砂の城の姫君は…

mitokami

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006 僕の砂の城の姫君は…

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 僕の楓は、死ぬ前に自らの死期を察知していたのかもしれない。もしくは、僕がかつて口にした[この日本と言う国の臓器提供を死体損壊扱いで否定する風土に対する不満]を覚えていたから、なのかもしれない。
楓は、僕と離ればなれに成った後、数日後には入院生活を送る事と成り…、生きている内から「私の[心臓]を譲り渡す相手は、若くて可愛い女の子でなくちゃ駄目なの!」と言い切り…、何時の間にか、もしもの時の提供先を決めていて…「優先順位とか知らない!譲る相手の最低条件を自分で選べないとか有り得ない!!」と「もしも、自業自得で体を壊したおっさんに私の[心臓]が移植される事に成ったら、絶対に嫌!死んでも死にきれない!」と産みの母親張りに癇癪起して喚き散らし…、その騒動で母子家庭である女の子の母親と父親を引き合わせ…、楓の激しい[押し]で家族に成り…、偶然なのか?運命なのか?レシピエントに大きな不都合も無く、楓は腎臓を患ってはいたけれども…自分が選んだ女の子に[心臓]を譲れたらしい……。

 楓の死を改めて知り、目的までも見失い。途方に暮れた僕は父と連絡先だけは交換して、「明日、仕事があるから…」と父親の新しい家族との出会いをやんわりと拒絶し、幼少の頃に好きに成れなかった作り笑顔の重要性、人間関係を酷い物にしない為の実用性を実感しながら笑顔を作って別れた。それから…父に教えて貰った楓の墓の場所へ…、あの女から唯一必死で護り、何度か捨てられ掛けても取り返してきた想い出の品…楓から貰ってからずっと持ち歩いていたシーグラスと共に向かう……。そして、途中で見付けた花屋で、記憶の中に生きる楓が好きだった原色の色を持つ花を買い。墓標に供える。
その場所は、想い出の海を見下ろす崖の上に隠れた墓地。そこから少し乗り出せば…、海に飲まれて無くなった海水浴場跡地と…、更に離れた場所には砂浜が見えた。僕は興味を引かれて、その場所に向かう。

 行き着いた先は、墓地から見た印象より遠く、砂浜は思ったよりも大きかった。でも、子供の頃に見た様な光景が僕を魅了する。浜釣りを楽しむ親子…、我が家では僕の病気の所為で有り得なかった憧れた家族の姿…、釣りに飽きた子供達が砂浜で山や城、色々な造形物を作り上げる光景…、想い出と重なり切なくなり、泣きたくなって…、僕は独り寂しく、一人暮らしを始めた家に帰った。

 その数日後、楓が選んだ女の子がシーグラスを持って、僕の生活圏に姿を現す。彼女は写真の中の面影を残して、綺麗に成長し、高校生に成っていた。
「小学生の時に生き別れた妹が居る」と、僕が仲の良い同僚に話していたが為に、彼女は誰に咎められる事無く、仕事中、僕が仕事をしている場所に来てしまったのだ。
僕の事を楓から聞いて知っていたであろう彼女は、まるで楓の様に振る舞い。僕を「お兄ちゃん」と呼び「会いたかった」と言って「私、高校生に成ったのw」と嬉しそうにクルリと一回転して制服を僕に見せてくれる。僕は同じ部署の先輩後輩にまでも冷やかされ…、上司の配慮で半休を取る事に成った……。

 彼女は、僕が記憶する楓が、高校生に成れていたとしたら、こうなるであろうと思える話し方をし、行動も相違なく違和感も感じない。僕の楓が、もう[この世に存在しない]と先に知っていなければ、僕は彼女を[僕の唯一無二の妹である楓]だと勘違いする所だったかもしれない。

・・・でも、果たして、本当に彼女は[楓]では無いのだろうか?・・・

 僕はTVで見た、不思議な話を思い出して立ち止まる。
移植を受けた者が、見ず知らずのドナーのアレルギー疾患やら、食べ物の好みやら、ちょっとした性格等までもを受け継いだと言う話を観た覚えがある。楓も同じTVを目にしたかもしれない。僕は頭の中でちょっとした連想ゲームをし、楓は心臓…心や思いを残したくて…、彼女を選んだのか?と言う思いに辿り着いたのだ……。

 彼女は僕の手を引き、嬉しそうに何度も振り返り僕に微笑み掛ける。気の所為なのかもしれないが、今、現在、僕の目の前には、僕が求め続けていた楓の本当の笑顔が有る様な気がする。
僕は父と再会した日、父から受け継いぎ、財布に入れたままの…、古びた[貰った駄菓子を自慢する様に掲げる子供の頃の僕と楓と砂の城]の写真の中に存在する楓の笑顔を思い出し…、あの砂の城と同じ様に…崩れ去り、消え去るかもしれない幻想を胸に…、彼女との時を過ごした……。
本当に楽しい一時だったけど、彼女の母親と出会い。彼女の母親の[我が子には、遺伝する様な持病を持っていない人と出会い。幸せに成って欲しい。]と言う。先の未来の幸せを願う願いを聞き入れる事に成る。
僕との距離感が異様に近い彼女が、僕に恋しているかどうかは知らないけど…、僕は僕の心が、彼女をそう言う対象に入れてしまう前に立ち去る事を選んだ。

・・・僕の楓は、彼女の一部として生きていたのだ。もう、それで良い。・・・

 僕は彼女の御陰で祖父とも再会した。祖母はもう、亡くなっていたが…祖母は祖父と共に、僕の事をとても心配してくれていたと言う……。僕は、その思いに付け込み、祖父の養子になった。産みの母親への縁を出来るだけ断ち切りたかったからだ。
これで僕も楓と同じ様に、最期の[その後]に、何か残せるかもしれない。持病持ちの僕の欠片が、誰かの役に立ち、一緒に便乗して生きられる代物かどうかは分からないが…未来への可能性は残せたと信じて、今まで[あの女]の妨害で希望が打ち砕かれる可能性を考え記入できなかった保険証の裏に[その願い]を書き足す……。

 若しかしたら、この願いも…、砂の城の様に、母なる何とかに掻き消されうかもしれないけれど…、与える相手を選べないから、願いの中に潜む馬鹿げた願いが叶うか分からないけれど…、それでも構わない…と、僕は思う……。これは、子孫を残せなかった楓と、残すつもりがない僕が、未来に残せる架け橋。
もしも、願いが叶うならば…、僕の欠片が命を繋ぎ、楓が繋いだ命と、遠い未来にでも出会い…幸せに成って欲しい…と僕は願う……。

 僕は、彼女の母の要望を叶える為…、手始めに転職し、引っ越す事で…、彼女との繋がり切り…、海の見える場所で新しい生活を始める……。テーブルの上には、彼女の手により舞い戻った楓から貰ったシーグラスと砂の城と桜貝をモチーフにして作られたレジンの置物。家族を求めてしまわぬ為のいましめとして、楓から貰った物と楓が趣味で作った物を形見分けで譲って貰い置いていた。

 生活が落ち着き、心の整理もある程度片付いたと実感できる日常を手に入れたとある夏の日。
忙しさに撲殺され、うっすら埃を被る様に成ってしまった置物に触れると「また、イッショにツクろうねw」幼き日の楓の声が聞こえて来た気がした。続いてインターホンの鳴る音。僕は一瞬、ビクッと反応してから、置物を拾い上げ軽く返事をし、そのまま玄関に向かう。

 扉を開けると心地よい潮風が部屋を満たし、真っ白なワンピースを着て麦わら帽子を被った誰かが微笑んでいた。

 …Resume from continuation…

驚きを隠せない彼に、私は微笑み掛ける。私、諦めるつもり無いんですよw
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