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第1章 性愛神の淫紋
第1話 病院にて
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ツンとした独特の匂いがする。
清潔な人間と消毒液の匂い――病院の空気だ。
「ん……」
啓二は目を開ける。
目の前に、人の顔があった。
「あ」
顔の主――男が、間の抜けた声を上げる。
男の顔は、褐色の肌に、紅い瞳で彩られている。スッと通った鼻筋に、やや厚い唇。艷やかな長髪は、わずかに金色を帯びた月色。結い上げてある。
麗人と呼んでもいい美貌が、啓二の鼻先にある。
「……!?」
啓二は違和感を感じ、視線を落とす。
男の長い指が、啓二の入院着を脱がそうとしている。
「うわぁぁぁぁぁぁっ!?」
叫び声が、病室に響き渡る。
啓二は反射的に脚を跳ね上げ、男を蹴ろうとした。
だがその脚を、褐色肌の男は素早く手を出してさばく。啓二の脚が、押さえられる。
「な、な……!?」
啓二は言葉を失い、うろたえる。
病室の扉が開いて、女性が飛び込んでくる。
「鳴神君!」
「うわ、ぅ…………か、課長!?」
女性は、啓二の上司だ。堕落境域警察捜査第一課のリーダーたる役職を、女だてらに勤めている。短く切った黒髪に、糸目が特徴的だ。
「鳴神君、よかった……意識が戻ったんだね」
「え、あ、はい」
「ああ、よかった……!」
課長は心底ホッとした口調で、啓二の前で顔を伏せ、上げる。
「ええと、俺は……」
「天堂ファミリーに捕まったとき、緊急信号を出しただろう。それで位置がわかった。我々はその情報をもとに倉庫に踏み込み、きみを保護した」
「そうですか……すみません、醜態を晒しました」
啓二も徐々に冷静さを取り戻す。課長に頭を下げる。
「課長……あの、この人は?」
啓二は、目の前の男を指し示す。
褐色肌の男は、啓二の脚を押さえていた手を離す。啓二から離れて、丁寧に一礼する。
「初めまして。彩雲・ソッド・紅市と申します」
男は着物をまとっている。男物の着物と羽織が、エキゾチックな美貌と調和しているから不思議だ。
「どうか私のことは、ソッドとお呼びください」
「ソッド……?」
聞き覚えのない名前だ。啓二がいぶかしんでいると、課長が口を挟む。
「ええと、彼は『紅薔薇結社』の社長さんだ」
「紅薔薇結社……あ!」
紅薔薇結社の名前を出されて、啓二はピンと来た。
天堂ファミリーを内偵するとき、ちらりと聞いた会社名だ。
「紅薔薇結社って、たしか……」
「はい。当社のメイン事業は、淫紋の研究と開発、そして販売です」
淫紋とは、人間の肌に刻み込む魔法の一種だ。刻まれた者は、性的な快感を増幅されたり、性機能を強化されたりするという。
ソッドと名乗った男は、にっこりと笑う。
「ゆえに、我々は――淫紋屋と呼ばれております」
清潔な人間と消毒液の匂い――病院の空気だ。
「ん……」
啓二は目を開ける。
目の前に、人の顔があった。
「あ」
顔の主――男が、間の抜けた声を上げる。
男の顔は、褐色の肌に、紅い瞳で彩られている。スッと通った鼻筋に、やや厚い唇。艷やかな長髪は、わずかに金色を帯びた月色。結い上げてある。
麗人と呼んでもいい美貌が、啓二の鼻先にある。
「……!?」
啓二は違和感を感じ、視線を落とす。
男の長い指が、啓二の入院着を脱がそうとしている。
「うわぁぁぁぁぁぁっ!?」
叫び声が、病室に響き渡る。
啓二は反射的に脚を跳ね上げ、男を蹴ろうとした。
だがその脚を、褐色肌の男は素早く手を出してさばく。啓二の脚が、押さえられる。
「な、な……!?」
啓二は言葉を失い、うろたえる。
病室の扉が開いて、女性が飛び込んでくる。
「鳴神君!」
「うわ、ぅ…………か、課長!?」
女性は、啓二の上司だ。堕落境域警察捜査第一課のリーダーたる役職を、女だてらに勤めている。短く切った黒髪に、糸目が特徴的だ。
「鳴神君、よかった……意識が戻ったんだね」
「え、あ、はい」
「ああ、よかった……!」
課長は心底ホッとした口調で、啓二の前で顔を伏せ、上げる。
「ええと、俺は……」
「天堂ファミリーに捕まったとき、緊急信号を出しただろう。それで位置がわかった。我々はその情報をもとに倉庫に踏み込み、きみを保護した」
「そうですか……すみません、醜態を晒しました」
啓二も徐々に冷静さを取り戻す。課長に頭を下げる。
「課長……あの、この人は?」
啓二は、目の前の男を指し示す。
褐色肌の男は、啓二の脚を押さえていた手を離す。啓二から離れて、丁寧に一礼する。
「初めまして。彩雲・ソッド・紅市と申します」
男は着物をまとっている。男物の着物と羽織が、エキゾチックな美貌と調和しているから不思議だ。
「どうか私のことは、ソッドとお呼びください」
「ソッド……?」
聞き覚えのない名前だ。啓二がいぶかしんでいると、課長が口を挟む。
「ええと、彼は『紅薔薇結社』の社長さんだ」
「紅薔薇結社……あ!」
紅薔薇結社の名前を出されて、啓二はピンと来た。
天堂ファミリーを内偵するとき、ちらりと聞いた会社名だ。
「紅薔薇結社って、たしか……」
「はい。当社のメイン事業は、淫紋の研究と開発、そして販売です」
淫紋とは、人間の肌に刻み込む魔法の一種だ。刻まれた者は、性的な快感を増幅されたり、性機能を強化されたりするという。
ソッドと名乗った男は、にっこりと笑う。
「ゆえに、我々は――淫紋屋と呼ばれております」
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