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3.同僚の見解
店の引き戸をガラリと開けて外に出た途端、私の口からはふうっと大きなため息が出た。
少し遅れて、堀田が暖簾を手でかき分けながら出てきたが、私を見て怪訝な顔をする。
「さっきの人、いったい何?遠野は知り合いじゃないって言ってたけど、彼の方はそう思っていないような感じだったよね」
「さぁね。少なくとも私は、知り合いだとは思っていないんだけど」
私は苦々しく笑って否定した。
堀田は首を傾げる。
「でも遠野は、あの人の名前を知ってたんだね?なぜなのか気になるわ」
「それは……」
言いかけて、ここがまだ店先であることを思い出す。ぐずぐずしていては、また彼につかまってしまう。私は堀田を促す。
「とりあえず、ここから離れよう。歩きながら話すから」
「分かった」
歩き出して間もなく、私が口を開くのを待っていられないとでもいうように、堀田は興味津々な顔で問いかけてくる。
「それで?あの人はいったい何者?」
私は苦笑交じりに答える。
「ランチの時に隣り合って座ったことがある人」
「ん?もっとちゃんと説明してくれなきゃ分からない」
隣で堀田は首を捻っている。
私は言葉を足して改めて説明する。
「一か月くらい前だったと思うんだけど、その日お弁当を持って来ていなかったから、外でランチしようと思ってビル内にあるカフェに行ったのよ。『アンフィニ』っていうお店、堀田とも行ったことあるわ。混んでたから店の前で並んでいたんだけど、たまたまあの人が私の後ろに並んだの。二言三言くらいのちょっとした会話をした後、自分の順番が来たから店に入って、カウンター席を案内されたから、そこの席に着いたわけ。そしたらね、あの人も一人だったからカウンター席を案内されたんだろうけど、その並びには他にも空いている席があるっていうのに、わざわざ私の隣の席に座ったのよ。その後色々と話しかけて来たから、無視するのもなんだし、少し喋っただけ。とは言っても、喋っていたのはほとんどあの人で、私は適当に相槌を打って流していただけだけどね。だからそういう訳で、私たちは知り合いじゃないし、そもそも知り合いにすらなっていない人だよ。もしもさっき顔を合わせなかったら、あとはもう、あの人のことはこの先思い出すことはなかったかもしれないわね」
「へぇ、なるほどね。ようやく謎が解けたわ」
堀田は相槌を打ち、それからふふっと楽しそうに笑った。
「その何十分かの間に、彼の方は遠野のことを気に入ったってことかな」
「えっ?どうしてそうなるのよ」
眉をひそめる私に、堀田は語り出す。
「だって、遠野があの人の名前を口にした時、ものすごく嬉しそうな顔をしていたわよ?私の目には、遠野に好意ありありって感じに見えたわ。だけど、遠野ったら冷たかったでしょ?彼、ものすごくしゅんとした顔をしていたわ。見ていたこっちの方が申し訳ないって思うくらいにね。つまり、遠野のことに興味がなくて、どうでもいいと思っていたんなら、ああいう反応はしないんじゃないかな?」
「いやいや、それはないでしょ」
私は顔の前で勢いよく手を振りながら、堀田の考えを全否定した。
しかし彼女はその説を曲げるつもりはなさそうだ。
「そうかなぁ。少なくとも、遠野と仲良くなりたいっていう感じだったけどねぇ」
「そうは思えないわ。だって、もしも本当に堀田の言う通りなら、初対面の時とかに名前くらい訊くでしょ」
「訊かれなかったの?名前」
「全然」
「訊くタイミングがなかったとか?」
「あったと思うよ」
「なら、恥ずかしく訊けなかった、とか?」
「そういうタイプだったら、そもそも話しかけてこないんじゃない?」
「それもそうか。なんだか謎ね」
うぅんと唸って考え込もうとする彼女に、私は呆れ顔を見せる。
「っていうか、堀田がわざわざ謎めかして想像しているだけでしょ」
「いや、だってさ。遠野の浮いた話って聞いたことないから、それでつい。しかも彼、綺麗な顔立ちのイケメンだったし。あ、別に面白がってるわけじゃないのよ。だから怒らないで」
肩をすくめる堀田に私は苦笑する。
「別にこんなことで怒らないわよ」
堀田はほっとした顔をする。
「良かった!ね、ところでこの後どうする?もう一軒行く?少し行った所に、知り合いの店があるのよ」
「えぇ?でも、堀田、結構飲んでたよ?」
「大丈夫よ。さっきの分のアルコールなんて、もう醒めたもの」
「そんなわけないでしょ。そこのお店はまた今度連れてって」
その時、堀田のバッグの中で電話が鳴った。
彼女は急いでバッグの中に手を突っ込み、携帯を取り出す。画面を確かめるなり、片手で「ごめん」の仕草をして足を止めた。
「彼からだった。ちょっと出ていい?」
「もちろん。どうぞ」
堀田は電話に応えながら、歩道の端に寄って行った。
その背中を眺めながら、私もまた道端に移動する。彼女の声が聞こえない程度の距離を取り、その電話が終わるのを待った。
長くない通話を終えて、堀田が私の傍まで戻って来る。
「お待たせ。明日遊びに行く約束してたから、その確認の電話だったわ」
「そうなんだ。じゃあ、今日はもう解散でいいわね」
堀田は残念そうに肩を揺らす。
「しょうがないけど今日は諦めるか。じゃあ、私は電車だから、ここでさよならするね」
「うん。気をつけて」
「ありがとう。遠野は歩いて帰るの?」
「うぅん、どうしようか考え中。歩いて帰れなくはない距離だから、微妙なのよね」
「そっか。まぁ、気をつけて。じゃ、また月曜日。精算も週明けってことでよろしく。金額は後でメッセージ入れておいてくれる?」
「分かった」
「それじゃあ、お疲れ様。おやすみなさい」
「うん、お疲れ様」
私たちは互いに笑顔で手を振り合い、それぞれ帰路についた。
少し遅れて、堀田が暖簾を手でかき分けながら出てきたが、私を見て怪訝な顔をする。
「さっきの人、いったい何?遠野は知り合いじゃないって言ってたけど、彼の方はそう思っていないような感じだったよね」
「さぁね。少なくとも私は、知り合いだとは思っていないんだけど」
私は苦々しく笑って否定した。
堀田は首を傾げる。
「でも遠野は、あの人の名前を知ってたんだね?なぜなのか気になるわ」
「それは……」
言いかけて、ここがまだ店先であることを思い出す。ぐずぐずしていては、また彼につかまってしまう。私は堀田を促す。
「とりあえず、ここから離れよう。歩きながら話すから」
「分かった」
歩き出して間もなく、私が口を開くのを待っていられないとでもいうように、堀田は興味津々な顔で問いかけてくる。
「それで?あの人はいったい何者?」
私は苦笑交じりに答える。
「ランチの時に隣り合って座ったことがある人」
「ん?もっとちゃんと説明してくれなきゃ分からない」
隣で堀田は首を捻っている。
私は言葉を足して改めて説明する。
「一か月くらい前だったと思うんだけど、その日お弁当を持って来ていなかったから、外でランチしようと思ってビル内にあるカフェに行ったのよ。『アンフィニ』っていうお店、堀田とも行ったことあるわ。混んでたから店の前で並んでいたんだけど、たまたまあの人が私の後ろに並んだの。二言三言くらいのちょっとした会話をした後、自分の順番が来たから店に入って、カウンター席を案内されたから、そこの席に着いたわけ。そしたらね、あの人も一人だったからカウンター席を案内されたんだろうけど、その並びには他にも空いている席があるっていうのに、わざわざ私の隣の席に座ったのよ。その後色々と話しかけて来たから、無視するのもなんだし、少し喋っただけ。とは言っても、喋っていたのはほとんどあの人で、私は適当に相槌を打って流していただけだけどね。だからそういう訳で、私たちは知り合いじゃないし、そもそも知り合いにすらなっていない人だよ。もしもさっき顔を合わせなかったら、あとはもう、あの人のことはこの先思い出すことはなかったかもしれないわね」
「へぇ、なるほどね。ようやく謎が解けたわ」
堀田は相槌を打ち、それからふふっと楽しそうに笑った。
「その何十分かの間に、彼の方は遠野のことを気に入ったってことかな」
「えっ?どうしてそうなるのよ」
眉をひそめる私に、堀田は語り出す。
「だって、遠野があの人の名前を口にした時、ものすごく嬉しそうな顔をしていたわよ?私の目には、遠野に好意ありありって感じに見えたわ。だけど、遠野ったら冷たかったでしょ?彼、ものすごくしゅんとした顔をしていたわ。見ていたこっちの方が申し訳ないって思うくらいにね。つまり、遠野のことに興味がなくて、どうでもいいと思っていたんなら、ああいう反応はしないんじゃないかな?」
「いやいや、それはないでしょ」
私は顔の前で勢いよく手を振りながら、堀田の考えを全否定した。
しかし彼女はその説を曲げるつもりはなさそうだ。
「そうかなぁ。少なくとも、遠野と仲良くなりたいっていう感じだったけどねぇ」
「そうは思えないわ。だって、もしも本当に堀田の言う通りなら、初対面の時とかに名前くらい訊くでしょ」
「訊かれなかったの?名前」
「全然」
「訊くタイミングがなかったとか?」
「あったと思うよ」
「なら、恥ずかしく訊けなかった、とか?」
「そういうタイプだったら、そもそも話しかけてこないんじゃない?」
「それもそうか。なんだか謎ね」
うぅんと唸って考え込もうとする彼女に、私は呆れ顔を見せる。
「っていうか、堀田がわざわざ謎めかして想像しているだけでしょ」
「いや、だってさ。遠野の浮いた話って聞いたことないから、それでつい。しかも彼、綺麗な顔立ちのイケメンだったし。あ、別に面白がってるわけじゃないのよ。だから怒らないで」
肩をすくめる堀田に私は苦笑する。
「別にこんなことで怒らないわよ」
堀田はほっとした顔をする。
「良かった!ね、ところでこの後どうする?もう一軒行く?少し行った所に、知り合いの店があるのよ」
「えぇ?でも、堀田、結構飲んでたよ?」
「大丈夫よ。さっきの分のアルコールなんて、もう醒めたもの」
「そんなわけないでしょ。そこのお店はまた今度連れてって」
その時、堀田のバッグの中で電話が鳴った。
彼女は急いでバッグの中に手を突っ込み、携帯を取り出す。画面を確かめるなり、片手で「ごめん」の仕草をして足を止めた。
「彼からだった。ちょっと出ていい?」
「もちろん。どうぞ」
堀田は電話に応えながら、歩道の端に寄って行った。
その背中を眺めながら、私もまた道端に移動する。彼女の声が聞こえない程度の距離を取り、その電話が終わるのを待った。
長くない通話を終えて、堀田が私の傍まで戻って来る。
「お待たせ。明日遊びに行く約束してたから、その確認の電話だったわ」
「そうなんだ。じゃあ、今日はもう解散でいいわね」
堀田は残念そうに肩を揺らす。
「しょうがないけど今日は諦めるか。じゃあ、私は電車だから、ここでさよならするね」
「うん。気をつけて」
「ありがとう。遠野は歩いて帰るの?」
「うぅん、どうしようか考え中。歩いて帰れなくはない距離だから、微妙なのよね」
「そっか。まぁ、気をつけて。じゃ、また月曜日。精算も週明けってことでよろしく。金額は後でメッセージ入れておいてくれる?」
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