世界を救った勇者のパーティーに所属していたシーフです…

mitokami

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 この世界に、本当は魔王も勇者も存在してはいなかった。存在していたのは金と権力を求める宗教集団。自分達が設立した宗教の[神]を正しきモノにする為に必要な[悪]を他の人種に求め、人種差別を正当化する為に[勇者]と[魔王]を選出し、勇者に魔王を殺させ[平和に成った]と周囲に言い聞かせ洗脳する宗教集団だけだった。何て酷い話なのだろうか?

 宰相様は頭を抱え乍らも箝口令を敷き、大盾さんは怒りをあらわに憤りを言葉にして吐き捨てていた。酷い内容の事実を持ち込んだ僕に対しては「勝手な行動を取るんじゃない」と怒りながら「無事に帰って来て良かった」「急に居なく成るから心配したんだぞ」と、今まで殆ど言われた事の無い言葉を二人は掛けてくれている。
特に、僕を心配してくれる宰相様のオカアサンって感じの口振りに、関係資料を手に入れる為に教会に行く前の段階で、王宮の国王の寝室に立ち寄り、憤り任せで国王に悪戯仕掛けて来た事が言えなかった。

 治安の悪い場所に存在する道具屋へ行った事も、そこの従業員が勘違いした上で悪乗りして「王宮の出入り商人か?面白れぇ♪ソイツ貴族の真似して長い髪や立派な髭を蓄えてんじゃね?娼館の娘等の要望で覚えたムダ毛処理用の脱毛魔法の出番だな!」とか「首から上は、眉毛一本睫毛に至るまでツルッツルにしてから埃塗れにしてやんよ」とか言ってたから、国王の人相が僕がやったより更に変化している可能性がある事も言えなかった。
勿論、国王の部屋から高額商品を持ち出して、隠し金庫も開けっ放しにし、金と金目の物を持ち出したので、現在、国王が夜逃げしたっぽく成っている事も言ってない。如何しよう?言うべきか…言わざるべきか…って…、ま、いっか、王宮騎士のプレートアーマーをフル装備してたから、国王にも顔を見せてないし、名乗ってもいないし…、犯人が僕である証拠は残して来なかった筈だから…大丈夫だろう……。

 こうして僕は口を閉ざし、体調不良の魔法使いの様子を見に行くと言う名目を盾にして、その場を離れた。

 因みに、僕が留守の間に魔法使いは、部屋を移動していたらしい。今、魔法使いが療養しているのは、嘗て、宰相様宅の御抱えの薬師が住んでいた部屋だとか言う宰相様の邸宅の南側、最上階の一室。屋上テラスを改造した場所。鉢植えが並ぶガラス張りの温室に、ガラス張りの扉で繋がった部屋だ。

 魔女と言う種族は、奥深い森の中に住居を構える習性がある。と言う事で、宰相の奥様が選んだ部屋だそうだ。
室内は、可愛らしい森の小動物の縫い包みが幾つも飾られ、淡いピンク色の布地に白いレース、金や銀の刺繍が入ったピンクや白いのリボンが至る所に飾られている。部屋がとってもファンシーで愛らしい事に成っているのは、女の子が欲しかった宰相の奥様の夢と希望の結晶なのだそうだ。拒否権は無い。と、同じ様な部屋を与えられ、強引に着飾らされたらしき僧侶さんも言っていた。

 だから、途轍も無くメルヘンチックな天蓋付きのベットで眠る魔法使いも、室内同様に少女趣味全開のネグリジェへと着せ替えられ大人しく寝転がっている。僧侶に魔法で回復して貰った筈なのに、魔法使いの目が死んでいるのが気に成る所だ。

「えぇ~っと、その、何だ…大丈夫か?」
「何が?」
魔法使いに声を掛けてみたら、寝転がったまま起き上がる事も無く一瞬だけ視線を僕に向け、不機嫌そうに答えてくれた。普段から男装しているくらいだから、少女趣味なのが御気に召さないのかもしれない。

「体調は如何だろうか?」
義賊オマエには良さ気に見えているのか?」
魔法使いの低音ボイスで場が凍り付いた。
「…だよね……」
回復ポーション系の副作用や毒の後遺症は、僧侶の魔法でも完治は難しい。それは常識の範囲で知っていたけれども、魔法使いよ!もうちょっと相手を思いやった返答はデキナイモノだろうか?素直なのは美徳だが、正直過ぎるのも如何なモノか?と、僕は思う。
本気で魔法使いには、近い内にでも社交辞令ってのを覚えて頂きたい!が、まだまだ魔法使いの顔色は悪い。今は、喋れる程度に回復してるので、それで良しとしておこう。

「で?何か用か?」
機嫌が、態度と声色に出過ぎていて辛い。
今、僕が抱えている酷い真実[神殿の嘘]を魔法使いと共有し、そこから生まれた憤りを魔法使いに共感して貰う事は可能だろうが、その酷い話で魔法使いが抱える事に成るであろう気持ちを考えると話す事は出来なかった。
魔法使いに対して人質に取られた者達は、如何足掻いても…もう戻らないのだから……。

 今日、今現在の魔法使いの顔や表情を見るまで、言いたい事は沢山あった。嘆き悲しんでいたら、慰めたいと思っていた。
今回、本当に普通に想定外な我慢も存在するが、今の全てを飲み込んで我慢している魔法使いの様子を見ていたら、如何して良いか分からなく成ってしまった。この場には、魔法使いだけでなく、何も知らないであろう僧侶さんも居る。僕は知らぬが仏と言う言葉も知っている。多少の気遣いは出来ない事も無い筈だ。

 僕は言葉を選んで探して「僕のは取り返して貰ったのに…ゴメン…、魔法使いの大切な人達の形見に成る様なモノ…見付けられなかった……」とだけ伝えた。
魔法使いは一瞬戸惑いを見せ「すまない…気を遣わせたな……」と余計に表情を暗くする。そんな表情をさせたい訳じゃない。けど、困った。如何したら良いんだろう?
どうやら僕は、思っていたより不器用で、余計な事しかできないみたいだった。嫌に成る。

「何か食べたい物はある?」
「無い」
「欲しい物は?」
「一人の時間」
「…出て行けと?」
僕が魔法使いと話していると僧侶が「一人は駄目ですよ!宰相様から魔法使いさんを見守れって言われてますもん、一瞬でも一人にしたりしませんよ」と口出しして来た。

 多分、魔法使いの精神面を考慮し、心配した上で、万が一にも後追い自殺をさせてしまわない様にする為の処置なのだろう。が、しかし…僧侶さん…、それを一般的に[見守る]とは言いません…、それでは[監視]です……。
部屋の隅に居るのに威圧感があるなぁ~とは思っていたけど、僧侶さん、旅してた頃と同様に使命感持ち過ぎていらっしゃる御様子だ。このままでは、僧侶も魔法使いも気疲れするだけで、何も良い事は無い気がする。

 僕は、僧侶に休憩を取るように勧め、僧侶に代わって僕が魔法使いの部屋に陣取る事にした。魔法使いに思いっきり溜息を吐かれたが気にしない。
「なぁ~魔法使い、子守歌でも歌ってやろうか?」
「何の嫌がらせだよ!」
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