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44.初訪問
日曜日の朝がやって来た。ベッドの中で目を開けた瞬間から、私は落ち着かなかった。
今日は塚本の部屋を訪ねる日なのだ。身内以外の男性の部屋に行くのは、生まれて初めてのことだから緊張する。
塚本からは、昼までに来てくれればいいと言われていたが、予定していた時間よりも一時間ほど早く部屋を出た。彼のマンションに向かう途中にスーパーがある。そこに立ち寄って、何かちょっとしたもの、例えば飲み物やフルーツなどを買って行こうと考えたのだ。手ぶらで来てと言われてはいたが、だからと言って、本当に何も持って行かないというのは気が引けた。
買い物かごを腕にかけて店内に足を踏み入れ、何を買おうか考えた。彼の好みをほとんど知らないことに気がついたが、ひとまず無糖の紅茶やお茶など数本のペットボトルをかごに入れた。さらに店内をうろうろと見て回り、フルーツコーナーで足を止める。食後のデザートにいいかもしれないと思いつき、自分一人のためにはまず買おうとは思わない、皮ごと食べられる大粒のぶどうを買うことにした。
かごの中身が少なくて物足りないような気もするが、今日の所はこれだけにしておこうとレジに向かった。彼は一人暮らしだ。あれこれ買って行くのは、かえって迷惑になるかもしれない。
買った物を入れたマイバッグを手にぶら下げて、私は塚本の住むマンションに向かった。エントランスに入った後は、事前に教えてもらっていた部屋を目指してエレベーターに乗る。
彼の部屋に着いた私は、まず気持ちを落ち着かせるために深呼吸をした。それからそろそろと指を伸ばして、ドアチャイムを鳴らした。
しばらく待った後、ガチャリと音がしてドアが開き、笑顔の塚本が姿を見せる。
「いらっしゃい」
緊張しているのはどうやら私だけではないようだ。私を見る彼の笑顔もどことなく固く見えた。
私はぺこりと頭を下げる。
「お邪魔します」
「どうぞ入って」
塚本はドアを支えながら私を促した。
その前を通って、私は玄関に足を踏み入れた。
「これ使って」
「ありがとう」
塚本が揃えて出してくれたスリッパに足を入れてから、私は彼の前に中身ごとマイバッグを差し出した。
「これ、良かったら。たいしたものは買ってこなかったんだけど」
「え?手ぶらでいいって言ったのに。気を使わせてごめんね。でも、ありがとう」
マイバッグを受け取った彼は中身を覗き込み、嬉しそうに笑う。
「飲み物買って来てくれたの?重かったでしょ。あ、ぶどうまで?これ、うまいよね。デザートに出そう。とにかく上がって」
「はい、では失礼します」
どきどきしながら私は彼の後に着いて行った。
案内されたそこは、廊下の突き当りにある明るい部屋だった。
兄の部屋と比べて断然綺麗に片付いていることに驚き、私の口からは関心のため息と共につぶやきがもれる。
「ちゃんとしてる……」
「え?何が?」
「あ、いや、その、綺麗にしてるなと思って」
塚本は照れた顔をした。
「遠野さんが来るから、頑張って片づけたんだよ。それに俺、一応転勤族だからね。もともと、あんまり物を持たないようにしているんだ。その方が引っ越しの時、楽だからね」
「へぇ、そうなのね」
平気な顔をして相槌を打ちはしたが、心の中はざわざわとしていた。何年か後に彼が異動するとなった時、遠距離恋愛をすることになってしまうかもしれない。遠距離恋愛の先輩と言えば従妹がいる。彼女はハッピーエンドを迎えたが、自分たちの場合はどうなのかと不安が頭をよぎった。
しかし、私たちはまだ付き合い始めたばかりだと、その不安を心の奥底に仕舞い込んだ。そもそもこの交際そのものが、この後もずっと続くのかどうかさえまだ分からないのだ。数年先の未確定なことを今から不安に思うのは無意味だと、私は自分を納得させた。
「遠野さん、好きな所に座ってゆっくりしてて」
私は塚本の声で物思いから醒めて笑顔を作る。
「ありがとう。ところで何か手伝えることはない?」
「特にないかな。後は仕上げて盛り付けるくらいなんだ。だから、気にしないでゆっくりしていて」
「でも、本当に何かない?」
塚本は笑みを浮かべると、私の肩を抱いてソファに促した。
彼の手が触れたところだけが妙に熱く感じられて、どきどきする。
「テレビでも見ていて。ネットと連動させてるから、映画なんかも見られるよ」
塚本には、私に何か手伝わせるつもりはないようだ。キッチンには他人を入れたくないという人も中にはいるだろうからと思い直して、私は彼の言葉に素直に従う。
「それじゃあ、お言葉に甘えてそうさせてもらいます。だけど何かあったら声かけてね」
「あぁ、その時はお願いするよ」
塚本はにっこりと笑い、キッチンに入った。
それを見送ってから、私はテーブルの上に置かれたテレビのリモコンに手を伸ばして、早速ネットチャンネルに切り替えた。以前見逃した映画でも見ようかと検索する。
キッチンからは、カチャカチャ、トントンと、食材を調理する音が聞こえてくる。そのうちにいい匂いが漂ってきて、これはコンソメかしらと私は鼻先を動かした。
今日は塚本の部屋を訪ねる日なのだ。身内以外の男性の部屋に行くのは、生まれて初めてのことだから緊張する。
塚本からは、昼までに来てくれればいいと言われていたが、予定していた時間よりも一時間ほど早く部屋を出た。彼のマンションに向かう途中にスーパーがある。そこに立ち寄って、何かちょっとしたもの、例えば飲み物やフルーツなどを買って行こうと考えたのだ。手ぶらで来てと言われてはいたが、だからと言って、本当に何も持って行かないというのは気が引けた。
買い物かごを腕にかけて店内に足を踏み入れ、何を買おうか考えた。彼の好みをほとんど知らないことに気がついたが、ひとまず無糖の紅茶やお茶など数本のペットボトルをかごに入れた。さらに店内をうろうろと見て回り、フルーツコーナーで足を止める。食後のデザートにいいかもしれないと思いつき、自分一人のためにはまず買おうとは思わない、皮ごと食べられる大粒のぶどうを買うことにした。
かごの中身が少なくて物足りないような気もするが、今日の所はこれだけにしておこうとレジに向かった。彼は一人暮らしだ。あれこれ買って行くのは、かえって迷惑になるかもしれない。
買った物を入れたマイバッグを手にぶら下げて、私は塚本の住むマンションに向かった。エントランスに入った後は、事前に教えてもらっていた部屋を目指してエレベーターに乗る。
彼の部屋に着いた私は、まず気持ちを落ち着かせるために深呼吸をした。それからそろそろと指を伸ばして、ドアチャイムを鳴らした。
しばらく待った後、ガチャリと音がしてドアが開き、笑顔の塚本が姿を見せる。
「いらっしゃい」
緊張しているのはどうやら私だけではないようだ。私を見る彼の笑顔もどことなく固く見えた。
私はぺこりと頭を下げる。
「お邪魔します」
「どうぞ入って」
塚本はドアを支えながら私を促した。
その前を通って、私は玄関に足を踏み入れた。
「これ使って」
「ありがとう」
塚本が揃えて出してくれたスリッパに足を入れてから、私は彼の前に中身ごとマイバッグを差し出した。
「これ、良かったら。たいしたものは買ってこなかったんだけど」
「え?手ぶらでいいって言ったのに。気を使わせてごめんね。でも、ありがとう」
マイバッグを受け取った彼は中身を覗き込み、嬉しそうに笑う。
「飲み物買って来てくれたの?重かったでしょ。あ、ぶどうまで?これ、うまいよね。デザートに出そう。とにかく上がって」
「はい、では失礼します」
どきどきしながら私は彼の後に着いて行った。
案内されたそこは、廊下の突き当りにある明るい部屋だった。
兄の部屋と比べて断然綺麗に片付いていることに驚き、私の口からは関心のため息と共につぶやきがもれる。
「ちゃんとしてる……」
「え?何が?」
「あ、いや、その、綺麗にしてるなと思って」
塚本は照れた顔をした。
「遠野さんが来るから、頑張って片づけたんだよ。それに俺、一応転勤族だからね。もともと、あんまり物を持たないようにしているんだ。その方が引っ越しの時、楽だからね」
「へぇ、そうなのね」
平気な顔をして相槌を打ちはしたが、心の中はざわざわとしていた。何年か後に彼が異動するとなった時、遠距離恋愛をすることになってしまうかもしれない。遠距離恋愛の先輩と言えば従妹がいる。彼女はハッピーエンドを迎えたが、自分たちの場合はどうなのかと不安が頭をよぎった。
しかし、私たちはまだ付き合い始めたばかりだと、その不安を心の奥底に仕舞い込んだ。そもそもこの交際そのものが、この後もずっと続くのかどうかさえまだ分からないのだ。数年先の未確定なことを今から不安に思うのは無意味だと、私は自分を納得させた。
「遠野さん、好きな所に座ってゆっくりしてて」
私は塚本の声で物思いから醒めて笑顔を作る。
「ありがとう。ところで何か手伝えることはない?」
「特にないかな。後は仕上げて盛り付けるくらいなんだ。だから、気にしないでゆっくりしていて」
「でも、本当に何かない?」
塚本は笑みを浮かべると、私の肩を抱いてソファに促した。
彼の手が触れたところだけが妙に熱く感じられて、どきどきする。
「テレビでも見ていて。ネットと連動させてるから、映画なんかも見られるよ」
塚本には、私に何か手伝わせるつもりはないようだ。キッチンには他人を入れたくないという人も中にはいるだろうからと思い直して、私は彼の言葉に素直に従う。
「それじゃあ、お言葉に甘えてそうさせてもらいます。だけど何かあったら声かけてね」
「あぁ、その時はお願いするよ」
塚本はにっこりと笑い、キッチンに入った。
それを見送ってから、私はテーブルの上に置かれたテレビのリモコンに手を伸ばして、早速ネットチャンネルに切り替えた。以前見逃した映画でも見ようかと検索する。
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