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28.告白
道の駅を出発しておよそ一時間後。
私のマンションに到着し、塚本はエントランスの手前で車を停めた。
「今日は付き合ってくれてありがとう」
「お礼を言うのは私の方だわ。送ってくれてありがとうございました。そうだ、荷物を降ろさなきゃね」
シートベルトを外して、外に出ようとする私を塚本が引き留める。
「ちょっと待って」
彼は自分も急いでシートベルトを外す。体を捻って後部座席に手を伸ばし、そこに置いてあった紙袋を取った。
紙袋の中にはワインが二本入っている。途中の道の駅で買ったものだ。
彼はその中から一本を抜き取って後部座席に戻した後、残りの一本が入った紙袋を私の前に差し出した。
「これは、遠野さんに」
「私に?」
「これ、美味しいって言ってたでしょ?実は、一本は君に渡そうと思って、それで二本買ったんだ。だからこれは、遠野さんの分ね」
「そんな……。受け取れないわ。だって、これをもらっちゃったら、お礼のはずのランチがお礼じゃなくなってしまうじゃない。塚本さんが飲んで?」
「二本は多いから」
「じゃあ、誰かにあげたら?」
「これをあげたい人が遠野さんなんだよ」
「えぇと……?」
「もっと言うと、本当はできることなら、これを遠野さんと二人で一緒に飲みたい」
その言葉をどう捉えたらいいのか悩んだ。
自分に向けられた彼の眼差しは艶っぽく、その視線も表情も、単なる仲のいい異性の友人に向けるようなものではない。彼と出会ってから、彼に対してどきりとする場面は幾度かあったけれど、今ほど彼に異性としての色気のようなものを感じたことはなかった。
彼を直視できなくなって、私は急いで視線を逸らした。この動揺を悟られたくなくて、顔を伏せてドアに手を伸ばす。
「か、帰るわね」
その時、スマホの振動音がした。マナーモードにしていたからその音が長く続くことはなかったが、切れたと思ったらまたすぐに、バッグの中で着信を知らせるブザー音が鳴った。
その執拗さに呆れながら、私はバッグの口を開いてちらりと中をのぞいた。光るスマホの画面を見て、やっぱり、とつぶやきをもらす。
塚本がため息をつき、苦笑する。
「出たら?」
「ありがとう。でも後でかけ直せばいいから大丈夫」
私はバッグの口を閉めながら、再びドアに手をかける。
「じゃあ私はこれで」
「待って。もう少し聞きたいことがある」
塚本が私を止めた。
私は身構え、ドアの方に体を向けたまま首だけを回し、彼に訊き返す。
「……何?」
「さっきの電話は、例の親戚の人から?」
私に問いかける彼の口調は、思いの外明るく軽やかだった。
そのことに安心して私は緊張を解き、彼に向き直る。
「えぇ、そうよ。伯母なの。夜にかけ直すって、兄から伝えてもらったはずなんだけどね。せっかちな人だから待てなかったみたい」
「その電話は見合いの件なの?」
「たぶん、そうだと思う」
塚本は私の顔を眺めて続ける。
「長年片思いをしていた人に失恋した後に、確か合コンに行ったよね。単なる飲み会で終わったとか、自分には合コンは向かないとか言っていたけど。それで今度はお見合いなんだ?来年には三十才になるって思ったら、結婚願望が高まっちゃった感じ?」
「そんなんじゃないわ」
答えながら彼の顔を見返し、はっとした。彼の目が笑っていないことに気づいた途端、なぜか少し気まずい気持ちになる。私は彼から視線を外し、小さな声で言い訳めいた言葉を口にする。
「合コンもお見合いも一度くらいは経験してみた方がいいかな、って思っただけで……」
言葉尻をすぼめる私に、塚本は低いけれどひどく通る声で言う。
「見合いなんてやめなよ」
それに対して、私の中に反発心のようなものが芽生えた。私が何をしようと、あれこれ言う権利は彼にはないはずだ。私はむっとした顔を彼に向ける。
「部外者の塚本さんが口出しすることじゃないでしょ」
私の言葉に彼は即座に反応し、眉間にしわを寄せた。
「部外者?当事者だよ」
彼は真剣な声で言い切った。瞳には熱を帯びた光が揺れている。
その視線に捉えられた私は、動けなくなってしまった。
そんな私に向かって彼は静かに、それでいてはっきりと告げる。
「俺は遠野さんが好きだ。だから、見合いには行かないでほしい。本当なら、合コンだって行ってほしくなかった」
「っ……」
彼の突然の告白に私は息を飲んだ。
いや、予感がまったくなかったわけではない。
いつからとはっきり言えないが、私はこれまで塚本の言葉やその瞳に何度も心を動かされてきた。従妹の結婚式の二次会でも、地元から今住んでいる街への今日の道中でも、彼の何か言いたげな様子に気づいてもいた。
ただ、それらはいつもどことなく曖昧で、決定的なものではなかったから、彼の言動をあまり意識しすぎないようにと自分を制していた。
けれど、その予感は現実となった。
塚本を前にして、私の心臓はどきどきと大きく鳴り響いている。
彼のことは嫌いではない。むしろ今の私にとって、彼はとても気になる存在だ。彼の瞳が私を見つめる時、彼の声が耳に届く時、その度にときめきと言えるような感情の揺れを感じていたのは間違いない。
でも、彼の告白に素直に頷けない。
この前の失恋で空いた心の穴を、たまたま近くにいた塚本に気持ちを向けて埋めようとしているだけなのではないかと、自分に疑いを持っていたからだ。
私のマンションに到着し、塚本はエントランスの手前で車を停めた。
「今日は付き合ってくれてありがとう」
「お礼を言うのは私の方だわ。送ってくれてありがとうございました。そうだ、荷物を降ろさなきゃね」
シートベルトを外して、外に出ようとする私を塚本が引き留める。
「ちょっと待って」
彼は自分も急いでシートベルトを外す。体を捻って後部座席に手を伸ばし、そこに置いてあった紙袋を取った。
紙袋の中にはワインが二本入っている。途中の道の駅で買ったものだ。
彼はその中から一本を抜き取って後部座席に戻した後、残りの一本が入った紙袋を私の前に差し出した。
「これは、遠野さんに」
「私に?」
「これ、美味しいって言ってたでしょ?実は、一本は君に渡そうと思って、それで二本買ったんだ。だからこれは、遠野さんの分ね」
「そんな……。受け取れないわ。だって、これをもらっちゃったら、お礼のはずのランチがお礼じゃなくなってしまうじゃない。塚本さんが飲んで?」
「二本は多いから」
「じゃあ、誰かにあげたら?」
「これをあげたい人が遠野さんなんだよ」
「えぇと……?」
「もっと言うと、本当はできることなら、これを遠野さんと二人で一緒に飲みたい」
その言葉をどう捉えたらいいのか悩んだ。
自分に向けられた彼の眼差しは艶っぽく、その視線も表情も、単なる仲のいい異性の友人に向けるようなものではない。彼と出会ってから、彼に対してどきりとする場面は幾度かあったけれど、今ほど彼に異性としての色気のようなものを感じたことはなかった。
彼を直視できなくなって、私は急いで視線を逸らした。この動揺を悟られたくなくて、顔を伏せてドアに手を伸ばす。
「か、帰るわね」
その時、スマホの振動音がした。マナーモードにしていたからその音が長く続くことはなかったが、切れたと思ったらまたすぐに、バッグの中で着信を知らせるブザー音が鳴った。
その執拗さに呆れながら、私はバッグの口を開いてちらりと中をのぞいた。光るスマホの画面を見て、やっぱり、とつぶやきをもらす。
塚本がため息をつき、苦笑する。
「出たら?」
「ありがとう。でも後でかけ直せばいいから大丈夫」
私はバッグの口を閉めながら、再びドアに手をかける。
「じゃあ私はこれで」
「待って。もう少し聞きたいことがある」
塚本が私を止めた。
私は身構え、ドアの方に体を向けたまま首だけを回し、彼に訊き返す。
「……何?」
「さっきの電話は、例の親戚の人から?」
私に問いかける彼の口調は、思いの外明るく軽やかだった。
そのことに安心して私は緊張を解き、彼に向き直る。
「えぇ、そうよ。伯母なの。夜にかけ直すって、兄から伝えてもらったはずなんだけどね。せっかちな人だから待てなかったみたい」
「その電話は見合いの件なの?」
「たぶん、そうだと思う」
塚本は私の顔を眺めて続ける。
「長年片思いをしていた人に失恋した後に、確か合コンに行ったよね。単なる飲み会で終わったとか、自分には合コンは向かないとか言っていたけど。それで今度はお見合いなんだ?来年には三十才になるって思ったら、結婚願望が高まっちゃった感じ?」
「そんなんじゃないわ」
答えながら彼の顔を見返し、はっとした。彼の目が笑っていないことに気づいた途端、なぜか少し気まずい気持ちになる。私は彼から視線を外し、小さな声で言い訳めいた言葉を口にする。
「合コンもお見合いも一度くらいは経験してみた方がいいかな、って思っただけで……」
言葉尻をすぼめる私に、塚本は低いけれどひどく通る声で言う。
「見合いなんてやめなよ」
それに対して、私の中に反発心のようなものが芽生えた。私が何をしようと、あれこれ言う権利は彼にはないはずだ。私はむっとした顔を彼に向ける。
「部外者の塚本さんが口出しすることじゃないでしょ」
私の言葉に彼は即座に反応し、眉間にしわを寄せた。
「部外者?当事者だよ」
彼は真剣な声で言い切った。瞳には熱を帯びた光が揺れている。
その視線に捉えられた私は、動けなくなってしまった。
そんな私に向かって彼は静かに、それでいてはっきりと告げる。
「俺は遠野さんが好きだ。だから、見合いには行かないでほしい。本当なら、合コンだって行ってほしくなかった」
「っ……」
彼の突然の告白に私は息を飲んだ。
いや、予感がまったくなかったわけではない。
いつからとはっきり言えないが、私はこれまで塚本の言葉やその瞳に何度も心を動かされてきた。従妹の結婚式の二次会でも、地元から今住んでいる街への今日の道中でも、彼の何か言いたげな様子に気づいてもいた。
ただ、それらはいつもどことなく曖昧で、決定的なものではなかったから、彼の言動をあまり意識しすぎないようにと自分を制していた。
けれど、その予感は現実となった。
塚本を前にして、私の心臓はどきどきと大きく鳴り響いている。
彼のことは嫌いではない。むしろ今の私にとって、彼はとても気になる存在だ。彼の瞳が私を見つめる時、彼の声が耳に届く時、その度にときめきと言えるような感情の揺れを感じていたのは間違いない。
でも、彼の告白に素直に頷けない。
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