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010.5

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 私が学園に入学するほんの少し前の出来事。寮へ連れて行ける傍仕えの数の少なさに不満を持って、入寮の日に学園長へ交渉に出向いていたら、東の辺境伯が私と学園長の話に「私に良い提案がありますよ」と割って入って来た。

 時として有事の際、公爵家を凌ぐ権力を行使できる辺境伯と言えども、所詮は貴族。妾が産んだとは言え、王女である私[オーブ・ファス・シュッドゥ]に恩を売りたい御様子だ。
然も本人に了承を得る気も無いようで「私の姪と同じ寮室なら、護衛用も使用人用の部屋も余っています、アレは護衛は勿論、使用人も必要とはしませんから話しておきましょう」と勝手な事を言い出した。
まぁ、良いだろう。東の辺境伯の姪御さんには気の毒だが、御言葉に甘えさせて貰ってやろう。と思ったのは数刻前。

 引っ越した先、学園の寮室で初めて出会った東の辺境伯の姪[ガルディア・エストゥ]は同じ年齢の筈なのに、ぱっと見が小さな女の子。「大丈夫です、問題ありません」と言った表情は淡々としていて、(前世持ちのガルディアの前世は大人な故に…)不相応な大人びた雰囲気。表面上の野生の小動物の様な可愛らしさの中に、目にした不審者を躊躇なく仕留めてみせる狼や野犬の様な獰猛さもある不思議な娘だった。

 物珍しさに気を引かれ暫く観察していたら、ガルディアの事も然る事乍ら、ガルディアが連れ歩いているスライムの事が妙に気に成った。
私の可愛い傍仕え達に基本危害を加える事無く、不届き者を成敗し、罪状を紙に記して荒縄で縄で縛り、寮室の窓の外の木に幾度となく吊り下げてくれたのだ。ガルディアが連れている透明度の高い乳白色に水色や薄紫の輝きを垣間見せる見た事も無いスライムが、だ!私や私の傍仕え達のスライムに対する認識が書き換わったのは言うまでもない。確かにこれなら、ガルディアに護衛は必要でないだろう。

 私は、そう気付いた時からガルディアとガルディアのスライムの観察記録を付けるように皆へ伝え、自身でも記録している。
こうして傍仕え達も総出で観察した結果。時々、ガルディアのスライムの中から同じ様に透明度の高い赤・青・緑、時には宙に舞う白く丸いふわふわしたケサランパサラン、青白い光を放って浮遊する球体ウィルオウィスプ、荒野でコロコロ転がっている枯れ草の塊みたいなタンブルウィードが出たり入ったりしている事が発覚する。全部が全部、意思を持った生き物なのであろうか?謎が謎を呼ぶ。

 時にガルディアは…青いスライムが出した水をフラスコへ、フラスコを赤いスライムの上に置いて湯を沸かし、フラスコで茶を煎じ、ビーカーで飲んでいたり…、タンブルウィードに果物を預け…ドライフルーツにして食べているも見掛け…、赤いスライムに、コーヒー豆やナッツを焙煎させたりしている事も判明……。緑のスライムに薬草の管理をさせ、ケサランパサランは何をしているのか分からないけれど、ウィルオウィスプは照明器具として大活躍。ガルディアの生活環境は傍仕えが居なくても、それなりに充実している様だ。

 ガルディアは、ガルディアのスライム本体である透明度の高い乳白色のスライムが発する高音域の声(?)と会話し、透明度の高い乳白色のスライムに包まれ眠る。透明度の高い乳白色のスライムの上で本を読み、時々、寮での食事を食べそこねたとかで、パッサパサのビスケット、ナッツやドライフルーツと水や御茶だけの食事をしているのも、よく考えてみれば結構頻繁に見掛けている気がする。私達は、ガルディアの食生活と健康が気に成り、ガルディアを新鮮な野菜や果物、鮮度の良い肉を使った軽食、甘いデザートで餌付けしてみる事にした。

 続いて頻繁に見掛けるのは、乳白色のスライムが箒に塵取りを使った掃き掃除をしている所、モップ掛けに雑巾代わりの黒いスライムを使った窓拭き等の拭き掃除、盥に水を張り洗濯板を使って洗濯をしているのも見掛ける。青いスライムと赤いスライムが衣服やシーツにアイロン掛けをしているのだって何時もの事。掃除や洗濯の手は必要無さそうだ。と判断する。

 こうやって観察していて気付いたのだが…ガルディアは…、保護者から仕送りを受けていないのだろうか?と言う事……。(←受けてますよ!断罪された時の事を考えて貯蓄もしてるのです)学園の図書室を皮切りに本の修復を担い、御小遣い稼ぎをしている事が発覚した。スライム達と一緒に和紙と言う物を作る為に紙漉きと言うのをして透ける様な薄い紙を生成、それを使って古書の表紙やページの全てを修繕と保全、和綴じと言う製法で全体を補修している。
補修済みの本を調べると衆道…、戦場での男達の男同士の嗜みが描かれた小説や絵本の様な物までもを修復し、どうやらその手の本だけ自分用に写本している御様子。(BL普及の為、自分が描いた作品を古いメモ帳に書き写し、補修を掛けた様な偽装を施し、返却時にそんな薄い本を紛れ込ませた事が、誤解されただけです)
この結果に私達は、ガルディアが本で釣れる可能性を示唆する。ガルディアが読んだ事が無さそうな本を公爵家の蔵書からピックアップして持ち出し、見せて釣れた事から、私[オーブ・ファス・シュッドゥ]は、ガルディアに自分の事を呼び捨てでオーブと呼ばせ、私はガルディアをガルちゃんっと呼べる関係を作る事に成功したのだ。この手段で、これからももっと仲良く成って行こうと思った。

 そうこうやって努力していた結果、最近ではガルちゃんの趣味や好み、習性もしっかり把握し、今ではガルちゃんの交友関係も私の思う侭にできる程と成っている。本当は、ガルちゃんを私のハーレムに入れて連れ帰りたいのだけれど、もう直ぐ北の辺境伯と成るガルちゃんの婚約者のファレーズ・フォン・ノールと次期東の辺境伯ガルちゃんの従弟であるチュテレール・エストゥが噛み付いて来そうなので、時々、ガルちゃんの頭を撫でたり、本や御菓子で釣って御膝にのせて可愛がったりして我慢する程度に留めている。彼等に羨ましがられるのも吝かではない。寧ろ御褒美ですわね!良きに計らいなさいな!と言うのが、最近の私の学園生活の大半を占めている気がしますわ。
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