記憶の園に埋めた花

古城乃鸚哥

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それは一番きらめく時に

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 直美に秘めた想いを伝えたのは、彼女が親友だからというのもあるが、それ以上に、同じ部活の彼女に何か助力してもらえないだろうかと淡い期待を賭けたところのほうが大きかった。だが、長瀬はどちらかというと人見知りをする性質で、恋に限らず人付き合いに積極的な方ではない。直美に協力を仰いで、下手に取り持たれても自分が上手く対応できる気はまったくしなかった。

「ま、仁美の気持ちはわかったよ。応援するよ!チャラいとか言ったけど、基本は快人はいいやつだと思うよ」
 キラーパス回すからちゃんと受け取ってよね、と楽しそうにウィンクする直美に、長瀬は慌てて首を振った。
「いや、いいよそういうの。もらっても、きっと上手く繋げないし……それに部活もクラスも違うのに、急にグイグイいったらあやしいよね」
「何言ってんの仁美、あれやこれやで自分のことを気にさせて、距離を縮めていくんだよ、それが恋愛じゃないのー!」
「でも、わざとらしいのはいやだよ」 

 話しているうちに当人よりも盛り上がって面白がる直美に、表向きではそう断った長瀬だが、内心ではわかっていた。直美の言う通り、どうにかして彼の視界に入らないと、自分は何の候補にも上ることができない。

「わかったわかった、さりげないカンジだったらいいんだね。でもさ、あんまりじっくり攻めて、誰かに先を越されても知らないよ?」
 直美は真顔で言った。痛いところをつかれた長瀬は苦笑する。
「そうだよね、でも……それは、仕方ないよ」
「ふうん。それで諦められるんだ」
「だって今はまだ、そんなに近づいてはいないから。むしろ、今ならまだ、諦めがつくかもしれないかな」
 自分で言いながら、長瀬は言葉に違和感を覚えた。
 近づいていないのは間違いない。でも、今ならまだ、諦めがつく?本当に、そうだろうか?
 心に何か引っかかる。
「ま、まだ彼女がいるって話聞かないし、むしろ今が攻めどきだとは思うけどねー」
 そんなふうに雄弁に語る直美は少し頼もしい。彼女はに知り合った時から付き合っている相手がいた。その後何度か相手が変わっているが、今でも直美は彼氏持ちだ。中学の時に付き合ったといえるのか定かではないぼんやりとした恋人を除けば、彼氏がいたことがないことになってしまう長瀬とは違って、経験豊富らしい。
「ね、せっかくだから、この夏、目標にしない?」
 また新しいイタズラを思いついた、とでもいうように、直美は身を乗り出して、ついにはストローで長瀬を指す始末。
「目標って?」
「今6月でしょ?夏まで2ヶ月あるよ!夏は花火でもお祭りでも、海でも、イベント目白押しじゃん。それさ、快人と行くの目標にしようよ」
 どんどんと前に行こうとする直美に、長瀬はなかなかついていけない。そもそも、挨拶程度以外ほとんど話したことのない相手と、海だの祭りだの、まったく想定していなかった。
 でも、想像はできちゃう……。
 行けたら素敵だな、というぼんやりとしたものが、行ってみたい、へと簡単に変わっていく。
「でも、そんなの……できるかな」
「ま、あたしたち2年だし、最悪来年もあるからね。2ヶ月でなんともならなかったら、グループでいけるように計画しよ!」
「すごいな、直美。直美と話してると、気持ちが前向きになってくるよ」
 長瀬が言うと、直美は満面の笑みで胸を叩いた。
「そうでしょ、任せておいてよ。それじゃ早速、作戦ねらなきゃね!」
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