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思い出のかけら
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結婚が決まり、新居も決まって、私は夫になる征司と一緒に実家に来ていた。
引っ越しのためだ。
とは言っても家具のほとんどは新調したから、私が持って行きたいものは、洋服や本、お気に入りの品々など、細かなものが大半だ。
「みちえちゃん、これはどうする?」
征司が一つの段ボール箱を指さした。
「何が入っているんだったかしら」
開けてみると、雑貨の他に、高校や大学の卒業アルバム、高校生の時にクラスで作った文集もどきの冊子などが入っていた。
「うわ、懐かしいなぁ」
クラスは違ったが、征司も私と同じ高校の出身だ。アルバムには当然、彼の写真も載っている。
征司はアルバムを取り出して、めくり始めた。
その時、紙がはらりと床に落ちた。
征司が拾い上げて私に声をかける。
「何か挟まってた」
「何かな?」
受け取ったそれは、A4サイズほどの白っぽい紙だった。
二つ折りになっていたのを開いてみたが、私はすぐにパタンと閉じる。さらに二回折りたたんで、エプロンのポケットに突っ込んだ。
征司が首を傾げた。
「何だったの?」
「な、なんでもない」
私は曖昧な笑みを浮かべながら、ふるふると首を振った。
「なんだか慌ててない?すっごく気になるんだけど。まさか、出しそびれたラブレターとかだったりして?」
からかうような征司の言葉にどきっとした。
そんな私をますます不思議そうに見て、彼は立ち上がる。
「な、なんでもないから。な、なんかね、テストの答案?みたいな?」
「へぇ、ますます見てみたいんだけど。みちえちゃん、学年成績トップクラスだったもんね。だからこその、点数悪かった時の記念とか?」
じりじりと近づいてくる征司の手から、私はエプロンのポケットを守ろうとした。
ところが、征司は急ににっこりすると、私の額にチュッとキスをした。
びっくりして私が額を抑えたその瞬間を、彼は逃さなかった。
「油断したね」
そう言って征司はにやりと笑う。指に挟んだ小さくたたまれた紙を、私の目の前でひらひらさせる。
「返してよ!」
私は伸びあがってそれを取り返そうとしたが、背の高い征司に軽くかわされてしまう。
「どれどれ。いったい何点の答案?――え?」
征司はその中身を開いてすぐに絶句し、続いて見る見るうちに真っ赤になった。
「ちょっと、みちえちゃん、これって……マジでラブレター、だったりするの?」
「あ、え、うぅんと……あはは……そう、なのかな?」
私も顔が熱くなってきた。
「これさ。あの頃もっと早くもらってたら、俺たち遠回りしなくて良かったのにね」
「でも、タイミングが合わなかったし、付き合ってる二人の間に割って入って行く勇気、私にはなかったから」
「それは俺も同じだったけどね。――それでも、ちょっとだけね、今さらだけどそう思った」
「結果オーライってことで」
「そうだね」
その頃は両片想いだった。だけど、それから数年が経ち、私たちは結婚する。
私と征司は、互いににっこりと笑って顔を見合わせた。
「――さて、と。他にみちえちゃんの秘密、見つかったりしないかな」
そう言って征司は部屋を見渡す。
「ちょっと、やめてよ。秘密なんかないし、今日の目的は引っ越しなんだからね」
「あはは。危うく本来の目的を忘れそうになったよ」
「もうっ……」
私は苦笑すると、征司の手からラブレターになり損ねた紙を奪い取り、アルバムの間に再び挟み込んだ。
「戻すの?」
「うん。これも高校時代の大事な思い出だから」
「そっか」
征司はにこっと笑った。
「さて、荷物、運び出そうか」
「今日中に終わらせたいからね。頑張ろう!」
私は腰に手を当てて、長年過ごした自分の部屋をぐるりと見回し、心の中でつぶやいた。
思い出も持って行かなきゃね――。
(了)
引っ越しのためだ。
とは言っても家具のほとんどは新調したから、私が持って行きたいものは、洋服や本、お気に入りの品々など、細かなものが大半だ。
「みちえちゃん、これはどうする?」
征司が一つの段ボール箱を指さした。
「何が入っているんだったかしら」
開けてみると、雑貨の他に、高校や大学の卒業アルバム、高校生の時にクラスで作った文集もどきの冊子などが入っていた。
「うわ、懐かしいなぁ」
クラスは違ったが、征司も私と同じ高校の出身だ。アルバムには当然、彼の写真も載っている。
征司はアルバムを取り出して、めくり始めた。
その時、紙がはらりと床に落ちた。
征司が拾い上げて私に声をかける。
「何か挟まってた」
「何かな?」
受け取ったそれは、A4サイズほどの白っぽい紙だった。
二つ折りになっていたのを開いてみたが、私はすぐにパタンと閉じる。さらに二回折りたたんで、エプロンのポケットに突っ込んだ。
征司が首を傾げた。
「何だったの?」
「な、なんでもない」
私は曖昧な笑みを浮かべながら、ふるふると首を振った。
「なんだか慌ててない?すっごく気になるんだけど。まさか、出しそびれたラブレターとかだったりして?」
からかうような征司の言葉にどきっとした。
そんな私をますます不思議そうに見て、彼は立ち上がる。
「な、なんでもないから。な、なんかね、テストの答案?みたいな?」
「へぇ、ますます見てみたいんだけど。みちえちゃん、学年成績トップクラスだったもんね。だからこその、点数悪かった時の記念とか?」
じりじりと近づいてくる征司の手から、私はエプロンのポケットを守ろうとした。
ところが、征司は急ににっこりすると、私の額にチュッとキスをした。
びっくりして私が額を抑えたその瞬間を、彼は逃さなかった。
「油断したね」
そう言って征司はにやりと笑う。指に挟んだ小さくたたまれた紙を、私の目の前でひらひらさせる。
「返してよ!」
私は伸びあがってそれを取り返そうとしたが、背の高い征司に軽くかわされてしまう。
「どれどれ。いったい何点の答案?――え?」
征司はその中身を開いてすぐに絶句し、続いて見る見るうちに真っ赤になった。
「ちょっと、みちえちゃん、これって……マジでラブレター、だったりするの?」
「あ、え、うぅんと……あはは……そう、なのかな?」
私も顔が熱くなってきた。
「これさ。あの頃もっと早くもらってたら、俺たち遠回りしなくて良かったのにね」
「でも、タイミングが合わなかったし、付き合ってる二人の間に割って入って行く勇気、私にはなかったから」
「それは俺も同じだったけどね。――それでも、ちょっとだけね、今さらだけどそう思った」
「結果オーライってことで」
「そうだね」
その頃は両片想いだった。だけど、それから数年が経ち、私たちは結婚する。
私と征司は、互いににっこりと笑って顔を見合わせた。
「――さて、と。他にみちえちゃんの秘密、見つかったりしないかな」
そう言って征司は部屋を見渡す。
「ちょっと、やめてよ。秘密なんかないし、今日の目的は引っ越しなんだからね」
「あはは。危うく本来の目的を忘れそうになったよ」
「もうっ……」
私は苦笑すると、征司の手からラブレターになり損ねた紙を奪い取り、アルバムの間に再び挟み込んだ。
「戻すの?」
「うん。これも高校時代の大事な思い出だから」
「そっか」
征司はにこっと笑った。
「さて、荷物、運び出そうか」
「今日中に終わらせたいからね。頑張ろう!」
私は腰に手を当てて、長年過ごした自分の部屋をぐるりと見回し、心の中でつぶやいた。
思い出も持って行かなきゃね――。
(了)
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