「全員乗ったな。それでは出発だ!」

 暴れるマルを無理やり押し込めるところを確認すると、フィノは鞭を振るって馬を発進させた。

「……おぉ? さっきより気持ち悪くないぞ?」
「吐いて楽になっただけじゃないのか?」
【運転手が変わってから震動が弱まったようです。彼女の乗馬技術が優れているか、詐欺師の御者が乱暴だったのでしょう。気を紛らわせる音楽にハードメタルを用意していたのですが不要になりました】
「戦士殿。少しいいか? 走りながら話がしたい」
「? ああ」

 俺は最前列に行き、馬上にいるフィノのすぐ近くの座席に移動した。
 彼女は前を向いて馬車を走らせたまま、こちらに話しかける。

「あなた達はなぜ港町に? 船に乗るつもりか?」
「ああ。ちょっと事情があって、南の大陸に行くんだ」
「南か……行きたがる船乗りがいるかどうか分からないな。いたとしても相当吹っ掛けられるぞ」
「それは覚悟してたが……いくらぐらいだ?」
「今の相場では一人頭4000ゴールド。私は船乗りじゃないからあくまで聞いた話だけどね」
「よ…………」

 法外な金額に言葉を失う。スリサズめ、情報が違うじゃないか。

【私が広域スキャンをかけた当時では1000ゴールドで間違っていません。相場は刻刻と変化するものです】
「う~む、それは魔大陸の影響か?」
「それもあるが……実はそのことで相談したいことがある」

 一拍置いて、彼女は説明を始めた。

「魔物が活発化しているせいで海の商売も不景気でね。船乗りの一部が武装船を奪って、海賊の真似事を始めたんだ。出港する船や、他の港から来る貿易船を狙っている。他の船員も委縮してしまって、あいつらが暴れてるうちは船を出したくないと言ってきてる。相当な金を積めば話は別だけどね」
「それで4000ゴールドか」
「本音はそれでも船は出したくないんだろうさ。無理な金額を言えば客も諦めると思ってる」
「船が出れんと我が困るぞ」

 酔いが覚めたのか、いつの間にかマルも近くに来て会話に加わっていた。

「相談というのはそこだ。戦士殿の腕を見込んで、あいつらの取り締まりに協力してほしい。船も正規の値段で乗れるようになるし、その他にも報酬を出す」
【交渉により85%の……】
「上乗せの話はもういい」

 どうせろくな提案をしてこないポンコツを道具袋に押し込む。
 しかし報酬はともかく、解決しない限り船が出せないとなると、やらないわけにもいかない。

「いいだろう。港町に着いたら手はずを教えてくれ」
「感謝する。そう言ってくれると思っていたよ」

 フィノは鞭を入れ、馬車を加速させた。
 前を向いていたため表情は読み取れなかったが、声のトーンがやや上機嫌に聞こえた。

「うっ……! いきなり速くなるからまた気持ち悪く……!」
【それはいけません。気を紛らわせるために、細かい文字がビッシリと入った電子書籍をお見せしましょう】
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