Wavering Heart ~ 元同級生は別人級に甘すぎる ~

芙月みひろ

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27.違います

 私たちのマンションがある街までは、片道でおよそ二時間ほどかかる。地元を出発してから小一時間の間、塚本の様子が気になって、私は落ち着かなかった。
 他愛のない会話を交わす中、時折彼は何か言いたそうに唇を動かすものの、結局何も言わないで終わるということを、すでに何度か繰り返していた。
 いったいどんな言葉を飲み込んでいるのか、いっそのこと訊ねてみようかと思ったが、それが藪蛇になってしまうのも困る。

「そろそろ昼だけど、遠野さんは何が食べたい?」

 塚本に声をかけられてはっとしたが、すぐに笑顔を作って答える。

「私はなんでもいいよ。昨日言った通り、今日のお昼は私がご馳走するから、塚本さんの行きたい所に行きましょ」
「本当にご馳走になっていいの?」
「もちろん。わざわざ家まで送ってもらうんだもの、それくらいは当然よ」
「お礼なんて、いらないんだけどね」

 塚本は笑い、それなら、と続ける。どうやら当てがあるようだ。

「この先に道の駅があるよね。そこのレストランで、いちばん高いものでもご馳走になろうかな」
「なんでもどうぞ」

 そこには私も過去に何度か立ち寄ったことがある。その施設に食事ができる店がいくつか入っているはずだが、その中で一番高いものと言えば、やはり肉関係だろうか。
 
「そう言えば、何か月か前に、そこの道の駅、リニューアルしたらしいよ。内装とか商品の内容とかを変えたらしい」
「へぇ、そうなんだ。私が知ってる時とは、色々と変わったりしてるのかしら」
「新しくできた店もあるらしい」
「へぇ、そうなんだ」

 そんな会話を交わしている間に、目的の道の駅に到着した。連休の中日ということもあって駐車場は混んでいたが、ちょうどいいタイミングで出た車があって、そこにすんなりと車を停めることができた。
 車を降りた私たちは、早速食事のために施設に向かう。選んだ店は和風レストランだ。シンプルだけれど広々とした店内に入り、店員に案内された席に座った。塚本はステーキ重を、私は天ざるそばを注文する。美味しいねと笑い合いながら食事をし、会計を済ませた後は、二人で土産物コーナーに足を向けた。
 塚本と一緒に店内を見て回っている途中で、ワインの試飲コーナーを見つけた。興味を引かれたが、自分だけ飲むのは運転してくれる塚本に悪い。今回は見送ろうと、そそくさとその前を通り過ぎた。

「お土産、何買うか決めた?」

 隣にいるものと思って話しかけたそこに、塚本はいなかった。
 どこにいるのかと辺りを見回し、試飲コーナー前にいるのを見つけた。
 彼はそこで店員の男性と話をしている。
 私は彼の傍に戻り、そっと声をかけた。

「塚本さん」
「あ、ごめん。ワインが気になって、立ち止まってしまった」
「それは全然構わないけど。買うの?」
「うん。うまそうだなと思ってさ。試飲はできないから、店員さんに今色々と話を聞いていたところなんだ」

 私と塚本の会話を聞いていた店員が、私の目の前に小さな紙コップをひょいと差し出した。

「彼女さん、お試しになりませんか?」
「えっ、彼女じゃ……」
「そうだね。飲んで感想をきかせてよ」

 故意なのかどうか分からないが、塚本は訂正しようとした私の言葉尻にかぶせるようにして言った。
 私は戸惑い、そして躊躇する。

「私だけ飲むのは悪いわ……」
「俺が飲めない代わりに、ぜひ味見をお願いしたいな。君が飲んで美味しいと思ったのを買うよ」
 
 彼はにっこりと笑った。
 私たちの様子を見守っていた店員が、にこにこと営業スマイルを浮かべながら口を挟む。

「彼氏さんの代わりにということで、どうぞ。まず、白はいかがですか?」

 店員は私が紙コップを受け取るのを待っている。
 期待を込めた目で見つめられて、いりませんとは言えなくなった。私は愛想笑いを顔に貼り付けて、紙コップを受け取る。

「じゃあ、いただきます。塚本さん、すみません」
「いいえ」

 あえて彼を名字で呼んだのは、私たちがカップルではないことをアピールしたかったからだ。
 塚本はすぐに私の意図に気づいたらしく、苦笑を浮かべた。
 一杯目を飲み終えた後、結局私は他の二種類も勧められるがままに試飲してしまった。
 
「いかがですか?」

 店員に訊ねられた私は、少し考えてから答える。

「どれも美味しくて、これって決めるのが難しいですけど、私の好みはその白かな。ちょっと辛口で、すっきりしていて飲みやすく感じました」
「なるほど。じゃあ、それを二本下さい」

 早速財布の紐を緩めた塚本に、店員は満面の笑みを浮かべる。

「ありがとうございます!」

 ボトルを包み始めたスタッフを横目で眺めながら、私は伸びあがって塚本に耳打ちした。

「二本も買うの?ほんとにあれで良かった?」
「だって美味しかったんでしょ?」
「そうだけど、私の好みよ、あれ」
「うん。だから俺も飲んでみたいと思ったよ」
「それならいいけど。なんならもう一本は別のにしてみたらいいのに」
「いや、同じのでいいんだ」
「ふぅん……?」

 私にとっては好みのワインだとしても、塚本の口には合わないかもしれない。その場合二本目は手つかずになるかもしれないのに、などと思い、いやいや余計な心配だと思い直す。

「お待たせいたしました」

 店員からワインの入った袋を受け取って、塚本は私を促して外に出た。隣を歩きながら私に訊ねる。

「この後、どこか寄りたい所ある?」
「いえ、特にはないかな」
「了解。じゃあ、真っすぐ帰るとするか」

 私の即答を残念がるような響きをにじませて言い、塚本は車に向かった。
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