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45 空の支配者
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「異星人め、調子に乗るなよ!」
大木に縛り付けられた戦闘ヘリのドアがスライドして開かれると、室内のスペースには銃が据え付けられた台座があり、アダムが俺たちに向けて構えているのが見えた。
ヘリの機関砲ほどではないが、重量がありそうな長い銃身からは、かなりの威力が想像できる。
「ちっ、また銃か」
中に武器を隠している可能性は考えておくべきだった。
しかし、俺もリュートも今さらこんな物に怖気づいて引き下がるわけにはいかない。
「聖剣よ! 我が手に炎を!」
リュートの呼びかけと共に手に持った聖剣が赤く輝き、その刀身を炎に変える。
「“ヒート・ブランド”ッ!」
ゴォッ――。
刀身から伸びた炎が銃の先端を焼き、銃口を溶け固めた。
「なんだと……弾が発射できん!」
俺はその隙を突き、ヘリに刺さったままだった高周波ブレードを引き抜く。
そのまま室内に乗り込み、空いた手でアダムの喉を掴みヘリの壁面に押しつけた。
「うぐっ――き、貴様……!」
アダムは俺の手を引き剥がそうともがくがビクともしない。
さっきは妙な技で投げ飛ばされたが、単純な力比べなら俺の勝ちのようだ。
「こ、こんなことが……原始人ごときがこの私を……!」
「地球の人間ってのは少し鍛え方が足りないんじゃないのか? こんな武器にばかり頼ってるせいだな」
俺はそう言いながら高周波ブレードを胸元に突きつける。
このまま少し押し込むだけでブレードは心臓を貫き、アダムは死ぬ。
この男には色々と聞きたいことはあったが、これ以上ワケの分からん物を出してこられる前に決着をつけさせてもらう。
「ぐぐ……! ッふ……フッフッフ……」
俺がブレードに力を込めると同時に、突然アダムが笑い出す。
「おい、妙な真似をするんじゃないぞ!」
「フッフッフ……。妙な真似だと? そんなことはしないさ。この私はな」
ドォンッ――!
爆発音と共に機体が大きく揺れ、アダムを掴んでいた手が緩む。
「フンッ!」
「ぐっ!」
俺はその隙を突かれ、アダムの蹴りによってヘリの外に叩き出された。
「この野郎、悪あがきを――」
「ジョン! 大変だ!」
外にいたリュートが慌てた様子で俺に声をかけてくる。
「どうした!?」
「この木のあちこちで爆発が起きている! どこかから攻撃されているんだ!」
ドォンッ――!
今度はすぐそばで爆発が起きる。
枝は俺たちを乗せたまま、バキバキと音を立てて折れ始めた。
「フハハハ。さらばだ諸君」
縛り付けていた枝が折れ、拘束の解けたヘリが再び空に浮上していく。
その逆に俺たちは折れた枝ごと落下し、地面に叩きつけられた。
◆
「二人とも、大丈夫ですか!?」
木から落ちてきた俺とリュートを見て、心配したカナベルが駆け寄ってきた。
「くそ、あと一歩だったのに」
俺はさっきまで上っていた大木を見上げる。
爆発のせいか葉は散り、枝は折れ、幹は今にもへし折れて崩れ落ちそうになっていた。
「何が起きている!? どこから攻撃してきたか、見た者はいるか!?」
少し離れた所で、フィノが部下の兵士に問いただしている。
あっちもなんとかヘリの銃撃から逃れていたようだ。
「指揮官! あ、あれを!」
一人の兵士が青ざめた表情で空の一方を指さす。
その先には、十数体の黒い影が規則正しく並んで浮かんでいるのが見えた。
「まさかあれは……なんてことだ」
ババババババッ――。
すでに飽きるほど聞かされた羽音が、今度は幾重にもかさなって聞こえてくる。
それが編隊を組んだ戦闘ヘリの集団だということに気づくのに、そう時間はかからなかった。
『クックック――。私のヘリを墜とせば勝ちだと思っていたのかもしれないが、残念だったな。我が軍との戦力差は貴様らの想像より遥かに大きいのだ』
先頭のヘリから、拡声器を通じてアダムの勝ち誇った声がこだまする。
「も、もう駄目だ……これじゃ勝ち目はない……」
兵士たちは絶望し、武器を落として膝をつく者も現れ始めた。
情けない話だが無理もない。
俺を含め、リュートや仲間たちもみんな同じ気持ちだろう。
一機だけでも全滅の危機に晒された上に、俺たちの全力の攻撃にもかかわらず取り逃がしてしまったのだ。
エレトリアとソフィーも先ほどのような大魔法は連発できないし、仮にできたとしてもこれだけの数のヘリの動きを止めることは不可能だろう。
打開策が見つからないというよりは、どうにもならないことが一瞬で理解できてしまう絶望感にその場にいる全員が支配されていた。
「戦士殿、こうなったら散り散りに逃げるしか手は残されていないのかもしれないな。逃がしてくれるとも思えないが」
フィノはそんなことを言いながら苦笑いしている。
その態度に焦りや恐怖は見られないが、余裕ではなく諦めの境地といった感じだ。
『フフフ――。しかし一瞬たりとはいえ、この私を追い詰めたことは評価に値する。貴様らがそれなりに優秀な兵士であることも認めよう。これ以上、戦力を温存して貴様らのレベルに合わせて戦ってやるのは文明人のすることではない』
戦闘ヘリの集団は、アダムの指示で一定の間隔を開けながら俺たちを取り囲むように旋回する。
おそらく逃がさないようにするためだろう。
『全機からの絨毯爆撃でこの区画一帯を焼き払ってくれる。跡には骨も残さん。全軍に通達! 準備の完了した機から順に爆撃を開始せよ!』
「くっ……」
今度こそ終わりか。
そう思い俺は目を閉じる。
【南方向より熱源が複数近づいています。戦闘ヘリではありません。生物のようです】
「……なに?」
今まで黙っていたスリサズが突然そう言い、俺は目を開けた。
こんな状況で今さら何を言ってるんだ?
シュバァッ――。
空に一筋の閃光が走る。
ヘリが一機、その光の中に飲み込まれた。
ドオォォォンッ――!
光に飲まれたヘリは、投下するつもりだった爆薬が引火したのか空中で大爆発を起こし、吹き飛んだ羽の一枚が俺のすぐ近くに突き刺さる。
「今度は何が起きた!?」
「フィノ指揮官! ど、ドラゴンの群れです!」
空を見ると、青い鱗に覆われた竜が翼を雄々しく開き、群れをなしてこちらに飛んで来る。
どうやら、ドラゴンの吐いたブレスがヘリを撃墜したらしい。
「ドラゴンだと……? この期に及んでそんなものまで現れるとは……」
助けが来たと思った期待を裏切られ、落胆の色を隠せないフィノ。
他のみんなもアダム側の増援だと考えているようだが、俺だけは違っていた。
南から来た……青いドラゴンの……群れ……?
ズゥンッ!
群れのボスと思わしき巨大な竜が目の前に降り立つ。
俺にはドラゴンの顔色など分からないが、こちらを睨みつけるその表情は怒っているようにも見えた。
俺は思わず身構えたが、よく見るとドラゴンの視線は俺ではなく、その背後に向けられていた。
「は……は……は……は……は……」
今までどこに隠れていたのか、マルがそこに立ち尽くしていた。
目に焦点が定まらず、体をガタガタと震わせながらうわ言のように何かを繰り返している。
「ははははははははははははははは」
笑っているわけではなく、体の震えのせいでまともに言葉が出てこないようだ。
こいつはいつもオーバーリアクションだったが、ここまで恐怖しているのは初めて見たかもしれない。
グルルルルル――。
巨大なドラゴンはマルに向かって何かを伝えるようにうなり声を上げている。
「スリサズ、確かモンスターの言葉が分かるんだったよな。こいつは何を言ってる?」
【人類の周波数に変換します。『愚か者のマルドゥーク。いつの間にか群れから消えたと思ったら、こんな所で何を遊んでいる?』】
ドラゴンの顎が上下に開かれ、喉の奥から光が漏れ出す。
ブレスを吐く前兆だ。
【『ミスティック・ドラゴンの面汚しめ』】
「はははははは母上えぇぇぇぇッ――!?」
ゴァッ――!
絶叫をかき消すように極大のブレスが俺の横をかすめ、マルの姿は閃光に飲み込まれ消えた。
大木に縛り付けられた戦闘ヘリのドアがスライドして開かれると、室内のスペースには銃が据え付けられた台座があり、アダムが俺たちに向けて構えているのが見えた。
ヘリの機関砲ほどではないが、重量がありそうな長い銃身からは、かなりの威力が想像できる。
「ちっ、また銃か」
中に武器を隠している可能性は考えておくべきだった。
しかし、俺もリュートも今さらこんな物に怖気づいて引き下がるわけにはいかない。
「聖剣よ! 我が手に炎を!」
リュートの呼びかけと共に手に持った聖剣が赤く輝き、その刀身を炎に変える。
「“ヒート・ブランド”ッ!」
ゴォッ――。
刀身から伸びた炎が銃の先端を焼き、銃口を溶け固めた。
「なんだと……弾が発射できん!」
俺はその隙を突き、ヘリに刺さったままだった高周波ブレードを引き抜く。
そのまま室内に乗り込み、空いた手でアダムの喉を掴みヘリの壁面に押しつけた。
「うぐっ――き、貴様……!」
アダムは俺の手を引き剥がそうともがくがビクともしない。
さっきは妙な技で投げ飛ばされたが、単純な力比べなら俺の勝ちのようだ。
「こ、こんなことが……原始人ごときがこの私を……!」
「地球の人間ってのは少し鍛え方が足りないんじゃないのか? こんな武器にばかり頼ってるせいだな」
俺はそう言いながら高周波ブレードを胸元に突きつける。
このまま少し押し込むだけでブレードは心臓を貫き、アダムは死ぬ。
この男には色々と聞きたいことはあったが、これ以上ワケの分からん物を出してこられる前に決着をつけさせてもらう。
「ぐぐ……! ッふ……フッフッフ……」
俺がブレードに力を込めると同時に、突然アダムが笑い出す。
「おい、妙な真似をするんじゃないぞ!」
「フッフッフ……。妙な真似だと? そんなことはしないさ。この私はな」
ドォンッ――!
爆発音と共に機体が大きく揺れ、アダムを掴んでいた手が緩む。
「フンッ!」
「ぐっ!」
俺はその隙を突かれ、アダムの蹴りによってヘリの外に叩き出された。
「この野郎、悪あがきを――」
「ジョン! 大変だ!」
外にいたリュートが慌てた様子で俺に声をかけてくる。
「どうした!?」
「この木のあちこちで爆発が起きている! どこかから攻撃されているんだ!」
ドォンッ――!
今度はすぐそばで爆発が起きる。
枝は俺たちを乗せたまま、バキバキと音を立てて折れ始めた。
「フハハハ。さらばだ諸君」
縛り付けていた枝が折れ、拘束の解けたヘリが再び空に浮上していく。
その逆に俺たちは折れた枝ごと落下し、地面に叩きつけられた。
◆
「二人とも、大丈夫ですか!?」
木から落ちてきた俺とリュートを見て、心配したカナベルが駆け寄ってきた。
「くそ、あと一歩だったのに」
俺はさっきまで上っていた大木を見上げる。
爆発のせいか葉は散り、枝は折れ、幹は今にもへし折れて崩れ落ちそうになっていた。
「何が起きている!? どこから攻撃してきたか、見た者はいるか!?」
少し離れた所で、フィノが部下の兵士に問いただしている。
あっちもなんとかヘリの銃撃から逃れていたようだ。
「指揮官! あ、あれを!」
一人の兵士が青ざめた表情で空の一方を指さす。
その先には、十数体の黒い影が規則正しく並んで浮かんでいるのが見えた。
「まさかあれは……なんてことだ」
ババババババッ――。
すでに飽きるほど聞かされた羽音が、今度は幾重にもかさなって聞こえてくる。
それが編隊を組んだ戦闘ヘリの集団だということに気づくのに、そう時間はかからなかった。
『クックック――。私のヘリを墜とせば勝ちだと思っていたのかもしれないが、残念だったな。我が軍との戦力差は貴様らの想像より遥かに大きいのだ』
先頭のヘリから、拡声器を通じてアダムの勝ち誇った声がこだまする。
「も、もう駄目だ……これじゃ勝ち目はない……」
兵士たちは絶望し、武器を落として膝をつく者も現れ始めた。
情けない話だが無理もない。
俺を含め、リュートや仲間たちもみんな同じ気持ちだろう。
一機だけでも全滅の危機に晒された上に、俺たちの全力の攻撃にもかかわらず取り逃がしてしまったのだ。
エレトリアとソフィーも先ほどのような大魔法は連発できないし、仮にできたとしてもこれだけの数のヘリの動きを止めることは不可能だろう。
打開策が見つからないというよりは、どうにもならないことが一瞬で理解できてしまう絶望感にその場にいる全員が支配されていた。
「戦士殿、こうなったら散り散りに逃げるしか手は残されていないのかもしれないな。逃がしてくれるとも思えないが」
フィノはそんなことを言いながら苦笑いしている。
その態度に焦りや恐怖は見られないが、余裕ではなく諦めの境地といった感じだ。
『フフフ――。しかし一瞬たりとはいえ、この私を追い詰めたことは評価に値する。貴様らがそれなりに優秀な兵士であることも認めよう。これ以上、戦力を温存して貴様らのレベルに合わせて戦ってやるのは文明人のすることではない』
戦闘ヘリの集団は、アダムの指示で一定の間隔を開けながら俺たちを取り囲むように旋回する。
おそらく逃がさないようにするためだろう。
『全機からの絨毯爆撃でこの区画一帯を焼き払ってくれる。跡には骨も残さん。全軍に通達! 準備の完了した機から順に爆撃を開始せよ!』
「くっ……」
今度こそ終わりか。
そう思い俺は目を閉じる。
【南方向より熱源が複数近づいています。戦闘ヘリではありません。生物のようです】
「……なに?」
今まで黙っていたスリサズが突然そう言い、俺は目を開けた。
こんな状況で今さら何を言ってるんだ?
シュバァッ――。
空に一筋の閃光が走る。
ヘリが一機、その光の中に飲み込まれた。
ドオォォォンッ――!
光に飲まれたヘリは、投下するつもりだった爆薬が引火したのか空中で大爆発を起こし、吹き飛んだ羽の一枚が俺のすぐ近くに突き刺さる。
「今度は何が起きた!?」
「フィノ指揮官! ど、ドラゴンの群れです!」
空を見ると、青い鱗に覆われた竜が翼を雄々しく開き、群れをなしてこちらに飛んで来る。
どうやら、ドラゴンの吐いたブレスがヘリを撃墜したらしい。
「ドラゴンだと……? この期に及んでそんなものまで現れるとは……」
助けが来たと思った期待を裏切られ、落胆の色を隠せないフィノ。
他のみんなもアダム側の増援だと考えているようだが、俺だけは違っていた。
南から来た……青いドラゴンの……群れ……?
ズゥンッ!
群れのボスと思わしき巨大な竜が目の前に降り立つ。
俺にはドラゴンの顔色など分からないが、こちらを睨みつけるその表情は怒っているようにも見えた。
俺は思わず身構えたが、よく見るとドラゴンの視線は俺ではなく、その背後に向けられていた。
「は……は……は……は……は……」
今までどこに隠れていたのか、マルがそこに立ち尽くしていた。
目に焦点が定まらず、体をガタガタと震わせながらうわ言のように何かを繰り返している。
「ははははははははははははははは」
笑っているわけではなく、体の震えのせいでまともに言葉が出てこないようだ。
こいつはいつもオーバーリアクションだったが、ここまで恐怖しているのは初めて見たかもしれない。
グルルルルル――。
巨大なドラゴンはマルに向かって何かを伝えるようにうなり声を上げている。
「スリサズ、確かモンスターの言葉が分かるんだったよな。こいつは何を言ってる?」
【人類の周波数に変換します。『愚か者のマルドゥーク。いつの間にか群れから消えたと思ったら、こんな所で何を遊んでいる?』】
ドラゴンの顎が上下に開かれ、喉の奥から光が漏れ出す。
ブレスを吐く前兆だ。
【『ミスティック・ドラゴンの面汚しめ』】
「はははははは母上えぇぇぇぇッ――!?」
ゴァッ――!
絶叫をかき消すように極大のブレスが俺の横をかすめ、マルの姿は閃光に飲み込まれ消えた。
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