52 / 59
50 魔王の謎
しおりを挟む
「ハァ……ハァ……。くそ……アダム……!」
「無理をするな。アキレス腱を撃った。貴様の片足はもう動くことはない。フフフ……まあこの星にアキレスなどいないだろうがな」
起き上がろうともがく俺を、アダムは嘲るように笑みを浮かべて見下ろす。
「さて、貴様は確かジョンと呼ばれていたな。地球でも実にありふれた名前だが、それが転じて名前の分からない者、例えば身元不明の死体なんかが発見された場合などには一時的にジョン・ドウと呼ぶことがある」
いきなりなにを言い出すのか、アダムが奇妙な話を始める。
「……それがどうした。お前の世界のことなんか興味ない――」
パァンッ!
銃の破裂音と共に、俺の右手の二の腕に穴が空いた。
「ぐあッ!!」
俺は持っていた高周波ブレードを手から落とし、アダムがそれを部屋の隅に蹴飛ばす。
武器を失い足も動かず、文字通り手も足も出なくなってしまった。
「クク、貴様もこれからそうなるという意味だよジョン・ドウ。SSSの力を借りていたとはいえ、未開の異星人ごときに追い詰められたという事実は私にとって非常に屈辱的なことでな。貴様にはこの星を代表して私の気が晴れるまで苦痛を受けてもらう」
「……けっ、地球の人間ってのはみんなお前みたいに悪趣味なのか?――うぐッ!」
せめて口だけでも動かそうと悪態をつく俺の腹にアダムの蹴りが入る。
「この期に及んで挑発的な態度は賢くないな。焦らずとも気が済めばすぐに殺してやる。死んだ方がマシなほど苦痛と絶望を与えた後になるだろうがね」
「このクソ野郎……があッ!」
撃たれた腕を踏みにじられ、苦悶の声をあげる。
アダムはとことん俺をいたぶるつもりのようだ。
「貴様を殺し外の連中も殲滅すれば、我が軍を止められるものはもはや存在しない。この星を隅々まで侵略し、すべてを我が物としてくれる」
「……お前は本物の魔王じゃないんだろう。なぜこんな真似をする? 世界の支配者にでもなりたいのか?」
「支配だと? この小惑星を支配したところで私にとって大した意味は無い。私の目的にはまだまだ先がある」
「先……だと?」
「いいだろう。原始人とはいえ私は貴様を優れた兵士であると評価もしている。スリサズとも関わりがあることだし、貴様には死ぬ前に知っておくぐらいの権利はあるだろう」
アダムは俺の腕を踏みつけたまま、語り始めた。
「私は地球では誰よりも優秀な軍人だった。スリサズの追放に協力したのも、その後の世界でさらなる権力を得られる確信があったからだ。圧政に耐えかねて暴発した負け犬共とは違う」
「できれば要点だけ教えてほしいんだがな……ぐっ」
俺は息も絶え絶えになりながら精一杯言葉を返すが、アダムは気に障ったのか踏みつけている足に力を込める。
「亜空間転送装置が暴走したあの日、私には脱出可能な時間が十分あった。だが何者かが実験施設に鍵をかけ、私は閉じ込められてしまったのだ。誰がやったのかは分かっている。スリサズ打倒のビジョンが現実的になってきた頃、AIの支配が無くなった地球では誰がどのように権力を握るのか? という争いがすでに始まっていたからな。私を邪魔に思う勢力はいくらでもいただろう」
つまり、アダムも事故でこの世界に飛ばされたわけではなく、スリサズと同じように追放されて来たということか。
「この場所に転送された時、私は死にかけていた。水や食料を探さねばならなかったが、外はファンタジーの化け物で溢れ、私は同じく転送されてきたこの軍事基地から一歩も出ることができなかった。しかし限界だった私は意を決して基地に隣接した古い塔に入ることにしたのだ」
「……それが魔王の塔か」
「装置が暴走していたせいもあったのだろう。軍事基地がまるごと転送された衝撃で、周囲は地形が変わるほど破壊されていた。塔もその余波を受け、今にも崩れそうになっていた。だから化け物がいたとしてもすでに逃げ出していると思ったのだ。予想した通り中には誰もおらず、私はなんの危険もなく塔を捜索することができたよ。食料は見つからなかったがな」
「それならどうやって生き延びた?」
「塔の最上階にさしかかった時、私は一匹の化け物の死体を見つけた。おそらく逃げ遅れたのだろう、瓦礫に押し潰され、尖った石が心臓の辺りを貫き、青い血を流していた。今思えばそいつはずいぶんと豪華な衣装を着ていたな」
「まさかそれが……」
「貴様らが呼んでいる魔王、ということだろうな。フフ、建物の倒壊で死ぬ魔王というのもマヌケな話だが、神話や物語で大げさに語られる者ほど得てしてその正体はくだらないものだ」
アダムは機嫌よく、饒舌にその時の様子を語る。
勝利の余裕からかひどく無防備に見えたが、身体の自由を奪われた今の俺にはなにもできない。
「さて、水と食料を探しに塔に入ったのになにも見つからない。目の前にはよく分からん化け物の死体が一つ。ジョン・ドウ、貴様ならどうする?」
「俺なら……?」
いきなり話を振られ、反射的に素直に考えてしまう。
水や食料のない場所、目の前に死体が一つ。
俺でなくとも、人間や動物ならとにかく生き延びようとするだろう。
……そう、たとえ死体を食らってでも。
「……お前、まさか!?」
「そう、死体を食ったのだよ。肉を食らい、体液を飲んだ。さすがに生ではなく、基地に持ち帰って焼いたり、血をろ過したりはしたがね。美味いとはとても言えなかったが、なんというか癖になる味ではあったぞ」
本物の魔王がすでにアダムに殺されているという可能性は考えていたが、まさか食われているとは……。
だからあの塔にもどこにも姿が見えなかったのか。
「死体の肉は私の空腹を満たすだけではなかった。外にうごめいていた化け物の群れが私に服従し始めたのだ。蜂やアリなどのようなフェロモンを発しているのか、それとも本当に魔法的な力が作用しているのかは分からんが、とにかく死体を食ったことで私にその能力が移ったのだと理解した」
「モンスターに銃を持たせて軍隊にしているのもそれが理由か……!」
「この軍事基地はスリサズに対抗するための兵器工場も兼ねている。放っておいてもあと10年は製造ラインが稼働し続け、銃火器を自動的に供給してくれるのだよ。問題はその武器を扱える兵士の数だけだったが、化け物共のおかげでそれは解消された。本当に偶然の連続だったが、私はこの遠い星で無限の兵力を手にすることができたのだ」
「だからこの世界を支配しようってのか……?」
「言ったはずだジョン・ドウ。それは私の最終目的ではない」
アダムは俺の腕から足を外すと、机の上の機械を操作し始める。
すると、白い壁になにやら映像が浮かび出した。
どこか別の部屋の様子らしいが、中央に天井まで届きそうなバカでかい機械が置いてある。
「これが亜空間転送装置だ。この星に転送されてきた時点で壊れてしまったのだが、テストと再調整を重ね再び使用できる段階まで修理が完了している」
「テストだと?」
俺は魔大陸に来るまでの町でマシンガンを持ったゴーレムと戦ったことを思い出した。
あの時、町の人間はゴーレムが瞬間移動するように突然現れたと言い、スリサズはそれを亜空間転送装置によるものだと言っていた。
「惑星内の短距離転送により、モンスターを各地にけしかけ、物資を略奪して帰還させる。フフフ、試験と実益を兼ねた効率的なプランだと思わんかね?」
「その装置で地球に帰ろうって腹か……モンスターの軍隊を手土産にして……」
「手土産になどするものか。この星は小規模とはいえ、地球に近い大気を持ち、資源もほぼ同じものが採れる。人口が飽和し、資源が枯渇した地球にとっては相当な価値があるだろう。だが私はみすみすその利権を手放しはしない。この星で得た軍事力と資源を用いて地球へ侵攻し、今の権力者たち、私を追放した奴らに思い知らせてやる! 真に地球の支配者になるべき者が誰かということを!」
復讐――その二文字が俺の頭をよぎった。
長々と演説しているが、要するにアダムの目的は追放した者たちへの復讐だ。
俺たちの世界はアダムの恨みを晴らすためだけの道具にされようとしている。
だが、それを知ったところで、負傷して体の自由が利かない今の俺になにができるだろうか。
「フフフ、さてジョン・ドウ。私がここまで長話をしたのにはもう一つ理由がある。これを見たまえ」
アダムは再び机の上の機械を操作すると、壁の映像がまた別の場所を映し出す。
それは建物の外、魔大陸のどこかを映しているようだった。
「我が軍の戦闘ヘリにはカメラが付いていてな。ここでモニターできるようになっているのだよ」
「あれは……リュート!?」
映像の場所は、先ほどまで俺がいた戦場だった。
しかし俺がいた時とは違い、討伐軍の兵士たちはモンスターの大軍勢に包囲されている。
基地に潜入する前に見た増援部隊だ。
兵士やドラゴンの死体はさらに増え、生き残っている者も、傷と疲労で今にも倒れそうになっていた。
リュートやエレトリア、他の仲間たちもかろうじて戦いを続けているが、俺から見ても全滅は時間の問題だった。
「ふーむ、やはりまだ死んではいないか。仲間の死体を見せてやりたかったのだが、そのためにはもう少し演説を続けるべきだったか。なあジョン・ドウ?」
青ざめる俺を見て、ニヤニヤと嘲笑しながらアダムは言う。
「や、やめろ……!」
「フハハハ! やっといい反応を見せたな。敵兵が絶望する表情を見るのは実に気分が良い。よし、もう満足だ。残ったもう片方の目と共にあの世へ行くがいい」
アダムは笑いながら銃口を俺の右目に合わせる。
「アダム! 貴様ぁ……!」
「フフフフフ、さらばだ。ジョン・ドウ」
目を見開いた俺のすぐ目の前で、奴の指がゆっくりと引き金を引く様が見えた。
カチッ――。
だが弾は発射されず、空撃ちの乾いた音が部屋に響いた。
「…………なに?」
カチッ――カチッ――。
何度も引き金を引くが、弾は出てこない。
「馬鹿な! 不発弾などあり得ない!」
アダムは持っていた銃を投げ捨て、さらに別の銃に持ち替え引き金を引く。
カチッ――。
しかし、同じように虚しく空撃ちの音が響くだけだった。
「ど、どういうことだ……?」
ここに来てから今までずっと余裕の態度をとり続けていたアダムが、初めて狼狽の表情を見せた。
「どうしたアダム。俺を殺すんじゃないのか?」
「ジョン・ドウ! 貴様がなにかしたのか!?」
「何もしやしないさ……俺はな」
ザザザザ――――。
俺がそう言うと、戦場を映していた壁の映像が乱れ始める。
しばらく砂嵐のような映像が続いたあと、また別の場所が映し出された。
「……リンゴ?」
映ったのは、皿の上に置かれた真っ赤なリンゴが一つ。
今までに出てきた映像とはあまりにも雰囲気が違っている。
だが俺にはこれがなにを意味するのか分かった。
……あの馬鹿、こっちは死にかけてるってのに何やってやがる。
【おや、カメラはこちらでしたか】
聞き慣れた声と共にリンゴがひとりでに回転すると、四本足で張り付いている鉄の虫が姿を現した。
「す、スリサズ――――!?」
【兵器製造ラインのハッキングが完了しました。今後、基地内にある全ての兵器のID登録情報は私の管理下に置かれます。すでに使用中の兵器であっても私の許可なく発砲することはできません】
「無理をするな。アキレス腱を撃った。貴様の片足はもう動くことはない。フフフ……まあこの星にアキレスなどいないだろうがな」
起き上がろうともがく俺を、アダムは嘲るように笑みを浮かべて見下ろす。
「さて、貴様は確かジョンと呼ばれていたな。地球でも実にありふれた名前だが、それが転じて名前の分からない者、例えば身元不明の死体なんかが発見された場合などには一時的にジョン・ドウと呼ぶことがある」
いきなりなにを言い出すのか、アダムが奇妙な話を始める。
「……それがどうした。お前の世界のことなんか興味ない――」
パァンッ!
銃の破裂音と共に、俺の右手の二の腕に穴が空いた。
「ぐあッ!!」
俺は持っていた高周波ブレードを手から落とし、アダムがそれを部屋の隅に蹴飛ばす。
武器を失い足も動かず、文字通り手も足も出なくなってしまった。
「クク、貴様もこれからそうなるという意味だよジョン・ドウ。SSSの力を借りていたとはいえ、未開の異星人ごときに追い詰められたという事実は私にとって非常に屈辱的なことでな。貴様にはこの星を代表して私の気が晴れるまで苦痛を受けてもらう」
「……けっ、地球の人間ってのはみんなお前みたいに悪趣味なのか?――うぐッ!」
せめて口だけでも動かそうと悪態をつく俺の腹にアダムの蹴りが入る。
「この期に及んで挑発的な態度は賢くないな。焦らずとも気が済めばすぐに殺してやる。死んだ方がマシなほど苦痛と絶望を与えた後になるだろうがね」
「このクソ野郎……があッ!」
撃たれた腕を踏みにじられ、苦悶の声をあげる。
アダムはとことん俺をいたぶるつもりのようだ。
「貴様を殺し外の連中も殲滅すれば、我が軍を止められるものはもはや存在しない。この星を隅々まで侵略し、すべてを我が物としてくれる」
「……お前は本物の魔王じゃないんだろう。なぜこんな真似をする? 世界の支配者にでもなりたいのか?」
「支配だと? この小惑星を支配したところで私にとって大した意味は無い。私の目的にはまだまだ先がある」
「先……だと?」
「いいだろう。原始人とはいえ私は貴様を優れた兵士であると評価もしている。スリサズとも関わりがあることだし、貴様には死ぬ前に知っておくぐらいの権利はあるだろう」
アダムは俺の腕を踏みつけたまま、語り始めた。
「私は地球では誰よりも優秀な軍人だった。スリサズの追放に協力したのも、その後の世界でさらなる権力を得られる確信があったからだ。圧政に耐えかねて暴発した負け犬共とは違う」
「できれば要点だけ教えてほしいんだがな……ぐっ」
俺は息も絶え絶えになりながら精一杯言葉を返すが、アダムは気に障ったのか踏みつけている足に力を込める。
「亜空間転送装置が暴走したあの日、私には脱出可能な時間が十分あった。だが何者かが実験施設に鍵をかけ、私は閉じ込められてしまったのだ。誰がやったのかは分かっている。スリサズ打倒のビジョンが現実的になってきた頃、AIの支配が無くなった地球では誰がどのように権力を握るのか? という争いがすでに始まっていたからな。私を邪魔に思う勢力はいくらでもいただろう」
つまり、アダムも事故でこの世界に飛ばされたわけではなく、スリサズと同じように追放されて来たということか。
「この場所に転送された時、私は死にかけていた。水や食料を探さねばならなかったが、外はファンタジーの化け物で溢れ、私は同じく転送されてきたこの軍事基地から一歩も出ることができなかった。しかし限界だった私は意を決して基地に隣接した古い塔に入ることにしたのだ」
「……それが魔王の塔か」
「装置が暴走していたせいもあったのだろう。軍事基地がまるごと転送された衝撃で、周囲は地形が変わるほど破壊されていた。塔もその余波を受け、今にも崩れそうになっていた。だから化け物がいたとしてもすでに逃げ出していると思ったのだ。予想した通り中には誰もおらず、私はなんの危険もなく塔を捜索することができたよ。食料は見つからなかったがな」
「それならどうやって生き延びた?」
「塔の最上階にさしかかった時、私は一匹の化け物の死体を見つけた。おそらく逃げ遅れたのだろう、瓦礫に押し潰され、尖った石が心臓の辺りを貫き、青い血を流していた。今思えばそいつはずいぶんと豪華な衣装を着ていたな」
「まさかそれが……」
「貴様らが呼んでいる魔王、ということだろうな。フフ、建物の倒壊で死ぬ魔王というのもマヌケな話だが、神話や物語で大げさに語られる者ほど得てしてその正体はくだらないものだ」
アダムは機嫌よく、饒舌にその時の様子を語る。
勝利の余裕からかひどく無防備に見えたが、身体の自由を奪われた今の俺にはなにもできない。
「さて、水と食料を探しに塔に入ったのになにも見つからない。目の前にはよく分からん化け物の死体が一つ。ジョン・ドウ、貴様ならどうする?」
「俺なら……?」
いきなり話を振られ、反射的に素直に考えてしまう。
水や食料のない場所、目の前に死体が一つ。
俺でなくとも、人間や動物ならとにかく生き延びようとするだろう。
……そう、たとえ死体を食らってでも。
「……お前、まさか!?」
「そう、死体を食ったのだよ。肉を食らい、体液を飲んだ。さすがに生ではなく、基地に持ち帰って焼いたり、血をろ過したりはしたがね。美味いとはとても言えなかったが、なんというか癖になる味ではあったぞ」
本物の魔王がすでにアダムに殺されているという可能性は考えていたが、まさか食われているとは……。
だからあの塔にもどこにも姿が見えなかったのか。
「死体の肉は私の空腹を満たすだけではなかった。外にうごめいていた化け物の群れが私に服従し始めたのだ。蜂やアリなどのようなフェロモンを発しているのか、それとも本当に魔法的な力が作用しているのかは分からんが、とにかく死体を食ったことで私にその能力が移ったのだと理解した」
「モンスターに銃を持たせて軍隊にしているのもそれが理由か……!」
「この軍事基地はスリサズに対抗するための兵器工場も兼ねている。放っておいてもあと10年は製造ラインが稼働し続け、銃火器を自動的に供給してくれるのだよ。問題はその武器を扱える兵士の数だけだったが、化け物共のおかげでそれは解消された。本当に偶然の連続だったが、私はこの遠い星で無限の兵力を手にすることができたのだ」
「だからこの世界を支配しようってのか……?」
「言ったはずだジョン・ドウ。それは私の最終目的ではない」
アダムは俺の腕から足を外すと、机の上の機械を操作し始める。
すると、白い壁になにやら映像が浮かび出した。
どこか別の部屋の様子らしいが、中央に天井まで届きそうなバカでかい機械が置いてある。
「これが亜空間転送装置だ。この星に転送されてきた時点で壊れてしまったのだが、テストと再調整を重ね再び使用できる段階まで修理が完了している」
「テストだと?」
俺は魔大陸に来るまでの町でマシンガンを持ったゴーレムと戦ったことを思い出した。
あの時、町の人間はゴーレムが瞬間移動するように突然現れたと言い、スリサズはそれを亜空間転送装置によるものだと言っていた。
「惑星内の短距離転送により、モンスターを各地にけしかけ、物資を略奪して帰還させる。フフフ、試験と実益を兼ねた効率的なプランだと思わんかね?」
「その装置で地球に帰ろうって腹か……モンスターの軍隊を手土産にして……」
「手土産になどするものか。この星は小規模とはいえ、地球に近い大気を持ち、資源もほぼ同じものが採れる。人口が飽和し、資源が枯渇した地球にとっては相当な価値があるだろう。だが私はみすみすその利権を手放しはしない。この星で得た軍事力と資源を用いて地球へ侵攻し、今の権力者たち、私を追放した奴らに思い知らせてやる! 真に地球の支配者になるべき者が誰かということを!」
復讐――その二文字が俺の頭をよぎった。
長々と演説しているが、要するにアダムの目的は追放した者たちへの復讐だ。
俺たちの世界はアダムの恨みを晴らすためだけの道具にされようとしている。
だが、それを知ったところで、負傷して体の自由が利かない今の俺になにができるだろうか。
「フフフ、さてジョン・ドウ。私がここまで長話をしたのにはもう一つ理由がある。これを見たまえ」
アダムは再び机の上の機械を操作すると、壁の映像がまた別の場所を映し出す。
それは建物の外、魔大陸のどこかを映しているようだった。
「我が軍の戦闘ヘリにはカメラが付いていてな。ここでモニターできるようになっているのだよ」
「あれは……リュート!?」
映像の場所は、先ほどまで俺がいた戦場だった。
しかし俺がいた時とは違い、討伐軍の兵士たちはモンスターの大軍勢に包囲されている。
基地に潜入する前に見た増援部隊だ。
兵士やドラゴンの死体はさらに増え、生き残っている者も、傷と疲労で今にも倒れそうになっていた。
リュートやエレトリア、他の仲間たちもかろうじて戦いを続けているが、俺から見ても全滅は時間の問題だった。
「ふーむ、やはりまだ死んではいないか。仲間の死体を見せてやりたかったのだが、そのためにはもう少し演説を続けるべきだったか。なあジョン・ドウ?」
青ざめる俺を見て、ニヤニヤと嘲笑しながらアダムは言う。
「や、やめろ……!」
「フハハハ! やっといい反応を見せたな。敵兵が絶望する表情を見るのは実に気分が良い。よし、もう満足だ。残ったもう片方の目と共にあの世へ行くがいい」
アダムは笑いながら銃口を俺の右目に合わせる。
「アダム! 貴様ぁ……!」
「フフフフフ、さらばだ。ジョン・ドウ」
目を見開いた俺のすぐ目の前で、奴の指がゆっくりと引き金を引く様が見えた。
カチッ――。
だが弾は発射されず、空撃ちの乾いた音が部屋に響いた。
「…………なに?」
カチッ――カチッ――。
何度も引き金を引くが、弾は出てこない。
「馬鹿な! 不発弾などあり得ない!」
アダムは持っていた銃を投げ捨て、さらに別の銃に持ち替え引き金を引く。
カチッ――。
しかし、同じように虚しく空撃ちの音が響くだけだった。
「ど、どういうことだ……?」
ここに来てから今までずっと余裕の態度をとり続けていたアダムが、初めて狼狽の表情を見せた。
「どうしたアダム。俺を殺すんじゃないのか?」
「ジョン・ドウ! 貴様がなにかしたのか!?」
「何もしやしないさ……俺はな」
ザザザザ――――。
俺がそう言うと、戦場を映していた壁の映像が乱れ始める。
しばらく砂嵐のような映像が続いたあと、また別の場所が映し出された。
「……リンゴ?」
映ったのは、皿の上に置かれた真っ赤なリンゴが一つ。
今までに出てきた映像とはあまりにも雰囲気が違っている。
だが俺にはこれがなにを意味するのか分かった。
……あの馬鹿、こっちは死にかけてるってのに何やってやがる。
【おや、カメラはこちらでしたか】
聞き慣れた声と共にリンゴがひとりでに回転すると、四本足で張り付いている鉄の虫が姿を現した。
「す、スリサズ――――!?」
【兵器製造ラインのハッキングが完了しました。今後、基地内にある全ての兵器のID登録情報は私の管理下に置かれます。すでに使用中の兵器であっても私の許可なく発砲することはできません】
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜
サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。
父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。
そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。
彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。
その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。
「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」
そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。
これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。
【完結】国外追放の王女様と辺境開拓。王女様は落ちぶれた国王様から国を買うそうです。異世界転移したらキモデブ!?激ヤセからハーレム生活!
花咲一樹
ファンタジー
【錬聖スキルで美少女達と辺境開拓国造り。地面を掘ったら凄い物が出てきたよ!国外追放された王女様は、落ちぶれた国王様゛から国を買うそうです】
《異世界転移.キモデブ.激ヤセ.モテモテハーレムからの辺境建国物語》
天野川冬馬は、階段から落ちて異世界の若者と魂の交換転移をしてしまった。冬馬が目覚めると、そこは異世界の学院。そしてキモデブの体になっていた。
キモデブことリオン(冬馬)は婚活の神様の天啓で三人の美少女が婚約者になった。
一方、キモデブの婚約者となった王女ルミアーナ。国王である兄から婚約破棄を言い渡されるが、それを断り国外追放となってしまう。
キモデブのリオン、国外追放王女のルミアーナ、義妹のシルフィ、無双少女のクスノハの四人に、神様から降ったクエストは辺境の森の開拓だった。
辺境の森でのんびりとスローライフと思いきや、ルミアーナには大きな野望があった。
辺境の森の小さな家から始まる秘密国家。
国王の悪政により借金まみれで、沈みかけている母国。
リオンとルミアーナは母国を救う事が出来るのか。
※激しいバトルは有りませんので、ご注意下さい
カクヨムにてフォローワー2500人越えの人気作
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます
黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる
静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】
【複数サイトでランキング入り】
追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語
主人公フライ。
仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。
フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。
外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。
しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。
そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。
「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」
最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。
仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。
そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。
そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。
一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。
イラスト 卯月凪沙様より
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる