ふくしゅうはじめました

entrance road

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　軍事大国に名を連ね、日本が戦争に参戦していた明治・大正・昭和の時代。その原型が普通の商売から仕分けられ…、敗戦後直ぐの昭和の時代、政治家が考える統制から外れた独自市場に[非合法である]と言う大義名分たいぎめいぶんが立てられ…、存在する事を否定し、公的に禁止された通称[闇市]と呼ばれる青空市場や地下市場……。
敗戦後、暫しばらくしてからの昭和の時代。その[闇市]を解散させる為に行われた区画整備に寄り建造された動物園・植物園・図書館・美術館等の公共施設。

　そんな公共施設の周囲には、そんな歴史の名残なごりを残す場所が、時より場所に寄り残っている。

　とある大都市の中に在る広大な土地。何故か取り残され近代化が遅れた昭和レトロな地域。駅から少し離れ、駅の徒歩圏内に存在する動物園や植物園。その裏側に存在する大木が育つ大きな花壇と道路から隔離され綺麗に舗装された歩道に、令和と成った現代にも闇市の名残は存在し続けていた。

　道路、歩道、大きな背の高い花壇、歩道、公共施設。訳あって道路を広げず…訳あって歩道も広げられずに存在する…とある場所……。闇市の名残は、内側の歩道で勝手に広げられた露店。
年季の入った木箱の上に並ぶ露店の商品は、見るからに古いアンティークやヴィンテージと言えなくもない物、レトロな中古品、何処かでゴミとして出されたであろう不要品であろう物。その物は何時いつか何処どこかでゴミとして出されたか、誰かの不要と成った物であろうが…、幾いくつかの商品に付いては何故なぜ[その露店]に並んでいるのか？その商品を何所で手に入れる事が出来たのか？熟慮じゅくりょすると深みに嵌はまる摩訶まか不思議な物も一緒に並んでいたりする……。

　年老いた露店商が露店に並べられた商品と同じく古ぼけた衣服を纏まとい、今日も昼過ぎ頃から店を開いていた。一日どれくらいの客が来ているのか？知る人ぞ知る世界だが、露店は以外と夜遅くまで開かれているらしい。

　ある日、暗い表情をした何処かの誰かが、そんな露店の前で足を止める。欲しい商品でもあったのだろうか？それとも、隅すみっこに掲かかげられた焼き板製の看板を目にして足を止めたのだろうか？真相は知る人ぞ知る。
因みに、看板の方には黄色い文字、日本語で[予習、ふくしゅうを手伝います]と書かれている。その言葉の周囲には文様の様な赤い文字、色々な言語が軒を連ね、英語では[What is needed？(何が必要ですか？)]と[｜What are you looking for？(何を求めますか？)]と成っていて、他の言語でもソレっぽい事が書かれているみたいだった。

　足を止めた何処かの誰かに向かって、露店の店主は看板の方を指してカタコトで「ベンキョウシマスヨ」と言って薄笑いを浮かべる。
その「ベンキョウシマスヨ」と言う言葉の意味が普通に[勉強]を指すのか？方言的なアレで[値引きを考えますよ]と言う意味なのか？は、何をしている何処の誰なのか？どの様な種類の御客様なのかで変化するのであろう。
露店の店主は令和の時代と成った今でも、昭和の時代の頃と変わらずに同じ様な場所で店を出し、多種多様で色々なモノを売っていた。

　その店にて、見掛けの年齢性別が迷子に成った者、生まれ持った肉体は女性である筈の者が[予習、ふくしゅうを手伝います]と書かれた看板を出している。その者は名を問われると「しらん」と答え、シランと呼ばれていた。
そして今日も、自らが選び取った仕事が無い限り、木の上から通行人を眺め、客を物色している事だろう。