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001 始まりの日々
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・・・今から、僕の最初から終わっていた初恋の話をしよう。・・・
僕と彼女が最初に出会ったのは、淡く優しい色合いの壁に、綺麗な色画用紙を切って貼って作った3色のチューリップと、名も無き色取り取りの花や黄色い蝶にテントウ虫、2本足で立つピンク色の兎とオレンジ色い猫、茶色い垂れ耳の犬、緑色の蛙が飾られた大部屋の中だった。
大きなオナカを抱えて毎日、僕の為に頑張ってくれていた[母さん]に会えない日を経て…、不安で泣きそうになった日……。
裸足で、病院から貸し出される水色の寝間着を着たままの母さんが「椋!」と僕の名を呼び部屋に駆け込んで来て、当時、まだ生まれて何日も経たない赤ちゃんだった僕の妹[楓]を僕に見せてくれ「寂しい思いをさせてゴメンね!でも、もう大丈夫だから…」と言った日の事を[愛せなくなった今]でも、僕はハッキリと覚えている。
[楓]は、産まれ出る前から僕にとっての救いだった。
僕の病気の所為で疲弊して行く母さん…、そのオナカの中に新しい命が芽生えた事が発覚した日……。僕は、物心が付いてから初めて母さんの本当の笑顔を見る事が出来たんじゃないか?と思う。あの頃…、僕が気付けなかった[歪み]と、その[心の内に秘められた思想]は別として…、僕も母さんと同じくらい、彼女の誕生が待ち遠しく…、初めて出会った時、僕は本当に嬉しくなったんだ……。
僕は当時、総合病院の小児科に入院していた。母さんが出産の為に入院した産婦人科は違う階にあり、本当は行き来しては駄目だったらしい。でも、母さんは僕に妹の誕生を知らせたくて、我が子が手元にやって来る授乳時間を[これ幸い]と思って授乳を後回しにして連れ出し、僕の元へ[楓]を連れて来てくれたのだった。
その後、間もなくして母さんは僕の目の前で、追い掛けて来た医師・看護師達から怒られたのは言うまでも無い。僕も「ボクのイモウトのオナカをスかせてたままにしたの?ヒドイよ!」と非難したと思う。
その経験もあったからだろう…母さんは僕の事は勿論…、僕の妹の事も過保護過ぎる程に過保護に育てていた……。
それにしても、今、思えば、あの時代が一番、家族円満で、希望に満ち溢れていて、もしかしたら一番、幸せだったかもしれない。
何故か兄弟姉妹の多い子が比較的に多く入院する病室、似て非なる同じ様な解決策がある病を患う子が比較的多く集められたのであろう大部屋の中、どれくらいの割合の家族が、僕の家と同じ理由で、子供の数を予定より増やしていた事であろうか?
保護者や、医師看護師に張り付いた笑顔。[先に死ぬ子が自分の子の救いになるかもしれない]と期待する笑顔。同じ病と知った時に見せる失望を隠す為の笑顔。その場を取り繕う為の笑顔。医師看護師の動きの少ない笑顔。笑顔に溢れた病室。
現在を諦め、存在するか分からない未来に希望を託す、可愛らしいパジャマを着て天使の絵本を抱え「イツかハネをモラえる」「生まれ変わったら…」と口にする夢見がちな少女。サイズの合うスーツを着た親の言葉を耳にし[壊れていない人間の部品]を「イらなくなったらチョウダイ」と無邪気に言う少年。中には「退院したくない。ラーメン屋とかで、小皿に入れた塩を舐めて待たされる生活に戻りたくない!」と訴える煙草臭いヘラヘラ笑っている両親を持つ子や、親と同じ硬い愛想笑いを浮かべ、入院する度に違う場所に痣を持つ無口な子。
時に、入院する事に慣れていなくて、周囲と空気が合わず「家に帰りたい」と繰り返し、逃げ出そうとする子も居たけど…、子供だった当時の僕は、同じ長期の入院患者である子等の持つ[違う世界]を覗き見て…、僕の家族は大丈夫だと信じ、両親を困らせない為に、その世界で波風を立てず、大人しく過ごしていた……。
時が経つと、代替わりして行くベットの住人達。退院でも…転院でも…死んでも…同じ様に淡々と清掃員が片付け、次の患者の為の準備をする光景……。映画やドラマの様に病室で生死を他の患者に聞こえる声で確認したりはしない。大袈裟な演出の無い静かな日々。
「今まで仲良くしてくれてありがとう」が、病室に残される者に対して、深く濃く影を落とす場所が、僕の幼少時代の日常だった。
僕と彼女が最初に出会ったのは、淡く優しい色合いの壁に、綺麗な色画用紙を切って貼って作った3色のチューリップと、名も無き色取り取りの花や黄色い蝶にテントウ虫、2本足で立つピンク色の兎とオレンジ色い猫、茶色い垂れ耳の犬、緑色の蛙が飾られた大部屋の中だった。
大きなオナカを抱えて毎日、僕の為に頑張ってくれていた[母さん]に会えない日を経て…、不安で泣きそうになった日……。
裸足で、病院から貸し出される水色の寝間着を着たままの母さんが「椋!」と僕の名を呼び部屋に駆け込んで来て、当時、まだ生まれて何日も経たない赤ちゃんだった僕の妹[楓]を僕に見せてくれ「寂しい思いをさせてゴメンね!でも、もう大丈夫だから…」と言った日の事を[愛せなくなった今]でも、僕はハッキリと覚えている。
[楓]は、産まれ出る前から僕にとっての救いだった。
僕の病気の所為で疲弊して行く母さん…、そのオナカの中に新しい命が芽生えた事が発覚した日……。僕は、物心が付いてから初めて母さんの本当の笑顔を見る事が出来たんじゃないか?と思う。あの頃…、僕が気付けなかった[歪み]と、その[心の内に秘められた思想]は別として…、僕も母さんと同じくらい、彼女の誕生が待ち遠しく…、初めて出会った時、僕は本当に嬉しくなったんだ……。
僕は当時、総合病院の小児科に入院していた。母さんが出産の為に入院した産婦人科は違う階にあり、本当は行き来しては駄目だったらしい。でも、母さんは僕に妹の誕生を知らせたくて、我が子が手元にやって来る授乳時間を[これ幸い]と思って授乳を後回しにして連れ出し、僕の元へ[楓]を連れて来てくれたのだった。
その後、間もなくして母さんは僕の目の前で、追い掛けて来た医師・看護師達から怒られたのは言うまでも無い。僕も「ボクのイモウトのオナカをスかせてたままにしたの?ヒドイよ!」と非難したと思う。
その経験もあったからだろう…母さんは僕の事は勿論…、僕の妹の事も過保護過ぎる程に過保護に育てていた……。
それにしても、今、思えば、あの時代が一番、家族円満で、希望に満ち溢れていて、もしかしたら一番、幸せだったかもしれない。
何故か兄弟姉妹の多い子が比較的に多く入院する病室、似て非なる同じ様な解決策がある病を患う子が比較的多く集められたのであろう大部屋の中、どれくらいの割合の家族が、僕の家と同じ理由で、子供の数を予定より増やしていた事であろうか?
保護者や、医師看護師に張り付いた笑顔。[先に死ぬ子が自分の子の救いになるかもしれない]と期待する笑顔。同じ病と知った時に見せる失望を隠す為の笑顔。その場を取り繕う為の笑顔。医師看護師の動きの少ない笑顔。笑顔に溢れた病室。
現在を諦め、存在するか分からない未来に希望を託す、可愛らしいパジャマを着て天使の絵本を抱え「イツかハネをモラえる」「生まれ変わったら…」と口にする夢見がちな少女。サイズの合うスーツを着た親の言葉を耳にし[壊れていない人間の部品]を「イらなくなったらチョウダイ」と無邪気に言う少年。中には「退院したくない。ラーメン屋とかで、小皿に入れた塩を舐めて待たされる生活に戻りたくない!」と訴える煙草臭いヘラヘラ笑っている両親を持つ子や、親と同じ硬い愛想笑いを浮かべ、入院する度に違う場所に痣を持つ無口な子。
時に、入院する事に慣れていなくて、周囲と空気が合わず「家に帰りたい」と繰り返し、逃げ出そうとする子も居たけど…、子供だった当時の僕は、同じ長期の入院患者である子等の持つ[違う世界]を覗き見て…、僕の家族は大丈夫だと信じ、両親を困らせない為に、その世界で波風を立てず、大人しく過ごしていた……。
時が経つと、代替わりして行くベットの住人達。退院でも…転院でも…死んでも…同じ様に淡々と清掃員が片付け、次の患者の為の準備をする光景……。映画やドラマの様に病室で生死を他の患者に聞こえる声で確認したりはしない。大袈裟な演出の無い静かな日々。
「今まで仲良くしてくれてありがとう」が、病室に残される者に対して、深く濃く影を落とす場所が、僕の幼少時代の日常だった。
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