パーティーをクビになったおっさん戦士は、地球を追放された最強AIと旅をする。

王加王非

文字の大きさ
50 / 59

48 アダムズフォート

しおりを挟む
 マルの母親であるドラゴンと別れた俺たちは、アダムの信号を追ってヘリを飛ばしていた。

「この付近で信号は消失しています。おそらくアダム大佐のヘリがどこかに降りたのでしょう」
「この辺りか……やはりな」

 俺の眼下には、荒野の真ん中にたたずむ石造りの塔が見えた。
 見るのは初めてだが、あれが言い伝えにある魔王の塔に間違いないだろう。

「うっ……なんだあれは?」

 しかし、俺が気を取られたのはそびえ立つ魔王の塔ではなく、さらにその下、塔の周辺に立ち並ぶ奇妙な建物群だった。
 それらは倉庫のようでもあり、小さな砦が並んでいるようでもあった。
 さらに、その建物の置かれている地面は滑らかに舗装されており、まるで一つの街を形成しているようにも見えた。

【あれは地球の軍事基地です。アダム大佐は亜空間転送装置によって基地ごと飛ばされてきたと言っていましたが、偶然にもあの塔に重なる座標に転送されたのでしょう。もっとも地球にあった頃より全体的に増築されているようですが】
「まったく次から次へとわけの分からん物を……」

 俺はこの島に来てから何度言ったか分からない台詞を吐きながら基地を見回す。
 無機質な灰色の大地の上には建物の他に、列をなして行進する無数の影が見えた。

「あれは……モンスターか?」

 武器を持ったモンスターの集団が足並みをそろえて基地の外に向かって歩いていく。
 その数は千か一万か、もしくはそれ以上か、とにかく数えきれないほどの大軍勢が一方向に黙々と歩を進めていくのが見えた。
 向かっている先は俺たちが飛んできた方向、つまりリュートたち討伐軍のいる場所だ。

「まだあんなに兵力を残していたのか」
【あの増援が到着しては、いかにドラゴンの協力があっても形勢は圧倒的に不利になります。急いでアダム大佐を探し出し暗殺することをおすすめします】
「言われなくてもそのつもりだ」

 アダムを倒せばモンスターは無力化する。
 その話が本当かどうかまだ確信を持てないが、俺たちが勝利するには他に道は無さそうだ。

【塔の最上階がヘリポートになっているようです。そこにヘリを着陸させ、内部に潜入しましょう】

 ヘリに乗っているのが仲間だと思っているのか、地上のモンスターはこちらに注意を向けてこない。
 その隙に俺は速度を上げ、塔の頂上に近づく。

「待てよ……これ、どうやって降りるんだ?」

 塔を見下ろせるほどまで近づいた時、新たな問題に気づいた。
 飛んでいたヘリをそのまま奪ったため、俺は着陸の仕方を知らない。

【説明している時間はありません。できるだけ屋上に接近して飛び降りてください】
「チッ!」

 舌打ちしながら機内に持ち込んだ高周波ブレードとスリサズを掴み、空中に身を投げ出す。
 慣性のついた体は着地と同時に屋上を転がり、四方を囲む胸壁に激突して止まった。

「うぐッ……」

 思いのほか勢いよく背中を打ちつけ、一瞬息が止まる。
 しかしなんとか魔王の塔に乗り込むことに成功した。

 乗り手を失ったヘリはそのまま彼方へ飛び去って行く。
 燃料が切れて海に落ちればそれでよし、木や山にぶつかって墜落したとしても、それはそれで敵の注意を逸らすことができるだろう。
 俺は小さくなっていくヘリをほどほどに見送ると、階段を降りて塔の内部へと入っていった。



 屋上から階下に降りた先は、がらんとした広間だった。
 部屋には豪華な調度品がちりばめられ、それらの中心には髑髏をあしらったまがまがしい雰囲気を放つ大きな座椅子が一つ。
 魔王の待つ玉座の間――――。
 一目でそう連想させる空間だった。
 しかし部屋にアダムの姿はなく、魔王が鎮座するはずの玉座は長い間使われていないのかホコリが積もっている。

「なんでいきなりこんな所に出るんだ?」
【本来は階下から上って来る者を待ち構えるように設計されていたのでしょう。屋上から侵入するのは正規ルートではなかったようです】
「そりゃそうだ」

 ヘリで上空から侵入するなんて、この世界の人間や魔族が想定するはずがない。
 元々は一階から上っていくごとに門番となるモンスターを配置し、それらを乗り越えてきた冒険者をこの玉座の間で待ち受ける構造だったのだろう。
 アダムが地球の技術を持ち込んだことで、その常識が通用しなくなってしまったのだ。

 俺は玉座の間からさらに下の階に降りていく。
 どの階にも人やモンスターの気配は一切なく、その代わりに大小さまざまな木箱や樽が部屋中に積み重ねられていた。
 いくつかの木箱を開けてみると、中には食料や金貨、宝石などが一杯に詰め込まれていた。
 おそらくモンスターを使って略奪した品だろう。
 そのまま一階まで降りてみたが、他に気になる物は見当たらなかった。
 どうやらアダムはこの塔を倉庫や物置程度にしか利用していないらしい。
 言い伝えに聞く魔王の塔もこうなっては形無しだな。

「だがここにいないとなると、アダムはどこに隠れた?」
【屋上のヘリポートにアダム大佐のヘリがありましたので、彼も同じように階段を下りてきたはずです。塔を離れてそう遠くへは行けないでしょう】

 上空から見渡した時もアダムらしき影は見当たらなかった。
 塔から出ていないとすると奴はどこへ……?

【アダム大佐と関係があるかは不明ですが、先ほどから強力な妨害電波を感知しています。ここの真下、およそ50Mの地点に発生源があります】
「下だと? ここは一階だぞ――」

 そう言いかけると同時に俺は部屋の隅にある、甲冑を着こんだ置物に注目した。
 よく見たらその周りの床だけ引きずったような跡がある。
 ズズズズ――。
 置物を動かすと、すぐ下の床に両開きの扉があり、その中から地下へ続くハシゴが現れた。

「またずいぶんと月並みな隠し方をしたもんだな」
【アダム大佐も我々の追跡には気づいているはずです。注意して降りてください】

 ハシゴを降りると途中から階段になり、さらに地下へと続いていた。
 薄暗い一本道を進んでいくと、いつしか壁や床が石造りから金属に変わり、天井の細長いランプの白い光が周囲を照らし始めた。

「たいまつの明かりじゃないな。この白いランプも地球の技術なのか?」
【これ……は……ザザッ……蛍光灯……と呼ばれ……るもので……ザザッ】
「どうした?」

 説明するスリサズの声には雑音が混じり、消え入りそうなほど小さくなっていた。

【基地内部の……ザッ……妨害電波により……一部機能が著しく阻害されているようです……ザザッ……会話は困難になりますが……ザザッ……壊れるわけでは……ありません。ご……心……配なく……――――】

 ブツっという音を最後に、スリサズは一言も発しなくなってしまった。

「おい、大丈夫か?」
【――――】

 スリサズの張り付いている高周波ブレードをコンコンと軽く叩いてみる。
 応答はないが、機械の目が点滅しているので死んでいるわけではないらしい。
 こいつがそう簡単に壊れるとは思えないが、これからアダムを探し出して対決するのにスリサズから地球の情報が得られないのでは分が悪い。
 アダムもそれを見越してここに誘い込んだのかもしれない。

 だがここまで来て引き返すわけにもいかなかった。
 なんでも斬れる高周波ブレードもスリサズが力を出せないのであればただの剣だが、人間のアダムを殺すことぐらいならできるだろう。
 俺はそのまま奥へと進んだ。

 ……それにしても、こいつが黙ってるとこんなに静かになるものか。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

【完結】国外追放の王女様と辺境開拓。王女様は落ちぶれた国王様から国を買うそうです。異世界転移したらキモデブ!?激ヤセからハーレム生活!

花咲一樹
ファンタジー
【錬聖スキルで美少女達と辺境開拓国造り。地面を掘ったら凄い物が出てきたよ!国外追放された王女様は、落ちぶれた国王様゛から国を買うそうです】 《異世界転移.キモデブ.激ヤセ.モテモテハーレムからの辺境建国物語》  天野川冬馬は、階段から落ちて異世界の若者と魂の交換転移をしてしまった。冬馬が目覚めると、そこは異世界の学院。そしてキモデブの体になっていた。  キモデブことリオン(冬馬)は婚活の神様の天啓で三人の美少女が婚約者になった。  一方、キモデブの婚約者となった王女ルミアーナ。国王である兄から婚約破棄を言い渡されるが、それを断り国外追放となってしまう。  キモデブのリオン、国外追放王女のルミアーナ、義妹のシルフィ、無双少女のクスノハの四人に、神様から降ったクエストは辺境の森の開拓だった。  辺境の森でのんびりとスローライフと思いきや、ルミアーナには大きな野望があった。  辺境の森の小さな家から始まる秘密国家。  国王の悪政により借金まみれで、沈みかけている母国。  リオンとルミアーナは母国を救う事が出来るのか。 ※激しいバトルは有りませんので、ご注意下さい カクヨムにてフォローワー2500人越えの人気作    

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】 【複数サイトでランキング入り】 追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語 主人公フライ。 仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。 フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。 外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。 しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。 そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。 「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」 最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。 仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。 そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。 そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。 一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。 イラスト 卯月凪沙様より

処理中です...