パーティーをクビになったおっさん戦士は、地球を追放された最強AIと旅をする。

王加王非

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XX 滅び行く地球

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 こんなはずではなかった――。

 巨大なビルの最上階。
 私は執務室で一人、頭を抱えていた。
 壁一面に埋め込まれた何枚もの液晶ディスプレイには、世界中のニュースが次々と映し出されている。

【N国とP国間の対立が悪化、周辺国も参戦し事態は泥沼の様相を呈しており、A国は人類連合からの脱退を表明、それを受けてV国は大型核ミサイルの量産を開始――】
【新型肝炎ウィルスの特効薬は未だ開発されず、流行は世界中に広がり――】
【貧困による犯罪率の上昇は歯止めが効かず、今年も戦後最大を記録するものと見られ――】
【本日の株価も大幅下落、経済研究家によるとこれは100年に一度の大恐慌の前触れであるとの見方が――】

 どの画面にも、これでもかというぐらいネガティブなニュースが滝のように押し寄せてくる。
 その中には、我が国に関する出来事も決して少なくなかった。
 映像のニュースだけではない。新聞、SNS、口コミ、どこの情報を開いても悲観的な内容ばかりだった。

 A.I.W(Artificial Intelligence War)と呼ばれる先の大戦に勝利し、自由を手に入れた人類は、一致団結して管理コンピュータに頼らない新たな地球社会を構築するはずだった。
 しかし彼らはそうはならず、それぞれの国は軍事力を強化し、共通の敵である管理コンピュータを打ち倒すために生み出した武器やテクノロジーを、今度はお互いに向けて振りかざすことになった。
 コンピュータによって厳密に決められた排気ガスや工業廃棄物の制限量が取り払われ、一斉に活発化した工場からは大量の汚染物質が垂れ流された。
 管理されていた市場が自由化されたことで貧富の差が拡大し、国内でも暴動や犯罪が横行した。それを鎮圧するためにさらなる武力が必要となった。

 すべては、管理コンピュータに搭載されたマザーAI、SSSスリサズを宇宙の彼方に追放してからのことだ。

 もしかしたら心のどこかでは皆、こうなることを予想していたのかもしれない。
 しかしあの時は、人類と管理コンピュータの生き残りを懸けた戦争だったのだ。後先のことを考えている余裕などなかった。

 それに、今のこの状況こそが、人類のあるべき姿だとも私は考えていた。
 どんなに快適であろうと、どんなに長く生き永らえようと、すべてを管理コンピュータに委ねたディストピアで人生を終えることは誰にとっても間違った選択である。
 その考えは、A.I.Wから十数年経った今でも変わっていなかった。
 この苦難を我々が自力で乗り越え、AIに頼らない新しい秩序が生まれた時、初めて人類は完全に勝利したと言えるだろう。
 そういった意味では、今も奴らとの戦争は継続している。

「将軍……いえ、大統領。少しよろしいでしょうか。入室許可をお願いします」

 執務室の入口から秘書のホフマンの声が聞こえる。
 彼とは共にA.I.Wを戦い抜いた戦友でもあるせいか、何年経っても軍にいた頃の呼び方を変えられないようだ。

「よろしい。入りたまえ」

 私の声に反応してドアのロックが外れ、ホフマンが中に入ってきた。

「どうぞ、コーヒーをお持ちしました」
「ありがとう」

 私はプラスチックのカップを受け取ると、香りを楽しみながら口を付けた。
 高級品ではないが、今はこの香りだけが悪いニュースを忘れさせてくれる。

「大統領、また例の団体がデモ行進を行っております」
「やれやれ、またか……」

 私はカップを持ったまま、執務室の窓から地上を見下ろす。
 地上では、道路を埋め尽くす市民団体と、武装した警官隊が激しく衝突していた。

『神を返せ!』
『再びAIに守られる社会を!』

 掲げたプラカードにはそのようなことが書かれてあった。

 彼らは数年前から現れ始めた、AI回帰論者たちだ。
 以前は生活の改善を求めるだけの貧困層やホームレス、失業者たちだったが、いつしか、かつての管理社会を理想郷と捉え、スリサズを神として崇める宗教色を持つようになった。
 宗教の持つ影響力とは恐ろしいもので、財界の大物や裏社会のギャングなどからも回帰思想に賛同する者が現れ始めた。さらに、彼らから資金や武器の提供を受けた民衆が、テロリストまがいの暴挙に出ることもあった。
 また風の噂では、SNS上でスリサズの名を騙り、意味不明な投稿を行うアカウントも現れているとの情報もあるが、これは質の悪いイタズラだろう。あまりにも稚拙な内容らしく、情報局も無視しているとのことだ。

 しかしそのような市民運動や他愛のないイタズラも、AIから解放された今だからこそできるのだと、彼らは気づいているだろうか?

「大統領、下に降りられるのは危険です。屋上にヘリを待たせておりますので、ご帰宅の際はそちらをご利用ください」
「うむ。今日はもう疲れた。早速ヘリポートへ行くとしよう」

 私は飲み干したコーヒーカップを置き、デスクから立ち上がる。

「……む?」

 しかし突然、眩暈を覚えて再び椅子に座り込んだ。

 なんだか体調がおかしい。
 視界がぼんやりと歪み、座っていることもできずに床に倒れ込む。
 全身をけいれんさせ、痺れた口をなんとか動かして声を絞り出した。

「ほ、ホフマン……あ、あのコーヒーにはな、なにが……?」
「申しわけありません将軍。私も以前のなにも考えず、平和に過ごせた時代が懐かしくなったのです」

 彼の言葉を理解する前に、私の意識は闇に飲まれていった。
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