雨夜の七夕に

芙月みひろ

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幼馴染のあの人も、今頃は夜空を見上げているのだろうか。彼の頭上に天の川は見えているかしら?

こんな風に彼のことを思い出したのは初めてかもしれない。

声を聞くのは一年に一度きり。織姫と彦星のように一年に一度すらも会っていないのに。思い出の中の彼の顔しか知らないのに……。

記憶の中の彼の顔が瞼の裏に浮かび、胸にきゅっとした苦しさを覚えた。

その時、私に声をかける者がいた。ある人との間でだけ呼び合う愛称で。

「天の川、ここからこんなに綺麗に見えるのは何年ぶり?」

どこか聞き覚えのあるその声にどきりとした。

まさか――。

私はゆっくり振り返った。

街灯の灯りを受けてそこに立っていたのは、心に思い浮かべていた幼馴染の彼だった。

彼は私の隣に立つと、空を見上げながら言った。

「五、六年ぶりくらいかな。会うのも、雨じゃない七夕の夜も」

驚きで言葉が出ない私に、彼は控えめな笑顔を向けた。

「これから毎年七月七日の夜は、君の誕生日を祝いながら、天の川が見えるまで一緒に雨上がりを待とうか」

なぜと問うように顔を上げる私に、彼はそっと続けた。

「ずっと君が好きだった。今までなかなか言葉にする勇気が出せなかったけど、そのことを電話じゃなく直接伝えたくて、今日ここに来た」

私の手から傘が滑り落ちた。

地面の所々には、雨が残していった水たまりがある。その一つに傘が倒れた。途端にパシャっと音を立てて水しぶきがはねあがった。

会わない間に気がついて、育っていた彼へのこの気持ちが何か、この時、理解した。

私は手を伸ばして、彼の手に触れて頷いた。

彼の顔の向こう側、仰向けた視線の先では天の川が穏やかな輝きを放っていた。雨上がりのしっとりとした空気に抱かれながら、私はそっと目を閉じた。







(了)
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