2 / 4
2.
しおりを挟む彼からは、近況を知らせるメールが時々届いた。けれど遠くの大学に行ってしまった最初の年の七月七日に、電話がかかって来た。
『誕生日おめでとう』
近くに住んでいた時も、毎年忘れずに私の誕生日には祝いの言葉をかけてくれていた。しかし離れてからもそれを忘れることなく、しかもわざわざ電話をかけてきてくれたことに、ほっこりと温かい気持ちになった。
――ありがとう。
礼を言った後、なぜだかすぐには電話を切りがたくなった。そこで、どうでもいいようなことを話題に乗せる。
今年の七夕もやっぱり雨で星が見えないんだよ。
織姫と彦星は雲の上で会っているのかな。
公園の周りにもずいぶんと家が増えたよ。
来年の七夕の夜こそは晴れるといいね。
一緒に星を眺めたいね、あの時のように――。
最後の言葉に特に深い意味はなかったと、自分では思う。単純に、純粋に、そう思ったから言っただけだったはず。
私が話している間中、電話の向こうで彼がじっと耳を傾けている様子が伝わって来た。そして最後に私が口にした言葉を聞いた彼が、優しい声で短く言った。
『うん、そうだね』
たったそれだけの言葉なのに、それを聞いたら胸がどきどきし始めた。ひどく落ち着かない気分になった。
翌年からも、七月七日の夜の電話は続いた。
会話の中身は私への祝いの言葉と互いの近況くらいで、あまり変わり映えはしなかった。けれど、彼の声を耳にする度に私の心は温かくなった。毎年七夕の夜にかかってくるはずの彼からの電話を、気づけば待ちわびるようになっていた。
0
あなたにおすすめの小説
隣人の幼馴染にご飯を作るのは今日で終わり
鳥花風星
恋愛
高校二年生のひよりは、隣の家に住む幼馴染の高校三年生の蒼に片思いをしていた。蒼の両親が海外出張でいないため、ひよりは蒼のために毎日ご飯を作りに来ている。
でも、蒼とひよりにはもう一人、みさ姉という大学生の幼馴染がいた。蒼が好きなのはみさ姉だと思い、身を引くためにひよりはもうご飯を作りにこないと伝えるが……。
幼馴染の許嫁
山見月 あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。
彼は、私の許嫁だ。
___あの日までは
その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった
連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった
連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった
女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース
誰が見ても、愛らしいと思う子だった。
それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡
どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服
どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう
「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」
可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる
「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」
例のってことは、前から私のことを話していたのか。
それだけでも、ショックだった。
その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした
「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」
頭を殴られた感覚だった。
いや、それ以上だったかもしれない。
「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」
受け入れたくない。
けど、これが連の本心なんだ。
受け入れるしかない
一つだけ、わかったことがある
私は、連に
「許嫁、やめますっ」
選ばれなかったんだ…
八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。
離れて後悔するのは、あなたの方
翠月るるな
恋愛
順風満帆だったはずの凛子の人生。それがいつしか狂い始める──緩やかに、転がるように。
岡本財閥が経営する会社グループのひとつに、 医療に長けた会社があった。その中の遺伝子調査部門でコウノトリプロジェクトが始まる。
財閥の跡取り息子である岡本省吾は、いち早くそのプロジェクトを利用し、もっとも遺伝的に相性の良いとされた日和凛子を妻とした。
だが、その結婚は彼女にとって良い選択ではなかった。
結婚してから粗雑な扱いを受ける凛子。夫の省吾に見え隠れする女の気配……相手が分かっていながら、我慢する日々。
しかしそれは、一つの計画の為だった。
そう。彼女が残した最後の贈り物(プレゼント)、それを知った省吾の後悔とは──とあるプロジェクトに翻弄された人々のストーリー。
冷徹社長は幼馴染の私にだけ甘い
森本イチカ
恋愛
妹じゃなくて、女として見て欲しい。
14歳年下の凛子は幼馴染の優にずっと片想いしていた。
やっと社会人になり、社長である優と少しでも近づけたと思っていた矢先、優がお見合いをしている事を知る凛子。
女としてみて欲しくて迫るが拒まれてーー
★短編ですが長編に変更可能です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる