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14.友人からの誘い
私の名前を呼ぶ声が聞こえたのは、塚本を促して歩き始めてから間もなくだった。
「美祈?」
足を止めた私は声がした方に目を向けた。私たちの進行方向に交差点がある。その辺りに、大学時代からの友人、白木映美のすらりとした姿を見つけた。
彼女は私に向かってぶんぶんと手を振っている。
私は彼女の方に小走りで駆け寄った。
「久しぶり!すごい偶然だね!この辺りで飲んでたの?それともこれからどこかに行く途中?」
「彼氏と二軒目に行く途中」
映美はふふっと嬉しそうに笑い、自分のやや後ろに目を向けた。
少し離れた所に映美の彼氏、戸川がいた。二人は同じ大学に在学していた時からの恋人同士だったから、私も彼とは面識があった。互いに軽く会釈し合う。
「それで美祈は?飲み会の帰りかなんかなの?それにしては、今日の美祈、いつにも増してすごい可愛いんだけど。あ、もしかしてデート?ついに美祈に彼氏ができたってこと?」
「知り合いと食事に行った帰りよ。そういう店だったから、今日はちょっと綺麗めにしてみたってだけで、デートじゃないし、ついでに言うと未だにフリーです」
「なんだぁ。まだ春は来ていないのか。で、知り合いっていうのは、あの人のこと?」
映美は私の後方に視線を向けた。その目があっという間に輝きを帯びる。
塚本は私たちがいる場所からやや離れた場所に立っていたが、女二人の視線に気づき、おずおずと頭を下げた。
「知り合いってどういう知り合いなの?」
映美はちらちらと塚本に視線を飛ばしながら私に訊ねた。
「中学時代のクラスメイトよ」
「へぇぇ、クラスメイトねぇ……」
映美は含みを感じる言い方をした。
そこににじんだ意味を察して、私は急いで付け加える。
「念のためもう一度言うけど、ただの『クラスメイト』だから」
「私、別に何も言ってないけど?それにしても、ずいぶんと素敵な友達じゃない?詳細は今度じっくりと聞かせてもらうことにして」
映美は口調を改めてにやりと笑う。
「今度合コンするからよろしくね」
「は?」
「彼氏の友達が、セッティングしてくれってうるさいらしいのよ。だからお願い、協力して?」
映美は顔の前で両手を合わせた。
私は苦笑する。
「私、合コンとか経験ないよ。だから、行っても場を白けさせるだけだと思うの。だから私は」
その先は言わせないとばかりに、映美は私の言葉を遮る。
「大丈夫!美祈は来てくれるだけでいいから。聡子と瑞枝も呼んでるから、同窓会気分で来てもらって構わない。だからお願い!」
「うぅん……。数合わせ要員としてってことなら、行ってもいいけど……」
映美の顔にほっとした笑みが広がる。
「全然それでいいよ!ありがとう!」
「おい、映美、そろそろ行かないと」
彼の声に映美ははっとして振り返った。
「ごめんなさい、今行く!」
再び私に向き直り、彼女は慌ただしく言う。
「じゃ、そういうことで。詳細は後日連絡入れるね!」
「う、うん、分かった」
映美は私にもう一度笑顔を見せると、いそいそと彼の傍へと戻って行った。
その背中を見送りながら、私はやれやれとため息をついた。まさか合コンへの参加を約束することになるとは思っていなかった。しかし今まで行ったことのない合コンがどんな場なのか、一度くらいは体験してみるのも悪くはないかもしれないと、ひとまずは前向きに考えることにした。それから、すっかり待たせてしまっていた塚本の傍に行き、私は苦笑を浮かべながら彼に詫びた。
「ごめんね。待たせてしまって」
「全然大丈夫だよ。ところで今の話、ちらっと聞こえてしまったんだけど、遠野さん、今度合コンに行くの?」
「えぇ。なんだか行くことになっちゃった」
「ふぅん、行くんだ」
どこか拗ねたような塚本の様子が気になって、する必要のない弁解がなぜか口をついて出る。
「気楽にっていうし、他にも友達を誘っていて同窓会みたいな感じだっていうし。それに結局私は数合わせ要員みたいだから、色んな意味で大丈夫かなって思って」
「でも合コンだよね」
私の言葉尻にかぶせ、さらに念を押すように言って、塚本は唇を歪ませる。
「失恋には新しい恋を、ってわけか」
棘を感じる言い方に私はむっとする。
「何、それ。私はまだ新しい恋なんて考えられないし、合コンに行ったからってそういう出会いがあるとは限らないでしょ。さっきも言った通り、私は数合わせ要員なんだから」
「そうかもしれないけどさ……」
塚本の表情が苦々しく歪む。
私は眉をひそめながら、塚本の顔をのぞき込んだ。私の視線を避けて顔を背けようとする彼の前に回り込む。
「ねぇ、いったいどうしたの?さっきからなんだか変よ」
「別に何でもないよ。今になって酔いが回ってきただけ」
「えっ、大丈夫?タクシー拾おうか?」
私は首を伸ばしてさらに彼の様子を確かめようとした。
「いや、いい。その必要はないよ」
彼はふっとため息をつき、諦めたように口元に笑みを佩いた。それから気持ちを切り替えるかのように、明るい声で私を促す。
「よし、帰ろうか」
「え、えぇ」
私は塚本に頷いて彼の隣に並び、彼の横顔をそっと見上げながら歩く。いったい何を考えてのことなのか、先ほどの笑みは消えて、その口元は不満そうに、心配そうに、きゅっと引き結ばれていた。
「美祈?」
足を止めた私は声がした方に目を向けた。私たちの進行方向に交差点がある。その辺りに、大学時代からの友人、白木映美のすらりとした姿を見つけた。
彼女は私に向かってぶんぶんと手を振っている。
私は彼女の方に小走りで駆け寄った。
「久しぶり!すごい偶然だね!この辺りで飲んでたの?それともこれからどこかに行く途中?」
「彼氏と二軒目に行く途中」
映美はふふっと嬉しそうに笑い、自分のやや後ろに目を向けた。
少し離れた所に映美の彼氏、戸川がいた。二人は同じ大学に在学していた時からの恋人同士だったから、私も彼とは面識があった。互いに軽く会釈し合う。
「それで美祈は?飲み会の帰りかなんかなの?それにしては、今日の美祈、いつにも増してすごい可愛いんだけど。あ、もしかしてデート?ついに美祈に彼氏ができたってこと?」
「知り合いと食事に行った帰りよ。そういう店だったから、今日はちょっと綺麗めにしてみたってだけで、デートじゃないし、ついでに言うと未だにフリーです」
「なんだぁ。まだ春は来ていないのか。で、知り合いっていうのは、あの人のこと?」
映美は私の後方に視線を向けた。その目があっという間に輝きを帯びる。
塚本は私たちがいる場所からやや離れた場所に立っていたが、女二人の視線に気づき、おずおずと頭を下げた。
「知り合いってどういう知り合いなの?」
映美はちらちらと塚本に視線を飛ばしながら私に訊ねた。
「中学時代のクラスメイトよ」
「へぇぇ、クラスメイトねぇ……」
映美は含みを感じる言い方をした。
そこににじんだ意味を察して、私は急いで付け加える。
「念のためもう一度言うけど、ただの『クラスメイト』だから」
「私、別に何も言ってないけど?それにしても、ずいぶんと素敵な友達じゃない?詳細は今度じっくりと聞かせてもらうことにして」
映美は口調を改めてにやりと笑う。
「今度合コンするからよろしくね」
「は?」
「彼氏の友達が、セッティングしてくれってうるさいらしいのよ。だからお願い、協力して?」
映美は顔の前で両手を合わせた。
私は苦笑する。
「私、合コンとか経験ないよ。だから、行っても場を白けさせるだけだと思うの。だから私は」
その先は言わせないとばかりに、映美は私の言葉を遮る。
「大丈夫!美祈は来てくれるだけでいいから。聡子と瑞枝も呼んでるから、同窓会気分で来てもらって構わない。だからお願い!」
「うぅん……。数合わせ要員としてってことなら、行ってもいいけど……」
映美の顔にほっとした笑みが広がる。
「全然それでいいよ!ありがとう!」
「おい、映美、そろそろ行かないと」
彼の声に映美ははっとして振り返った。
「ごめんなさい、今行く!」
再び私に向き直り、彼女は慌ただしく言う。
「じゃ、そういうことで。詳細は後日連絡入れるね!」
「う、うん、分かった」
映美は私にもう一度笑顔を見せると、いそいそと彼の傍へと戻って行った。
その背中を見送りながら、私はやれやれとため息をついた。まさか合コンへの参加を約束することになるとは思っていなかった。しかし今まで行ったことのない合コンがどんな場なのか、一度くらいは体験してみるのも悪くはないかもしれないと、ひとまずは前向きに考えることにした。それから、すっかり待たせてしまっていた塚本の傍に行き、私は苦笑を浮かべながら彼に詫びた。
「ごめんね。待たせてしまって」
「全然大丈夫だよ。ところで今の話、ちらっと聞こえてしまったんだけど、遠野さん、今度合コンに行くの?」
「えぇ。なんだか行くことになっちゃった」
「ふぅん、行くんだ」
どこか拗ねたような塚本の様子が気になって、する必要のない弁解がなぜか口をついて出る。
「気楽にっていうし、他にも友達を誘っていて同窓会みたいな感じだっていうし。それに結局私は数合わせ要員みたいだから、色んな意味で大丈夫かなって思って」
「でも合コンだよね」
私の言葉尻にかぶせ、さらに念を押すように言って、塚本は唇を歪ませる。
「失恋には新しい恋を、ってわけか」
棘を感じる言い方に私はむっとする。
「何、それ。私はまだ新しい恋なんて考えられないし、合コンに行ったからってそういう出会いがあるとは限らないでしょ。さっきも言った通り、私は数合わせ要員なんだから」
「そうかもしれないけどさ……」
塚本の表情が苦々しく歪む。
私は眉をひそめながら、塚本の顔をのぞき込んだ。私の視線を避けて顔を背けようとする彼の前に回り込む。
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「えっ、大丈夫?タクシー拾おうか?」
私は首を伸ばしてさらに彼の様子を確かめようとした。
「いや、いい。その必要はないよ」
彼はふっとため息をつき、諦めたように口元に笑みを佩いた。それから気持ちを切り替えるかのように、明るい声で私を促す。
「よし、帰ろうか」
「え、えぇ」
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